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カテゴリー: ASEAN・中国・インド, 会計・法務
連載: ASIAビジネス法務 最新アップデート - ONE ASIA LAWYERS
公開日 2026.09.01
2026年1月1日、ベトナムの新たな化学品法「Law on Chemicals No. 69/2025/QH15」(以下、「新法」という)が施行され、2007年化学品法は失効しました。同月17日には政令3本および商工省通達2本が一括して公布・施行され、法律・政令・通達が一体となった新たな化学品規制体系が完成しています。
新法は、化学品メーカーに限らず、化学品を原材料として使用する製造業や、化学品を含む完成品(電子製品、電池、塗料、接着剤等)を取り扱う企業にも義務を課すものであり、ベトナムに製造・販売拠点を有する日系企業に広く影響します。本稿では、新法の全体像と、日系企業が特に押さえておくべき実務対応のポイントをご紹介いたします。
目次
新法は、旧法の部分的な改正ではなく、リストに基づく化学品管理の制度化、新規化学品の市場参入メカニズムの創設、そして生産・取引・輸出入・輸送・保管・使用から廃棄物処理に至る「ライフサイクル全体」での管理を柱とする、規制枠組みの全面的な再構築です。細則である政令・通達もすべて公布済みであり、規制の骨格は図表1のとおり整理できます。

新法の下では、取扱化学品が政府リストのいずれに掲載されているかにより、必要となる許認可と義務の重さが決まります。実務対応の出発点は、取扱化学品をCAS番号ベースで棚卸しし、政令24の各附属書と照合して自社の「立ち位置」を確定させることです。
図表2:3つの規制区分の比較
| 区分 | 定義・リスト | 主な許認可 | 窓口・審査期間 |
|---|---|---|---|
| 条件付き化学品 | 政令24附属書II(786物質)。最も裾野が広く、多くの日系企業が該当 | 生産・取引の適格証明書(有効期間5年) | 省人民委員会/12営業日 |
| 特別管理化学品 | 政令24附属書III(241物質。Group 1:154物質=麻薬前駆物質等、Group 2:87物質=CWC対象・工業用前駆物質) | 生産・取引許可(5年)、輸出入許可(インボイス毎・6ヶ月有効・延長1回) | Group 1:化学品局、Group 2のみ:省人民委員会/生産・取引16営業日、輸出入7営業日 |
| 制限化学品 | 投資法上の制限投資・経営リストによる | 原則活動禁止。例外目的に限り許可(生産・輸入許可12ヶ月・6ヶ月等) | 所管省庁/輸出入7営業日 |
混合物については濃度による裾切り(条件付き5%超、特別管理1%または5%超で該当)があるほか、政令26第21条は、濃度0.1%未満の混合物や、医薬品・化粧品・塗料・印刷インキ・接着剤・洗浄剤・電池・医療機器など製品類型による広範な免除を定めています。「リスト該当性」と「免除」は別のルールであり、二段構えで判断する必要があります。なお、リストは各省庁が毎年6月30日を期限として更新案を提出する仕組みであり、毎年変動しうるため、化学品の棚卸しは一度きりではなく年次の定点観測として設計することをお勧めします。
新法上、「新規化学品」とは、国内化学品リストおよびベトナム当局が承認した外国化学品リストのいずれにも掲載されていない化学品を指し、登録を経なければ使用・市場流通ができません。登録された新規化学品は特別管理化学品と同様に管理され、登録日から5年間、商工省への年次報告義務が課されます。
日系企業にとって特に重要なのは、ベトナムが承認する外国化学品リストとして、EUのECHAリスト、米国のTSCAリストと並び、日本の経済産業省による既存・新規化学物質リスト(ENCS)が明記されたことです(政令26第23条5項)。ENCS掲載品であれば「新規化学品」に該当せず、登録自体が不要となります。いずれのリストにも掲載がない場合でも、承認外国リスト掲載品については、フル評価に代えて評価要約報告書と市場流通実績による簡易ルートが用意されており、OECDが承認する外国の適合性評価機関の試験・評価結果も新規化学品評価において承認されます。
他方、判断の起点となる国内化学品リスト(国家化学品リスト)は未公布であり、2028年より前に公布される予定です。それまでは承認外国リストへの掲載の有無が実務上の判断基準となります。また、商工省は現在、化学品の名称・リスト掲載の有無のみで判断する運用をとっており、同一の識別情報を持つ物質でも仕様の相違に関する情報は考慮されない点に留意が必要です。新規化学品登録の審査期間は90営業日と、旧法下の約30営業日から大幅に長期化しています。
新法は、化学品管理のデジタル化を大きく進めており、多くの義務が国家化学品データベース(DB)を前提に設計されています。日系企業の実務に影響の大きい変更点は図表3のとおりです。
図表3:手続面の主な変更点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| オンライン許認可・化学品DB | 許認可申請は商工省の公共サービスシステムを通じた電子申請が可能に。ウェブサイトや製品ラベルでの情報提供のみでは足りず、DBへの登録・更新を怠ると違反となりうる |
| 輸入時の申告(NSW) | HS第28類・第29類(無機・有機化学品)の輸入は、通関前に国家シングルウィンドウ経由の申告が必要。システムの自動応答が従来の紙の確認書と同等の法的効力を持つ。10kg未満の輸入、混合物等は免除。申告情報の正確性は輸入者自身が法的責任を負う |
| 使用者の事前申告 (30日前ルール) |
特別管理化学品の使用者は、初回使用の30日前までにDB上で種類・用途を申告する義務。売主は申告済みの相手にしか販売できないため、申告漏れは調達停止に直結する |
| 年次報告 | 化学品の生産・取引・輸出入に関する前年分の報告を毎年2月15日までに提出 |
| 審査期間・権限移譲 | 新規化学品登録の審査は90営業日に長期化した一方、Resolution No.19/2026/NQ-CPにより許認可権限の地方移譲が進み、輸出入許可の処理期間は約30%短縮される見込み |
| 行政処分 | 商工省が制裁を強化した新政令を起草中。公布までは現行の政令71/2019/ND-CPが引き続き適用 |
新法第5章は、化学品そのものではなく「化学品を含む完成品」を規制対象とする点で、旧法からの重要な拡張です。通達01附属書XIXにより、商工省所管分野の開示対象10物質が確定しており、電機・自動車部品・消費財を扱う日系企業も対象となりえます。
図表4:開示対象の危険化学品10物質(通達01附属書XIX・商工省所管分野)
| No. | 危険化学品 | CAS番号 | 開示が必要な製品 |
|---|---|---|---|
| 1 | アセトン | 67-64-1 | 接着剤、洗浄液 |
| 2 | カドミウム | ― | 電子製品 |
| 3 | 六価クロム化合物 | ― | 防錆塗料、クロムめっき鋼、電池、電子製品 |
| 4 | ホルムアルデヒド | 50-00-0 | 合板、洗浄剤 |
| 5 | 塩酸 | 7647-01-0 | 工業用洗浄剤 |
| 6 | 鉛 | ― | 電池、電子製品 |
| 7 | 水銀 | ― | ランプ |
| 8 | メタノール | 67-56-1 | 接着剤、洗浄液 |
| 9 | 硫酸 | 7664-93-9 | 電池 |
| 10 | トルエン | 108-88-3 | 工業用塗料、印刷インキ |
上記10物質を含む製品・商品を生産・輸入する企業は、市場流通の前に、①化学品DB上でのロット毎の申告(製品名、危険化学品名、危険特性、含有量、使用分野)と、②情報ポータル・自社ウェブサイト・購入者への引渡場所・製品ラベル上での組成・含有量および使用制限の表示の双方が義務となります。また、生産者にはinput(投入時)・生産中・最終製品の各段階における含有量監視等を含む統制手続の策定・公布義務も課されます。なお、他省庁(保健省・農環省等)は所管分野ごとに別途リストを公布するため、自社製品の所管分野の確認も必要です。
化学品活動に従事する人員には、経営層(Group 1)・安全監督者等(Group 2)・現場作業者等(Group 3)の3グループに階層化された化学品安全研修が義務付けられます。頻度は2年に1回、初回は試験を含め8時間以上(2回目以降は4時間)、研修記録は結果認定決定書の日付から3年以上の保存が必要です。研修の結果認定決定書は許認可の申請書類にも含まれるため、コンプライアンスの前提となります。
また、化学品安全監督者には学歴要件(生産=化学専攻の学士以上、取引・保管・使用・廃棄物処理=化学専攻の中等以上)が課されており、要件を満たす人材の確保が許認可取得のボトルネックとなりえます。
保管数量が政令24附属書IVの閾値数量以上となる場合等には、事故予防・対応計画の作成と当局の審査・承認が必要です。審査は6ステップで標準の審査期間だけで50営業日超(約3ヶ月)を要し、承認決定書の写しが各種許認可の申請書類に含まれるため、許認可取得全体のクリティカルパスとなります。閾値未満の場合でも、対応措置を自ら作成・公布し、公布日から30日以内にDB上で更新する義務があります。さらに、外部倉庫を利用する企業は、委託先が保管サービス提供適格証明書(2026年7月1日施行済み)を取得しているかの確認が必須です。委託先が未取得の場合、荷主側の許認可申請書類(保管サービス契約書)が揃わず、自社の許認可にも波及します。
新法の経過措置は、政令26第30条および政令25第40条により詳細に定められており、自社がどの号に該当するかにより適用される期限が異なります。特に、2026年3月1日の申告期限は既に経過しており、未対応の企業は速やかな対応が必要です。

どの期限が自社に適用されるかは、政令24のリストと旧政令(113/2017、82/2022、33/2024)のリストとの差分を取らなければ判断できません。「2026年末=新たにリストに載った化学品の期限」「2027年末=旧適格証明書そのものの期限」という2つの年末期限を混同しないよう、この差分作業をすべての実務対応の出発点とすることが重要です。
以上を踏まえ、日系企業においては、まず自社の立ち位置を確定させ、そのうえで許認可・情報・安全の3方向に展開する形で、以下の点検を進めることをお勧めします。
図表6:実務対応チェックリスト
| ステップ | 主な確認事項 |
|---|---|
|
STEP 1 立ち位置の確定 |
取扱化学品のCAS番号ベースでの棚卸しと政令24附属書II・IIIとの照合/旧政令リストとの差分による2026年末期限対象の特定/混合物の閾値(5%・1%)による該当性判定/ENCS・ECHA・TSCA掲載の確認による新規化学品の切り分け/自社製品への開示対象10物質の含有確認/附属書IVの閾値と最大保管数量の突合せ(計画・措置の判定) |
|
STEP 2 許認可の整備 |
保有許可・証明書の台帳化と経過措置該当号の特定/特別管理化学品のGroup 1・2の確認と窓口の把握/化学品安全監督者の学歴要件を満たす人員の確保/事故予防・対応計画の承認(約50営業日)を織り込んだリードタイム設計/外部倉庫委託先の保管サービス証明書取得の確認/免除規定(濃度・製品類型)の適用余地の検討 |
|
STEP 3 情報・安全体制 |
特別管理化学品の種類・用途のDB申告(30日前ルール・2026年3月1日期限経過済み)/開示対象10物質を含む製品の含有量DB申告(ロット毎)/SDSの通達01附属書I様式(ベトナム語・16項目)へのマッピングと受領・保管運用/GHS分類・ラベル・包装の適合確認/化学品安全研修の実施と記録3年保存/毎年2月15日までの年次報告と年次事故対応訓練の体制整備 |
なお、SDSの必須16項目の構成はJIS Z 7253と実質的に一致するため、日本本社のSDSがあれば内容の再構築は不要であり、ベトナム語様式への読替えと翻訳(マッピング作業)として設計できます。ただし、輸入者が日系現地法人である場合、本社から受領したデータであっても記載情報の法的責任は現地法人が負う点にご留意ください。
新法と細則は既に施行済みですが、国家化学品リストの未公布、行政処分政令の改正作業、公安省による特別管理化学品の識別・原産地追跡システムの稼働など、制度はなお動いています。商工省は2026年12月31日までに化学品規制体系のさらなる整備を予定しており、対象リストも毎年更新されうることから、企業においては、本稿で紹介したチェックリストに沿った自社の状況確認と併せて、法令動向の継続的なモニタリングと社内法務レビューの実施をお勧めいたします。弊所では、該当性の判定、許認可の取得支援、DB申告・SDS対応のサポート等、新化学品法対応に関するご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

One Asia Lawyers
松谷 亮 氏
日系大手企業の社内弁護士として合計5年間勤務後、2019年にOne Asia Lawyersベトナム事務所へ入所。クロスボーダー案件、取引相手との紛争処理案件、知的財産に関する契約交渉、紛争処理案件を数多く経験。IT・製造業の法務案件を専門とする。
One Asia Lawyers Group
「One Asia Lawyers Group」は、アジア全域に展開する日本のクライアントにシームレスで包括的なリーガルアドバイスを提供するために設立された、独立した法律事務所のネットワークです。One Asia Lawyers Groupは、日本・ASEAN・南アジア・オセアニア各国にメンバーファームを有し、各国の法律のスペシャリストで構成され、これら各地域に根差したプラクティカルで、シームレスなリーガルサービスを提供しております。
なお、本稿は、一般的な情報を提供することを目的としたものであり、当グループ・メンバーファームの法的アドバイスを構成するものではなく、また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当グループ・メンバーファームの見解ではございません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず各メンバーファーム・弁護士にご相談ください。
Website : https://oneasia.legal/office/thailand

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