THAIBIZ No.149 2024年5月発行総合商社の成長戦略
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公開日 2024.05.10
目次
丸紅は、昨年10月にタイ証券取引所(SET)上場の大手コスメブランド企業である「Karmarts社」の第三者割当増資を、タイの投資会社であるQuadriga Private Equity Co., Ltd.(以下、Quadriga社)とのコンソーシアムにて引き受け、出資参画したことを発表した。当該コンソーシアムの出資比率は20%(丸紅18%、Quadriga社2%)だ。
Karmarts社へは、どのような経緯で出資に至ったのだろうか。再び日高社長に話を聞いた。
丸紅では、伝統的に商品所管ごとにいくつかの営業本部に分かれているが、中にはカバーできていない領域があったという。2019年、それらの領域を積極的に推進し2030年以降大きく成長していく事業領域を捉えることを目的に設立されたのが「次世代事業開発本部」だ。現在同本部では「ヘルスケア・メディカル、次世代社会基盤、ウェルネス」の3つの成長領域と、それらには属さないものの高成長が見込める領域を探索・開発する組織を設定して事業開発を行っている。
ウェルネス領域においては、ビューティー関連分野での成長事業を追求しており、すでに丸紅ではドラッグ&コスメティックストア「AINZ&TULPE(アインズ&トルペ)」のアジア展開をはじめ、日本のコスメブランド「OSAJI(オサジ)」にも出資し、事業提携、資本連携を推進している。
今回の出資についても提携先をタイだけに絞って探していたわけではなかったというが、「ASEANを見た時にタイは欧米の多くの化粧品企業が生産拠点を置き、域内で最大の化粧品輸出国でもあるという統計がある。さらにビューティー意識の高い市場だ。そこで、タイで可能性のある化粧品企業各社と交渉を進める中で、最終的にKarmarts社と提携するに至った」という。
Karmarts社は、2012年に化粧品事業に参入した新進気鋭の大手コスメブランド企業で、「Cathy Doll」をはじめとした人気ブランドを展開し、順調に売上を伸ばしている。上場企業ではあるが、創業家を中心としたオーナー企業で、出資を受け入れてもらうまで一筋縄ではいかなかったという。「彼らからしたら、外国企業に会社が乗っ取られてしまうかもしれないという思いが少なからずあったのだろう」と日高社長は推察する。
その時にKarmarts社と丸紅の間をうまく取り持ってくれたのが、今回コンソーシアムを組んで一緒に出資を行なったQuadriga社だった。Quadriga社はKarmarts社に対して、「内需だけに頼ると将来的な発展が見込めないこと」と、「丸紅はKarmarts社と一緒に海外市場を開拓したい考えであること」を伝えた上で、丸紅が持つグローバルネットワークと知見を最大限に活かすことを約束し、丸紅と資本提携をするメリットをうまく説明したことで最終的に出資を受け入れてもらうことができたという。
文化や商習慣の異なる国際間の事業提携や資本提携においては、今回の丸紅とQuadriga社のように、その土地のことをよく理解した正しいパートナーを選ぶことや現地のネットワーク構築がいかに重要か、改めて認識させられる。
今回のKarmarts社への出資は、丸紅にとっても「数少ない成功例」だと日高社長は続ける。というのも丸紅がKarmarts社に出資してから株価が大きく上昇しているからだ。これは、「第三者割当増資による、外資である丸紅とのシナジーを通じて、事業成長と企業価値の向上を投資家が見込んだからこそ、株価にもプラスに作用したのではないか」と推測し、「今回のケースが象徴的な投資例となれば幸いだ」と期待を示した。
Karmarts社は、ラオスやカンボジア、インドの一部にはすでに展開していたが、今回の丸紅との事業提携により、ASEAN市場への本格参入に動き出している。今後の成長市場として、まずはベトナムとインドネシアの市場をターゲットに定め、現在すでに市場調査をはじめているという。日高社長は、「Karmarts社が海外進出する際には、丸紅のグローバルネットワークとノウハウを活用していく」との考えを示した。
事業拡大においては、両者が持つネットワークと資金力を投じて、同業のコスメ産業のロールアップ買収も計画しているという。丸紅のKarmarts社への出資は、タイを中心としたASEAN市場への拡大を目指すものだが、日本のコスメ市場にも波及効果があったそうだ。
「出資のプレスリリースを出した直後に日本のあるメーカーがASEAN進出に興味を示し、丸紅との提携を希望する問い合わせがあった」といい、業界内、特に成長するASEAN市場を視野に入れている企業にとってはインパクトのあるニュースだったに違いない。
今回のKarmarts社との業務提携により、当然丸紅側にも好循環が生まれることになる。丸紅の次世代事業開発本部のウェルネス領域においては、日本およびアジアの次世代の消費者をターゲットとし、ビューティー分野・コンシューマーブランド分野において、ブランド事業と流通事業の連携による価値創造を目指している。
丸紅では、すでにこれらの分野ではいくつかのコスメブランドやシューズブランドなどを保有しており、直近ではコスメブランド「OSAJI」など個々の消費者ニーズに合わせた嗜好性の高いブランドをKarmarts社の流通網を活用して、成熟市場のタイへ展開していく考えだ。また、日本で広範囲に展開しているドラッグ&コスメティックストア「AINZ&TULPE」とのコラボも計画中だという。
日高社長は、インタビューの最後に丸紅70周年記念式典の際のサイドストーリーとして、「当社が出資するB-Quik社とKarmarts社は全く別の業界で面識はなかったが、70周年パーティーで両者のCEOが初めて顔を合わせ、異業種コラボの話が持ち上がるなど、化学反応が起きはじめている」と明かしてくれた。
「販売代理店は、メーカーの商品を代わりに売るだけだ。一方で、自社でブランドを持つことは大きな意味を持つ」と改めて総合商社のこれからの方向性を示唆する言葉でインタビューを締め括った。
当社は、ラオスやカンボジアなど周辺諸国での事業を展開していた。グローバル戦略として、アジアや中東への進出を検討していた際に、丸紅と出会った。Quadriga社を通じて話し合いを進める中で、丸紅は長年の歴史と実績を持つグローバル企業で、世界約100ヵ国で事業や投資を展開しており、日本市場やその他の国々の市場での豊富な流通経験と海外進出のノウハウ、さらにグローバルのコネクションを持っていることがわかった。
丸紅が持つこれらの強みは、当社が今後海外市場への参入を加速するために必要不可欠であり、ぜひ強力なパートナーとして迎え入れたいと感じた。一方で、当社が持つ地場の流通網やブランド力は丸紅にとっても魅力的なものだと知った。
ASEAN域内での最大手の化粧品企業としての地位を確立すべく、丸紅と共に協力して、お互いの価値を高め合える事業発展を目指している。その一環として、化粧品企業のロールアップ買収も計画中だ。
また、丸紅はグローバル企業として力を持っており、当社も化粧品事業において急成長を続けている。持続的な企業成長はもちろんだが、今後はビジネス以外でもタイ社会に貢献できる活動も丸紅と協力して推進していきたいと考えている。
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THAIBIZ編集部
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