カテゴリー: 協創・進出, 対談・インタビュー, スタートアップ
公開日 2024.08.05
世界を震撼させた新型コロナウイルス流行、そしてタイで急速に進む少子高齢化という長期的な社会構造変化を背景に、タイでペット産業が一気に開花している。そんな中で、大企業のポジションを捨て、2010年にタイでペット関連事業をスタートさせた「フォーリトルワン」の山内正太郎社長に、起業の経緯や現在の事業概要、そしてタイのペットビジネスの現状と課題などについてインタビューした。
(取材・6月14日、聞き手・増田篤)
目次
山内氏:電通海外IT関連会社の代表を務めていた時は東南アジアの統括をしていた。タイでは例えば日系大手自動車のサプライチェーンや開発系などのITシステムを提供していた。
2010年に「時の変化で儲かるビジネスモデル」を基本コンセプトに現在の「フォーリトルワン」を設立した。洪水や新型コロナウイルス流行の時も不景気でも儲かるビジネスモデルが効果を発揮し、利益を上げることができた。経済が失速して、通常のビジネスが落ち込んでも他のサービスが伸びるようビジネス・ポートフォリオを事前に構築していたからだ。
山内氏:自分もペットを飼っていたし、妻が犬のトリマーとして入賞していたことも一つの動機になった。そして、ペット事業は時の変化で儲けることができると考えた。
日本企業の駐在員でも日本でペットを飼っている人も多く、バンコク駐在になった時に犬や猫を連れて来ることになるが、その場合、ペットの輸出入の手続きが必要になる。日本からペットを連れてタイの入国は難しくないが、狂犬病のあるタイから狂犬病のない日本にペットを連れて帰るのは非常に難しく、8カ月ぐらいかかってしまう。そこでペットの輸出入代行業務を考えた。日本に行く際の検疫のノウハウが一番重要だ。
その次には「ペット可の住宅」探しのサービス、グルーミングや医療など日々のペットケアニーズも出てきて、帰国サービス(日本への輸出代行業務)までつなげることができる。駐在員が赴任前に、インターネットで探して連絡してくるケースもあるし、ある大手企業では赴任手帳に弊社のことが紹介されている。
山内氏:最初は日本人駐在員を顧客対象にしたが、3年以内にタイ人を50%以上にするというKPI(重要達成度指標)を持っていた。飲食業もそうだが現地の人から認められないサービスはだめだ。当時はまだタイ人の間ではペットブームはそれほどではなかったが、その後、急増した。当時からペットショップ、ペットフード売り場はたくさんあったが、当社は2010年に「ドッグカフェ」というペットと一緒に入店できる喫茶店をタイで最初に始めた。ただ、今はやっていない。
タイはペットフード産業が大きいが、ペットフード事業は手掛けず、サービス提供の事業を柱に据えた。例えば、「トゥインクル」という名称のドッグランを備えたペットホテル、グルーミング、そしてペット病院だ。グルーミングなどのビジネスは着実に増えてきていて、創業した最初の月以外は月次で赤字になったことはない。広告宣伝には頼らず口コミで顧客が広がっている形だ。ただペット病院は新型コロナ流行のときに維持が難しいと判断し、今は週1回のみに縮小している。
ペットの輸出入代行では当社はバンコクでトップだろう。日本との間だけでなく、「外―外」のスライド転勤にも対応でき、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内での異動のケースも多い。運送会社が当社に頼んでくる。日本人だけでなく、欧米人やタイ人も顧客になっている。これまでに3000匹ぐらい取り扱ってきた。依頼は異動の時期に集中している。
山内氏:創業当時はまだ、ペットの飼えるコンドミニアムなど賃貸住宅はほとんどなかった。そこで、大手不動産会社を説得して、ペット可のコンドミニアムを増やしてもらい、当社がそのコンドミニアムに投資してペットオーナーに賃貸するというペット可不動産仲介の仕組みを考えた。現在では200軒の物件を管理している。例えばアナンダ・グループやアシュトンなど、新築プロジェクトの時に私が説得してペット可にしてもらったコンドミニアムは多い。ペットを飼えるコンドミニアムは投資利回りが+3%前後良くなる。また、賃貸の部屋は通常、改造できないが、猫に合わせて猫専用の「キャットウォーク」を部屋に付けてあげたりすると喜ばれる。
このビジネスで重要なのは、不動産のオーナー情報と、ペットオーナーの情報だ。全戸を1人のオーナーが管理するアパートとは違い、コンドミニアムでは1戸ごとにオーナーが違う。そのオーナー情報は不動産会社も公開しないので、なかなか入手できない。当社はペットショップを運営しているため、ペットを飼っているタイ人やシンガポール人の富裕層で不動産を保有している顧客も多く、そうした不動産オーナー情報も入ってくる。そこで賃貸住宅でペットを飼いたい日本人をつなげることができる。
ペット可のコンドミニアムはここ2年ぐらい急増しており、今後さらに伸びていくだろう。今、新築で何百室もあるペット可のコンドミニアム物件も出てきている。
山内氏:当社はペット販売もやっており、直営のブリーダーもいる。バンコク郊外で育てて、買い手とペットとの面会はエカマイのトゥインクルでやっている。面会した後、いったん親元に戻して、3カ月間、兄弟などと一緒に育ててもらう。やはりこの期間に兄弟でじゃれ合うことで「甘咬み」なども覚える。やはり小さい頃は親の乳で育てるべきだ。タイのペットショップの9割以上は1カ月以内に親から離してしまう。やはり小さいほうが売れるからだ。当社は限定された犬しか販売できないので、当社の獣医師を連れてブリーダーを訪問し、骨格や伝染病のチェックをするサービスをしている。
タイは人間の病院での医療水準は非常に高いが、獣医師の国家試験、国家資格がなく、日本と比べたら水準が低い。獣医学部を卒業して簡単な試験を受けたらすぐに資格が取れる。獣医師協会にお金を払えば良い。やはり国家資格にしなければだめだ。
THAIBIZ編集部
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