巨大ヘルスケアグループBDMSの展望と今後の課題

THAIBIZ No.155 2024年11月発行

THAIBIZ No.155 2024年11月発行タイの明日を変える!イノベーター大特集

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巨大ヘルスケアグループBDMSの展望と今後の課題

公開日 2024.11.11

ASEANを代表する巨大ヘルスケアグループBDMS(Bangkok Dusit Medical Services PLC)は、これまでタイの医療を牽引してきた。昨今では、タイの人口減少、高齢化社会を背景にウェルネス分野にも注力しているが、ASEAN諸国や中東の私立病院も台頭してきており、競争は激しくなっている。本稿では、同グループのこれまでの成長の歴史と今後の方向性および課題について整理する。

基本的な企業情報

BDMSはタイを代表する民間医療機関であり、ASEANにおけるメディカルハブとして持続可能な医療サービスを提供するヘルスケア分野でのリーディングカンパニーである。在タイ日本人患者も多く利用するバンコク病院やサミティベート病院を傘下に置き、日本人にとっても馴染みのある医療機関と言える。

リーディングカンパニーとして先進的な取り組みに積極的であり、コロナ禍後には遠隔医療サービスを展開するなど常に時代のニーズを汲み、タイの医療を牽引してきた。そのような取り組みが評価され、ESG評価指標である DJSI (The Dow Jones Sustainability Indices)のワールドおよびエマージング分野にて、2023年には1位を獲得するなど、その存在感をさらに高めている。

創業者であるプラサート・プラサートトーンオーソト氏は、BDMSの他、Bangkok Airwaysの株式11.38%を保有している。総資産は約44億ドルと推定され、タイの長者番付の常連である。現在BDMSのプレジデントは外科医の経歴を持つ娘のポラマポーン・プラサートトーンオーソト氏であり、Fortuneのアジアで最もパワフルな女性の一人に選出されるなど、一族としてメディア露出も多い(図表1)。

出所:同社Annual ReportおよびSETウェブサイトよりMURC作成

BDMS事業概要

BDMSは1969年に創業、1972年にバンコク病院を開業後、新規病院開設と競合病院の買収を繰り返し、業績を順調に伸ばしてきた(図表2)。現在、同グループはタイおよびカンボジアに59の病院を構え、総病床数は8,600床を超える(2024年5月時点)。また、医薬品卸、検査機関、薬局といったヘルスケア周辺ビジネスをグループ会社に内包することで、サプライチェーン統合も進めている。

出所:同社Annual ReportよりMURC作成

またブランディングにも長けており、病院ブランドをターゲット層別に展開し、タイ国籍および外国籍の患者を幅広く捉える戦略を取っている。具体的には、タイ富裕層および外国籍向けのバンコク病院、サミティベート病院、BNH病院、タイ中間層向けのパヤタイ病院、パオロ病院の5ブランドを展開している。

連結総収益における地域内訳では、バンコク首都圏が54%、それ以外が46%とバンコク首都圏以外での病院ネットワークもバランス良く保有しいる。バンコク首都圏外としては、観光地であるチェンマイ、パタヤ、プーケットに病院を持つ。今後はカオヤイなどにも開業を予定し、2027年までに総病院数65以上、総病床数9,300床まで拡大する計画である。

患者の国籍別では、70%がタイ国籍であり、残り30%はカンボジア、中国、米国、日本、英国からの患者となっている。タイ国籍患者については、タイ中間層の健康意識向上や医療保険加入数の増加が業績への追い風となっている。外国籍患者に関しては、同社は総患者に占める割合を増加させる方針である。

特に中国、中東の他、CLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)を注力ターゲットと設定し、中国および中東には現地にBDMSコラボレーションセンターを開設し、海外からの患者の呼び込みを強化している。このように、同グループはこれまで、タイ国内では中間層から高所得層、バンコク首都圏外にもネットワークを広げるとともに、タイ国外にも患者との接点を設けて、事業規模を拡大してきた。

今後の方向性

医療ネットワーク拡大、タイの医療水準向上、メディカルツーリズムを牽引してきたBDMSであるが、タイは人口減少と高齢化社会という局面に直面している。2028年には人口は減少を開始し、2030年には65歳以上が人口の20%を占める超高齢化社会となる見通しであり、同社は高付加価値医療サービスの提供、ウェルネス分野への進出により量から質への転換期を迎えていると言える。

高付加価値医療サービスとしては、2023年にがん患者専門センター「Bangkok Rayong Cancer Hospital」を開設し、より専門的な医療サービスを開始している。さらに、プーケットに総投資額3億バーツをかけて当地初の放射線治療可能なクリニックとしてがん専門病院を開設予定であり、今後も専門医療クリニック分野には投資が継続されると見られる。

ウェルネス分野への進出としては、2018年に予防医学や脳ドックを取り扱う「BDMS Wellness Clinic」を開設した。また、2029年にはタイの高齢化社会、外国人観光客数の増加を見据えて、タイ人のみならず、外国人もウェルネス分野でのターゲット層として捉え、総投資額235億バーツをかけ、バンコク都心ルンピニ地区に高級医療サービス付複合施設「Silver Wellness & Residence」をオープン予定である(図表3)。

出所:同社公開資料よりMURC作成

今後の課題

BDMSの直面する課題としては、他国の大手病院との患者獲得競争が挙げられる。トルコやカタール、アラブ首長国の他、近隣国としてはマレーシアやシンガポールがメディカルツーリスト誘致のために、先進医療センターを開設するなど他国との外国籍患者の獲得競争が激しくなっている。

またリソース面では、医療従事者の不足も懸念点であり、報酬面や労働環境の見直しも必要となり、収益性への影響も考えられる。このような課題がある中で、Silver Wellness & Residenceは他国競合との競争に対する試金石になると考えられ、同グループの今後の事業展開に注目したい。

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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Consultant

榎本 里実 氏

メガバンクで法人営業に従事。2022年チュラロンコン大学サシン経営大学院(EMBA)卒業。2023年にMURCタイ入社。タイをはじめ周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、企業ベンチマークなどの業務を担う。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director

池上 一希 氏

日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.

ASEAN域内拠点を各地からサポート
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。

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No. 63 Athenee Tower, 23rd Floor, Room 5, Wireless Road, Lumpini, Pathumwan, Bangkok 10330 Thailand

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