自動車産業を支えるゴム大手が描く、BCG戦略と日タイ連携の未来~スリトラン・アグロインダストリー、ウィーラシット社長インタビュー~

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自動車産業を支えるゴム大手が描く、BCG戦略と日タイ連携の未来~スリトラン・アグロインダストリー、ウィーラシット社長インタビュー~

公開日 2026.04.22

タイの基幹産業である天然ゴム業界で世界最大級のシェアを誇るスリトラン・アグロインダストリー(STA)。同社は、世界の自動車・タイヤ産業の発展とともに持続的な成長を遂げ、現在はバイオ・循環型・グリーン(BCG)モデルを軸とした事業の高度化を推進している。2代目のウィーラシット・シンチャロンクン社長に、現在の天然ゴム市場の概況、海外拠点の拡張戦略、そして日本企業との協力関係について話を聞いた。

世界35工場・年間372万トンを誇る世界ゴム大手

Q. STAの沿革、現在の主要事業、およびグループ全体の構造は

ウィーラシット氏:当社はゴム製品の製造・輸出事業を行うために1987年に設立、翌1988年にはタイ南部のトラン県にグループ初の天然ゴム加工工場を設立しました。世界の天然ゴム需要の80〜90%を占めるタイヤ産業の発展とともに成長を遂げ、主要顧客の多くは世界的なタイヤメーカーです。

1991年にタイ証券取引所(SET)に上場し、2011年にはシンガポール証券取引所(SGX)にも上場を果たしました。

現在、タイ国内の南部、東北部、北部に加え、インドネシア、ミャンマー、コートジボワールにも生産拠点を拡大しており、計35工場で年間372万トン以上の天然ゴム生産能力を有しています。

STAの工場(写真:STA提供)

スリトラングループの主要事業は、次の3つのセグメントで構成されています。

また、欧州パートナーとの合弁による油圧ホース製造などの支援事業や、自社機械開発を行う研究開発(R&D)部門も抱えています。

ゴムシートの生産現場(写真:STA提供)

変化する世界のゴム市場構造

Q. 天然ゴムの生産と需要構造はどのように変化したか

ウィーラシット氏:もともと東南アジアのゴム産業を牽引していたマレーシアが、パーム油へ産業転換したため、生産拠点はタイとインドネシアへとシフトしました。現在の世界の市場構造は30年前とは明らかに異なります。供給面ではタイ、インドネシア、ベトナム、そしてコートジボワールが主要な地位を占め、需要面では日本、欧州、米国に加え、中国の飛躍的な成長が注目されています。

Q. 継続的な事業拡大に向けた製造工程における取り組みは

ウィーラシット氏:当社はエンジニアリング重視の工場を目指し、R&Dへの投資と自動化を推進しています。その核となるのは、日本から取り入れた以下の技術とコンセプトです。

また、日本の顧客の高い品質基準への対応が、当社製品の品質を国際水準へと押し上げてきました。

Q. ゴム産業の成長展望と地政学リスクの影響についてどう考えているか

ウィーラシット氏:過去20〜30年間、タイヤ産業における需要は急激ではないものの、着実に成長を続けてきました。天然ゴムと合成ゴムの利用比率は約50:50で推移しており、その選択を左右する主な要因は価格です。短期的にはコストの低い素材が選ばれる傾向にありますが、長期的には天然ゴムの需要はさらに拡大の余地があると考えています。

地政学的な対立に関しては、天然ゴムへの直接的な影響はありません。当社は米国には直接未加工ゴムを輸出しておらず、輸出先の大半は東南アジアや中国のタイヤ工場です。影響は主にタイヤメーカー側にありますが、各社は米国向け輸出拠点として関税面で有利な国を選択するなどの戦略を講じているようです。こうした状況下でスリトラン・グループは、地域のタイヤメーカーのニーズに的確に応えるパートナーとしての役割に注力しています。

Q. ゴム農業の未来と、川上工程へのテクノロジー導入は

ウィーラシット氏:農業部門の国内総生産(GDP)寄与率を高めるには、農産品を高付加価値製品へと転換することが不可欠です。そのためには、全部門のマインドセットを変えることが重要です。具体的には、ゴム園の経営にもシステム管理の手法を取り入れ、「エンジニア」や「プロジェクトマネージャー」の視点で捉えることが求められます。当社は、自社でシステム開発およびテストを行い、業界の標準を引き上げるモデルケースとなることを目指しています。

Q. 今後の事業拡大計画と輸出市場の方向性は

ウィーラシット氏:最も重要な事業拡大計画は、アフリカ大陸のコートジボワールにおける潜在能力の強化です。同国では小規模な工場を運営していますが、世界市場でのシェア拡大に向け、今後生産能力を増強していく計画を立てています。

輸出市場において、現在最も拡大している地域は「中国」です。中国は世界的な大手タイヤメーカーの主要な生産拠点となっており、日本、欧州、米国のいずれのブランドも中国国内に工場を構えています。そのため、当社は中国に生産拠点を置くグローバルタイヤメーカーに対し、原材料を供給することに重点を置いています。

環境戦略でグリーン・ラバー・カンパニーを目指す

Q. BCGモデルの推進と国際的な環境規制への対応は

ウィーラシット氏:当社は10年以上前から「グリーン・ラバー・カンパニー」を掲げています。具体的には以下の通り。

また、当社のゴム園はタイで初めて森林管理協議会(FSC)の認証を取得しました。2022年より欧州森林破壊防止規則(EUDR)への対応にも取り組んでおり、日本や欧州のパートナーからも高い評価を得ています。

スリトラングループのゴム園(写真:STA提供)

30年超えの実績と信頼、さらなる日タイ連携へ

Q. 日本の技術やビジネスコンセプトで関心のある分野は

ウィーラシット氏:化学、肥料、栽培技術など、日本が持つ幅広いテクノロジーに加え、日本独自の人的資源管理や労働規律にも関心を持っています。今後も従業員の研修派遣などを通じて組織のポテンシャル向上を目指しています。

Q. タイでビジネスを検討している日本企業へのメッセージを

ウィーラシット氏:当社は日本と非常に強固な絆で結ばれています。1990年に伊藤忠商事と合弁事業(JV)を開始し、ブロックゴムの生産・輸出を主軸とする「タイ・テック・ラバー・コーポレーション」を設立しました。伊藤忠商事は30年以上にわたって共に歩み続けてきた、極めて重要なパートナーです。

タイ人は日本に対して非常に好意的な感情を持っており、当社も日本の高度なナレッジやノウハウ、そして日本基準の高品質なモノづくりから学びたいという強い意欲を持っています。日本企業にとっても、当社の専門性を活かしてタイでのビジネスをさらに発展させる絶好の機会となるはずです。日タイの連携を通じて、タイの産業標準を国際レベルへと着実に引き上げていけると確信しています。

Interviewee Profile

ウィーラシット・シンチャロンクン 氏(Mr. Veerasith Sinchareonkul)
Managing Director, Sri Trang Agro-Industry PCL.

2010年にSTAに参画。2021年に社長に就任。スリトラングループの複数企業の役員も兼務し、グループ全体の経営を統括。2018年から2022年までタイ工業連盟(FTI)の理事を務めるなど、タイの産業界においても重要な役割を担う。チュラロンコン大学サシン経営大学院で経営学修士(MBA)取得、英レディング大学コンピュータサイエンス・サイバネティックス学士号取得。

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 岡部真由美

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