カテゴリー: バイオ・BCG・農業, 食品・小売・サービス, イベント
公開日 2023.06.27
TJRIは、5月24日にタイと日本の企業間のビジネスチャンスを創出する「TJRIビジネスミッション」として、サイアム・セメント・グループ(SCG)の石油化学大手SCGケミカルズ(SCGC)の施設視察を含むオフライン、オンラインのハイブリッド型イベントを開催した。オフラインの参加者17人は東部ラヨーン県にあるSCGケミカルズ併設施設で、消費者・顧客のニーズを探るリサーチから製品企画立案、製品設計など製品開発における全ての工程をワンストップで提供する「i2P Center」を訪問。SCGケミカルズの事業発表会とショールームの視察、プラスチック成形・製造工場見学の後、ネットワーキングも行われた。オンラインの参加者は38人だった。
イベントの第1部のSCGケミカルズのニーズ発表会では、まずCompliance & Standard Leaderのポーンラウィー氏が、「タイにおける循環型経済とプラスチック廃棄物に関連する動向と規制」と題して講演。世界の環境リーダーである欧州について「欧州の法的枠組みは、使い捨てプラスチックの禁止などで廃棄物を最小限に抑える発生抑制から、リユース、リサイクル、回収、そして処分という『廃棄物ヒエラルキー』を基本にしている」と解説した。
一方、タイ政府は、「バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデル」を新たに打ち出しているものの、2017年までの過去の法律を見ると、廃棄物処分にのみ注目しており、欧州のような廃棄物ヒエラルキーに基づいたものではなかった」と指摘。しかし、「2018年にプラスチック廃棄物管理のロードマップが発表され、使い捨てプラスチックが禁止された。2019年にはキャップシールやマイクロビーズといった3種類のプラスチック、2022年にはプラスチックストローや発泡スチロール食品容器などの7種類が禁止されるようになった」と説明。ただ、「2027年には循環型経済の原則を適用し、対象プラスチック廃棄物の100%をリサイクルするという目標を設定したものの、明確な罰則規定がないため、具体的な成果は得られないのでは」との見方を示した。
その上で、ポーンラウィー氏は「タイの高等教育・科学・研究・イノベーション省(MHESI)は、プラスチック廃棄物の100%リサイクルを達成するためには、循環型経済推進法を制定する必要があると提案した。そして、問題を解決するためには、『代替包装の導入推進』や『リユース・リサイクル・回収の国家目標設定』、『拡大生産者責任(EPR)の原則』などの11の項目を準備し、それぞれの推進法も必要だ」と強調した。ちなみに、現状では、11項目の中で拡大生産者責任(EPR)原則のみ作業が進んでおり、循環型経済推進法とEPR原則は2027年に導入される見込みという。
続いて登壇したSCGCグリーンポリマーのコマーシャル・マネージャーのタナワット氏によると、SCGCグリーンポリマーは、「オレフィンからプラスチックペレット、製品まで一貫して生産しており、タイとベトナムに石油化学製品の生産拠点、ノルウェーに研究所を持っている。さらに、年間350万トンのポリオレフィンの生産能力を持ち、東南アジアで最大のメーカーだが、ほとんどが化石燃料由来なので、ESG原則を事業運営に適用し、顧客の要望と持続可能性に応えるようにしている」とアピールした。
SCGCは持続可能な開発戦略として①2050年までにカーボンニュートラルを実現 ②2025年までにSCGC内で廃棄物を75%削減 ③2025年までに水使用量を5%削減 ④SCG Green Choiceに製品・サービスの選択を増加 ⑤2030年までにグリーンポリマーの生産量を年間100万トン以上-という5つの目標を設定していると説明。さらに、次の4つの側面で環境保全に貢献する「SCGCグリーンポリマー」を紹介した。
⑴ Reduce
プラスチックペレットの品質を向上させ、製品の強度を維持しながら、原料の使用量を削減する「SMXテクノロジー」。この技術により、ボトルでは8~20%の軽量化、食品用フィルムでは30%の薄型化など、パッケージの軽量化が可能になる。
⑵ Recyclable
軟らかい包装容器を多素材から、PE(ポリエチレン)かPP(ポリプロピレン)の単素材に変更し、よりリサイクルしやすいパッケージにする。
⑶ Recycle
タイ国内外でのリサイクル技術への投資。タイでの協業は以下の2通り。
・メカニカルリサイクル:ポストコンシューマーリサイクル(PCR) HDPE(高密度ポリエチレン)とPCR PPの製造。回収したプラスチック廃棄物を分別し、洗浄し、プラスチックペレットに再生する。
・アドバンスリサイクル:PCR PPの製造。熱分解法でリサイクル困難なプラスチックを原料にし、バージンペレットに再生する。
⑷ Renewable
3種類のバイオプラスチックがある。
・Bio Circular Resin: 廃食油を素材として作られたプラスチックペレット。バージンプラスチックと同等の性能を持つ。
・Bio-based PE:Braskem社と協力し、サトウキビを原料とするポリエチレンペレット。2026年までに生産能力を年間20万トンに引き上げる予定。
・Bio Compostable Compound: 適切な時間と条件下で分解され、マイクロプラスチックが残留しない。ドイツのDIN CERTCOの生分解性材料認証「DIN-Geprüft」を取得。
続いて、i2Pイノベーションセンター長のポーンチャイ氏がi2Pセンターの事業内容を紹介した。「i2Pという名称は「Ideas to Products」に由来している。当センターは2019年に設立され、顧客と一緒にアイデアを探るリサーチから、デザイン、工学・製品設計、プロトタイプ作成、商品化まで製品開発における全ての工程を一貫して提供している」とした上で、「革新的な素材と製品を生み出して市場に送り出すため、当センターは、①PE、PP、ポリ塩化ビニル(PVC)プラスチック素材の製造 ②美観と機能のデザイン ③成形加工-の3つの強みを活用し、顧客ニーズに応えるソリューションを模索している。当社は現在、シンガポールや欧州、日本など世界中にパートナーがいる。今回のイベントを通じて、また新しいパートナーができることを期待している」とアピールした。
そして、ポーンチャイ氏は、SCGCのショールーム見学の際に、5つの分野におけるトレンドに対応したイノベーションを説明した。
⑴ 循環型経済
SCGCグリーンポリマー。例えば、ライオンの「植物物語」のボディソープボトル。SMXテクノロジーを用いたプラスチックを使用し、パッケージの重量を12%削減している。また、CPオール(セブンイレブン)と提携し、回収した運送過程の廃棄物から作られたPCRプラスチックを30%含むセブンイレブンのレジ袋も生産している。
⑵ 都市化とインフラ
11.2Mpa(メガパスカル)までの水圧に耐えるPE水道管や家庭用PVCパイプ。SCGCは水道管に鉛を使用しないタイ国内初のブランド。
⑶ モビリティーの未来
コンソールやワイヤー、合皮シートなどの自動車部品や、金属と同等の強度を持ちながら30%軽量化されたガラス繊維とPPの複合材料。日本車の約70%がSCGCのプラスチックを使用している。
⑷ 健康とウェルビーイング
国際規格に適合したポリプロピレンメルトブローン樹脂。マスクのフィルターなどに使用する。
⑸ エネルギー伝送
リサイクル可能で、光沢のある電化製品用のポリプロピレン。ABS樹脂の代わりに使用できる。また、遊休状態の井戸なども活用できる浮体式太陽光発電パネルや人工ガラスなど。
発表会終了後、会場とオンラインの参加者からのSCGCに対するQ&Aセッションも行われた。このうち「具体的にはどのような技術を持ったパートナーを探しているか」との質問に対して、タナワット氏は「循環型経済分野だ。バリューチェーンやエコシステムをより強化し、新しい製品やイノベーションを生み出すためのパートナーが必要で、同じサステナビリティーの方向性を持つ企業を歓迎している。例えば、廃棄物の分別技術を持っている会社。SCGCの強みは化学品なので、新しいプラスチックペレットの製造や品質の向上に協力できると考えている」と答えた。
TJRI編集部
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