ヒットメーカーが語る!タイの外食産業必勝法

THAIBIZ No.153 2024年9月発行

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ヒットメーカーが語る!タイの外食産業必勝法

公開日 2024.09.10

次なる「まい泉」は生まれるか?  S&Pのレストラン戦術 

タイ人に長く親しまれている赤を背景にした大手レストランチェーン店・ベーカリーショップの「S&P」は、約50年前に小さなアイスクリーム店からスタートし、現在タイ国内と海外に470以上のチェーン店を展開している。同社は東京で創業した「とんかつ まい泉」と、日本各地で懐石の店を展開する和食レストラン「梅の花」のタイ出店も成功させた。S&Pシンジケート社(以下、「S&P」)の日本食レストラン事業部長兼S&Pインターナショナルフーズ社長を務めるティラコーン・ライバ氏に、日本食レストランに出資した経緯や同社の戦術について話を聞いた。

事業多角化を目指し、日本食レストランを展開

S&Pは1973年にアイスクリーム店として創業し、レストランおよびベーカリーショップのチェーン店に形を変えて成長していった。1989年にタイ証券取引所(SET)に上場し、1997年にデリバリー事業をスタート。2012年に「とんかつ まい泉」のタイ一号店をオープンし、翌年に「梅の花」を開店した。

コロナ前、同社は年間70〜80億バーツの売上高を記録していたが、コロナ禍では他の飲食店と同様に苦しい経営が続き、売上高は年間40億バーツまで落ち込んだという。ティラコーン氏は、「それでも生き残ることができたのは、比較的コロナの打撃を受けにくいベーカリー事業とデリバリー事業の存在や、組織の大幅再編などの企業努力があったからだ」と、少し難しい表情で当時を振り返る。

出所:S&P公開資料に基づきTHAIBIZ編集部作成

ティラコーン氏は米国の大学を卒業した後、1年間の日本留学や、約6年間の日本での勤務経験がある。「日立、富士通、キヤノン、そしてスタートアップ企業でも働いた。その後、家業を手伝うためにタイに戻り、S&Pの経営に携わることになった」と、自身の経歴について明かした。

S&Pが日本食レストランをタイで展開することになった経緯について同氏は、「約10年前、S&Pは事業の多角化を目指し、日本食レストランの出店を検討した。そこで出会ったレストランブランドが、『とんかつ まい泉』と『梅の花』だ」と説明する。日本語が堪能な同氏はコーディネーターとして、「とんかつ まい泉」と「梅の花」のタイ出店に大きく貢献した。「個人的にも、大好きな日本の食文化をタイの人たちに広く伝えたい気持ちが強かった」と、当時の心境を語った。

日本での視察を最重視

「とんかつ まい泉」はタイ国内に10店舗あり、事業は順調に成長している。一方でティラコーン氏は、「S&Pとしてはさらなる事業発展を目指しており、タイで展開できる日本食レストランブランドを常に探している」と積極的な姿勢を見せた。同社は今月、京都のフレンチレストラン「モトイ」をタイで開店する。

タイで展開の可能性がある日本食レストランの探し方について同氏は、「日本での視察を繰り返している。赴いたお店では、オーナーやシェフと実際に話をして、どのような店なのかを理解するようにしている。個人的には、お客さんの幸せを第一に考えることや品質への徹底的なこだわり、丁寧な下ごしらえを大切にする『職人』という考え方を持っているレストランが狙いだ」と説明する。

「とんかつ まい泉」のタイ出店にあたっても、「日本の店舗を実際に視察したところ、強い顧客基盤や揺るぎない経営体制を持っていることを理解し、それらが決め手となった」と説明し、現地視察の大切さを強調した。

事業成長を支える戦術

順調に「とんかつ まい泉」の店舗を増やすことができた背景には、どのような戦術があったのだろうか。ティラコーン氏によれば、材料と生産工程の一貫した品質管理が、顧客の満足度向上に貢献している。「S&P工場内にセントラルキッチンがあり、『とんかつ まい泉』のオリジナルレシピに基づき、品質検査に合格したタイ産豚肉だけを利用している」と、同氏は徹底した品質管理に胸を張る。さらに、タイ人の顧客に価値を感じてもらえるよう、タイ人好みのソースの開発や、容器の形状の工夫など、タイ市場から学んだことも意識的に盛り込むようにしているそうだ。

S&P全体に目を向けると、人材育成への取り組みも成長の支えとなっているようだ。専門学校の学生を対象とした研修の実施に加えて、タイ教育省職業教育委員会事務局(OVEC)と協力し、タイ料理の未来のシェフを見つけるために、学生向け料理コンテストを開催している。出場した学生たちは、さらなる技術向上を目的とし、S&Pで働くことも可能だという。

また、ティラコーン氏は常に冷静な視点で市場トレンドを見ている。同氏は「タイの日本食レストランの市場は、『スシロー』などの低価格・拡大志向と、『梅の花』のような高価格・高級志向に二極化されている」と分析し、「タイ人は、外国料理である日本食に高い値段を払うことを厭わない。そのため、S&Pとしては後者を狙って新規パートナーを探している」と説明する。

さらに、「客が思わず写真撮影をしたくなるような、美しい店作り」にも注力している。「タイ人は料理の写真を撮ってSNSに載せることが好きで、それを楽しみの一つとしている。マーケティングの観点からも、ありがたいことだ」と、ティラコーン氏は隅々まで綺麗に清掃された店内を見渡した。

品質へのこだわり、ローカライズの工夫、人材育成、トレンドを押さえたマーケティングなど、さまざまな戦術を組み合わせて成長を遂げてきたS&P。MKグループの「やよい軒」のように、「とんかつ まい泉」もS&Pの築き上げた強固な土台があったからこそ、タイで輝くことができているのではないだろうか。S&Pの手によって、次なる「とんかつ まい泉」が生まれるのか、引き続き注目したい。

(執筆:サラーウット・インタナサック 編集:白井 恵里子)

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THAIBIZ編集部

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