【EEC再考】インフラ遅延、資金調達が壁〜事務局長インタビュー(下)〜

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【EEC再考】インフラ遅延、資金調達が壁〜事務局長インタビュー(下)〜

公開日 2026.04.30

NNA掲載:2026年4月30日

タイの東部3県の経済特区(SEZ)「東部経済回廊(EEC)」プロジェクトでは、次世代の産業集積が進む。一方、EECのもう1つの柱で次世代産業の基盤にもなる、大型インフラ事業は遅れが目立つ。首都圏とEECの3空港を結ぶ高速鉄道や、航空都市開発はなぜ進まないのか。収益モデルや資金調達の課題、今後の展望について、EEC事務局(EECO)のチュラ事務局長に聞いた。

3空港を結ぶ高速鉄道プロジェクトについて、事業性を高めるため契約条件の見直しを進めていると明らかにした、
EEC事務局のチュラ事務局長=3月、バンコク(NNA撮影)

――2019年に建設の契約が締結された3空港を結ぶ高速鉄道計画が遅れている要因は。

最大の課題は資金調達だ。現状では事業として「バンカブル(融資可能な事業性を備えた状態)」でない。民間事業者は投資額の約80%を融資に依存する。しかし、この6年間で、金利は約2%、建設費は約5%、運行コストの見込み額は約10%上昇した。さらに、50年の事業権が始まる前に5年間の建設期間があり、その間は収入が発生しない。このため金融機関は融資回収リスクを懸念している。現在、事業性を高めるため契約条件の見直しを進めている。

――着工時期の見通しは。

新政権が契約修正案を承認すれば、年内にも着工が可能だ。民間側は既に設計・調達・建設(EPC)業者を確保しているが、最終判断は政府に委ねられている。

――3空港を結ぶ高速鉄道の需要は見込めるのか。

従来、チョンブリ県やラヨーン県など東部地域で働く人は、バンコクから通勤するより職場近くに住むのが一般的だった。ただし、約60分でバンコクと東部地域を結ぶことができれば、バンコクからの通勤も現実的になる。

加えて、高速鉄道の駅周辺は、日本型の鉄道開発をモデルとした公共交通指向型開発(TOD)による経済効果を見込んでいる。チャチュンサオなどの地方都市に新駅を整備することで都市化が進み、不動産開発の拡大につながる。

この路線は、将来的にラオス経由でタイと中国を結ぶタイ中鉄道網と接続する起点となる。観光客による利用も期待されている。

――鉄道単体での採算確保は難しいとの見方もある。収益モデルは運賃よりも周辺開発に依存する構造になるのか。

通勤や観光需要は見込めるが、鉄道単体での採算確保は難しい。運賃を高く設定すれば利用者が減るため、駅周辺の商業・住宅開発による収益で鉄道コストを補う必要がある。

――3空港の高速鉄道と、中国資金や中国の巨大経済圏構想「一帯一路」との関係は。

この事業はタイの財閥大手チャロン・ポカパン(CP)グループが主体であり、タイにおける「一帯一路」構想の一部でもない。

ウタパオ航空都市は開始

――ウタパオ航空都市の進捗(しんちょく)は。

4月3日に着工指示書(NTP)を出す(編注:同日に正式に開始した)。(従来の条件だった)3空港を結ぶ高速鉄道の着工を待たずに、空港ターミナルと航空都市の建設を開始することで民間企業と合意した。政府による滑走路整備と並行して進める。50年の事業権も同日に始まるため、早期完成へのインセンティブが働く。5~6年遅れたが、ようやく本格始動する。

ウタパオ航空都市の開発事業は4月3日に着工式典を開催した(EEC事務局提供)

――港湾整備は比較的順調とされるが、現状はどうなっているのか。

マプタプット港(ラヨーン県)は計画通りで、現在は民間企業が液化天然ガス(LNG)ターミナルを建設中だ。3年以内の稼働を見込む。ただ、石油化学品のターミナル計画(官民連携=PPP=事業)は需要不足で入札が成立せず、タイ工業団地公団(IEAT)が土地を直接貸し出す方式にする。

レムチャバン港(チョンブリ)の拡張も順調で、埋め立てはほぼ完了した。今後は民間に引き渡し、「グリーンポート」として開発する。

レムチャバン港の第3期拡張事業は新型コロナウイルス禍の2021年に事業契約が締結された
(ガルフ・デベロップメント提供)

なぜディズニーランドを誘致したいのか

――新たなインフラ事業となるEECキャピタルシティー(EECiti)の計画は。

総面積24平方キロメートルの新都市で、既に3分の1の用地を取得した。今年中に電力や水、廃棄物処理などの基盤インフラのPPP入札を開始し、来年から整備に着手する。

都市は「ネットゼロ」と「住む・働く・遊ぶ」をコンセプトに、住宅、オフィス、教育、医療・高齢者ケア、スポーツ・娯楽、BCG(バイオ・循環型・グリーン)の6ゾーンで構成する。スポーツ庁と連携し、バンコクからスタジアム移転も計画している。

――ディズニーランドの誘致計画も取り沙汰されている。

タイの観光はこれまで自然資源に依存してきた経緯があり、リピーターを呼び込むためには世界水準の人工的なランドマークが必要だ。EECOは、東京ディズニーランドに匹敵する規模の用地を、世界的なエンターテインメントブランド向けに確保している。現時点では正式な交渉には入っていないが、ディズニーや投資家に提示できる魅力的な事業モデルと条件パッケージの策定を進めている。大規模な投資となるが、地域に与える影響は極めて大きいと見込んでいる。

3%成長とカンボジア問題

――新政権は3%成長を目標に掲げる。30年を見据えたEECの成長見通しは。

Sカーブ産業への海外直接投資(FDI)、とりわけデジタル分野や車載電池などへの投資と、大型プロジェクトによる資金流入で成長は加速する。今後5年で主要案件は順次稼働する見通しだ。

――一方で、カンボジアとの国境問題や、それに伴う労働力不足の問題もある。

現在は建設分野を中心に人手不足が続いている。カンボジア人労働者を確保できなければ他国からの労働力で補う方針だ。カンボジアとの国境問題が長引くとはみていない。カンボジアは多くの面でタイに依存しており、対立を長期化させるのは難しいだろう。(聞き手=京正裕之)

プロフィール

チュラ・スクマノップ(Chula Sukmanop)
EEC事務局(EECO)事務局長。

国立チュラロンコン大学法学部卒業(1986年)、英サウサンプトン大学で法学修士(海事法)修了(89年)、同大で海事法博士を取得(93年)。運輸省の運輸・交通政策計画事務局(OTP)事務局長、港湾局局長、空港局局長、タイ民間航空局(CAAT)長官、タイ運輸省監察官を歴任し、2023年4月から現職

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