ArayZ No.125 2022年5月発行コロナ後に復活を期すタイのホテル産業
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カテゴリー: ビジネス・経済, ASEAN・中国・インド
公開日 2022.05.10
タイをはじめとするアジア各国で絶大な影響力を持つ財閥系コングロマリット。足元のコロナ禍、東南アジアを代表する企業の勢力図や経営方針はどのように変化しているのか、RCEPを見据えた域内での競争力向上をどのように実現させようとしているのかなど、本連載では解説していく。
今回はタイ5大財閥の一つ、TCCグループを取り上げる。
業種: 飲料、不動産、小売 他
設立: 1960年
グループ会社: 100社超(世界10ヵ国以上)
従業員数: 延べ6万人
総売り上げ: 540億米ドル(2020年)
TCCグループは飲料・食品部門以外にも流通・製造部門、不動産開発部門、金融部門、農業部門の5つの事業グループにて構成されている。事業のコアは、東南アジアでも最大級の酒類・飲料企業を筆頭とした飲料・食品部門で、酒類のみならずノンアルコール事業にも積極的に参入。日本食レストランや即席食品を展開するOishiグループを有する他、パッケージング分野も自ら手掛けることで一気通貫で事業の展開が可能である。また、同部門以外にも川上の農業分野から川下の総合商社「Berli Jucker PCL」(01年買収)、タイを代表する小売ブランドであるハイパーマートの「Big C」(16年買収)まで事業範囲を拡大させており、典型的な垂直統合型の企業グループと言える。
TCC(Thai Charoen Corporation)グループの主力事業で酒類・飲料企業の看板ブランドである「ビア・チャーン」について知らない人は少ないだろう。この商品を知ることで同グループの特徴が透けて見えてくる。
まずは、後発での参入という点である。従来タイのビール市場は「シンハ」ブランドで有名なブンロート・ブルワリーが実質独占状態であったが、1991年にビール事業に参入。大衆層向けの安価な価格攻勢と、後発ゆえに、代理店・卸をうまく活用した販路開拓により10年近くで市場シェアの過半を占有するなど一定の地位を築いた。後発という点では、企業グループの歴史が比較的浅い点も同様である。後述するグループ総裁のチャロン・シリワタナパクディー(Charoen Sirivadhanabhakdi)氏が創業メンバーとして君臨するなどすでに3、4代目に経営が移行している他の財閥グループとは一線を画している。
次に、当局との関係構築の妙である。同グループのそもそもの成り立ちは酒類、ウイスキー事業だ。チャロン氏が17歳の時、酒造会社に原材料を配達する従業員として仕事を始めたことがきっかけだったという。その後は、ビジネスパートナーを得て国営の独占ウイスキー製造会社の経営権を取得。不採算の同業他社の買収に加え、85年には当時国が保有していたウイスキーの酒造権の民間入札の落札にも成功した。酒類という規制・制約の多い業種において、次々と新境地を開拓していった同社の成功要因としては、当局やキーパーソンとの関係を活用したチャロン氏の才覚があることは言うまでもない。
チャロン氏は「買収の帝王」とも言われる。後発である同グループの拡大の背景には積極的なM&Aの活用がある。同グループの変遷を見ると創業から2000年前後までは酒類事業の拡大および金融・不動産への参入、00年代は小売り・卸への垂直統合、10年代は飲料部門における非アルコール部門強化と海外事業の拡大に舵を切っているように見られる(図表1)。
同氏は、グループが持っている飲料・食品事業の成否は物流を含む流通網の拡大にあると強調しており、01年には流通・製造事業中核企業として創業140年の食品・消費財中心の商社「Berli Jucker PCL」を買収、グループの物流機能を獲得した。12年に実施したシンガポールの食品・飲料大手「Fraser & Neave」の買収も、同社の飲料事業だけではなく不動産、倉庫・物流などに対するノウハウを吸収する狙いも含まれていたと推察される。
近年は周辺国への拡張にも意欲的で、小売のBig C事業はカンボジア、ラオスにも展開を始めている。特に、グループにとって最も有望とされているベトナムでは、ドイツのメトログループからベトナムの「Metro Cash & Carry」、同国最大のビール製造企業「Saigon Beer」、乳製品最大手「Vinamilk」への出資など幅広く、第2のTCCグループの創業とも言える垂直型の事業創出が行われている点は見逃せない。
近年、同グループの取り組みにおいて最も注目されているのは大型不動産開発「One Bangkok」プロジェクトだろう。グループ子会社2社の合弁による本プロジェクトは、バンコク中心部の総面積16・7haの土地に造成されるタイ最大の複合施設の開発のために、35億米ドルが投資される予定である。六本木ヒルズ2つ分の敷地にオフィスタワーのみで5棟、バンコク最高層(430m)となる予定のリッツカールトンホテルが建設されるなど、バンコクを代表するランドマークとして期待が寄せられる。
本プロジェクトに関しては日系企業側の動向も注視したい。例えば、三井物産と東京ガスエンジニアリングは地域冷房事業および電力の配電事業を手掛ける他、三菱電機は昇降機278台の受注が決まるなど、大型の受託に繋がっている。
また竣工後の周囲への影響も気になるところ。6万人クラスの人口を抱えることが想定される小都市の出現により、今後の不動産市況への影響や都心回帰による働き方改革、ライフスタイルの変化などが予想される。
現在、TCCグループの経営はチャロン氏夫婦の5人の子どもが各部門の中核会社における経営を担うなど、徐々に権限移譲が進んでいるが、このプロジェクトの成否が第2世代におけるさらなる事業拡大に影響を及ぼすであろう、肝いりの案件であることは間違いない。
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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希 氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。
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三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。
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