ArayZ No.147 2024年3月発行タイの歴史の振り返りと未来展望
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カテゴリー: ビジネス・経済, ASEAN・中国・インド
公開日 2024.03.10
大場 脩|ホーチミン支店 日系営業2課
目次
2024年はAFCアジアカップが開催され、グループリーグでは元日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏が率いるベトナム代表と日本代表が対戦し、ベトナム国内でも大きな盛り上がりを見せた(結果は4‐2で日本代表が勝利)。サッカーやバスケットボール、マラソン等のリアルスポーツはベトナム人の間で大きな人気を博しているが、近年大きな盛り上がりを見せているのがeスポーツである。日越外交関係樹立50周年記念事業として、23年10月にホーチミン日本商工会議所主催で開催されたeスポーツ大会では、多くの来場者とライブストリーミング視聴者を記録し大盛況の大会となった。
今回はベトナムにおけるeスポーツ市場の現状や今後のビジネス機会について取り上げていく。
eスポーツ市場について触れる前に、まずはベトナムのリアルスポーツ市場について簡単に触れておきたい。
令和3年度スポーツ庁委託事業の「スポーツ産業国際展開カントリーレポート」によると、20年のベトナムにおけるリアルスポーツ産業市場規模は約8億ドルでCAGR(年平均成長率)(2020‐2025)は14.9%となっている(図表1)。
隣国であるタイの市場規模(20年時点:約21億ドル)と比べて、約40%の市場規模に留まっているものの、人口増加、経済成長に伴う個人所得の増加、フィットネスへの関心の高まり等により、30年には20年比で約3倍となる27億ドルまでの市場拡大が見込まれている。
ベトナム国内で人気のスポーツ(リアルスポーツ)は、サッカー、バスケットボール、バレーボール、バドミントン等である。特にサッカーは国民的な人気を博し、米国の市場調査会社Nielsenによると、ベトナム国民のサッカーファンの割合は75%で、これはアジアの中で最も高い割合であるという結果を発表している(日本は28%でアジア12位)。
サッカー、バスケットボールはプロリーグがあり、実際に試合会場を訪れて「観戦」するファンも多い。チケット価格は比較的安価とされるが、バスケットボールは席種によっては高い席もある。各チームとも公式ホームページではなく、Facebook、InstagramといったSNSを通じて情報を発信することが一般的である。
実際にサッカー、バスケットボール共に試合会場で観戦したが、特にバスケットボールは、チケット価格が一般自由席でVND200,000(約1,200円)とサッカーよりも高価にも関わらず若年層のファンが多く、より活気がある印象を受けた。試合後には、席種問わず自由にコート内に入ることができ、選手との会話や写真撮影、サインを求めることができる。ファンと選手の距離が近いこともあり、最近では若年層を中心にバスケットボールの人気が高まっている。
「eスポーツ(e-sports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称(引用:一般社団法人日本eスポーツ連合オフィシャルサイト)。競技別では、格闘技、スポーツ、レース、シューティングゲームの人気が高い。
世界最大級の統計調査データプラットフォームStatistaによると、ベトナムのeスポーツ市場は、24年には650万ドルに成長し、28年には960万ドルに達すると予測されている。また、べトナムeスポーツ連合発行の「ベトナムeスポーツ白書2021」によると、16年時点で300万人であったベトナムのeスポーツプレイヤーは、スマートフォンの普及、インターネット環境の整備等により21年には1,800万人を超え、今後はさらに増加する見通しである(eスポーツプレイヤー数の定義:プロプレイヤーを含む日常的にeスポーツに興じる人)。
リアルスポーツ市場と比べると市場規模はまだまだ小さいものの、各地での大会開催、プロeスポーツチームの設立、プレイヤー数の増加により市場規模は拡大してきた。24年のASEAN地域全体でのeスポーツ市場7,970万ドルのうち、8%超をベトナムが占めている。これは、タイ(2,210万ドル)、インドネシア(1,110万ドル)、シンガポール(890万ドル)に次ぐ域内4位に留まるが、ベトナムのCAGR(2024‐2028)は、マレーシア(11.30%)に次ぐ10.31%で域内2位の高い成長率と予測されている。
ベトナムは、現時点でeスポーツ大国とは呼べないものの、人口増加に伴うプレイヤー数の増加、マーケットの拡大、成長余地が十分に期待でき、ASEAN域内のeスポーツ市場を牽引していく存在となりえるだろう。
ベトナムのeスポーツは20年のコロナ禍から活況となり、外出制限が続く中でのエンターテインメントの一つとなった。具体的には、プレイヤーの80%が、コロナ禍の間にeスポーツに費やす時間が増えたと回答し、プレイヤーの52.5%が毎日そして平均2時間55分ゲームをプレイしていると回答した。
また、ベトナムにおいては、Z世代と呼ばれる若い世代(12歳〜28歳前後)がeスポーツコミュニティを形成しており、現在のところ過半数が学生をはじめとした無収入層である(図表3)。
しかしながら、年齢が上がるにつれて、eスポーツゲームに課金してもいいと思う割合も増えており、将来的にさらに大きな市場をもたらすポテンシャルを秘めているといえる(図表4)。
前頁で述べた通り、Z世代を中心とした若年層の間ではeスポーツが人気を博しており、Z世代の就労や所得増加に伴い、競技人口の増加と共にeスポーツ市場でのビジネス機会拡大が見込まれる。
23年10月にホーチミン日本商工会議所主催で開催されたeスポーツ大会では、主催者の想定を大きく上回る3,500人の来場者と85,000人のライブストリーミング視聴者数を記録した。同会議所として初の試みとなるイベントでありながら、これだけの盛り上がりを見せるeスポーツ市場には、多くのビジネス機会が潜んでいると考えられる。
例えば、各企業は、大会スポンサーへの就任や、プロチームとスポンサー契約をすることで、ユニフォームへの企業名、ロゴの掲出やSNSでの露出効果が期待できる。19年には、ベトナム大手LCC「Vietjet Air」がシンガポールとベトナムをベースとするプロeスポーツチーム「Team Flash」とパートナーシップ契約を締結し、チームが移動する際のオフィシャルエアラインとなった例もある。
またゲーム開発において成功を収めた事例としては、ベトナム初のユニコーン企業であるVNG社が挙げられる。今ではベトナム国民の75%が利用しているといわれるメッセージアプリ「Zalo(ザロ)」が有名であるが、前身の社名VinaGameの文字通り、ゲーム開発からスタートしたテック企業であり、今でもゲーム関連ビジネスの売り上げが70%~80%を占めている。
ベトナムは1億人近い人口を有し、今後も安定的に6-7%前後の経済成長が見込まれており、近年ではベトナムの個人消費をターゲットとした外資の参入が増加している。
eスポーツの市場規模は、他の産業と比べればまだまだ小さいものの、若年層が中心のマーケットでもあり、今後の成長余地と市場の継続性にも大きな期待が寄せられている。リアルスポーツはもちろん、eスポーツの分野でも、日越間でビジネスや協力関係が発展していくことを期待したい。
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みずほ銀行メコン5課
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