

公開日 2026.09.10
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パコーン長官と中村所長が語ったように、タイの宇宙産業はもはや「宇宙関連企業だけの世界」ではなく、製造業など他業種にも新たなビジネス機会が広がっている。ここでは、宇宙ビジネスに携わる日本企業の声を通じて、タイ宇宙産業への参入の糸口を探る。


「衛星製造やデータの利活用においては、これまでは政府主導の時代が長く続いてきたが、ここ数十年で民間企業の参入や商業利用が急速に拡大している。宇宙技術を活用して、自社事業や社会にどのような価値を創出できるかが重視される時代になってきたと感じている」。こう話すのは、宇宙スタートアップ企業、アクセルスペースの営業・事業開発本部セールスユニット長の鈴木麗子氏だ。
同社は、小型衛星の開発・運用に加え、地球観測データの提供や解析、さらには顧客の衛星プロジェクト実現支援までを一貫して手掛けている。現在は、自社の地球観測衛星を軌道上で4機運用するほか、今年7月に新たに打ち上げた7機についても、初期運用を進めている。衛星の部品は一部海外から調達しているものの、組み立てや試験は、他社と連携しながら基本的に国内で実施している。


同社はタイでの存在感も高めつつあり、GISTDAとの協力も推進中だ。現在は、自社衛星「GRUS」およびGISTDAが運用する衛星「THEOS」に関する知見の共有や衛星画像の利活用について協議を進めている。鈴木氏は、「タイは宇宙技術を社会課題解決や産業発展につなげる活動を強化しており、その考え方は当社とも一致している。GISTDAとは、互いの知見を共有しながら長期的なパートナーシップを築いていきたい」と語る。
協業で最も重視しているのは、「何を売るか」ではなく、「どのような課題を解決するか」という視点だ。農業、防災、森林管理、都市インフラ管理などタイが課題とする領域は、アクセルスペースが強みを持つ衛星データ活用と親和性が高い。
鈴木氏は「20年ほど前にバンコクで暮らした経験がある。当時と比べて鉄道網や街並みは大きく変化しており、急発展する都市では、土地利用やインフラを広域かつ継続的に把握できる衛星データの価値はより大きい」と話す。
他業種の参入可能性については、「宇宙ビジネスに参入するという発想よりは、自社の事業に宇宙技術や衛星データをどう活かせるかという視点で考えることが重要」と指摘。「製造業なら工場の周辺環境の状況把握、物流なら拠点のインフラ状況の確認、金融なら自然災害のリスク管理など、衛星データの活用範囲は急拡大している」と説明する。実際、同社には、「衛星データを自社の業務へどう活用できるか」「自社製品の信頼性向上のために宇宙空間で部品を実証したい」といった関心が寄せられているという。
今後5~10年で、衛星データは特別に意識して利用するものではなく、スマートフォンのカメラのように自然に活用されるインフラになっていくと鈴木氏は予想する。「AIやクラウド技術の発展により、膨大な衛星データを迅速に解析して課題解決に活用できる環境が急速に整ってきている。身近な情報として衛星データを活用することが普通の時代になっていくだろう」というのが、同氏の見立てだ。
宇宙を活用する企業が増えれば、その基盤となる衛星や関連機器、部品の需要も拡大する。次に紹介する湯本電機は、その後者を担う企業の代表例といえる。
宇宙産業の裾野を支えているのは、高度な加工技術や設計力を持つ数多くの製造業だ。大阪府に本社を置く湯本電機も、その一社である。
同社は、樹脂や各種金属、特にステンレス、アルミ、チタン、インコネル、マグネシウムなど幅広い材料に対応する切削加工技術を強みとし、自動車、半導体、食品などの製造装置向け特殊部品の製作を開発初期段階から支援している。従業員数は国内75人、ベトナム子会社を含めると135人だ(2026年7月時点)。


同社が宇宙分野へ本格参入したのは約7年前。将来の成長分野として、「ロボット」と「宇宙」を重点分野と位置付け、 専門プロジェクトチームを発足した。専用ブランド「ステラメカニクス」を立ち上げ、継続的な情報発信や営業活動を進めた結果、小型衛星やロケット関連部品の受注を獲得。現在では宇宙関連事業が売上全体の約6%を占めるまでになっている。
宇宙産業への参入は、売上だけでは測れない効果も生み出した。同社の湯本秀逸社長は「宇宙分野では極めて高い品質や精度が求められるため、『できない』で終わらせず、『どうすれば実現できるか』を考える文化が社内に定着した。さらに、若手技術者の採用や企業ブランドの向上にもつながった」と語る。
海外展開では、米国市場への参入も検討してきた。宇宙分野は安全保障とも深く関わり、現地生産体制や各種認証など参入要件も高いため、現在は市場環境を見極めながら戦略を模索している。一方、着実に成果を上げているのがベトナムでの取り組みだ。
同社は2018年にベトナム子会社を設立。現地ネットワークを生かしてベトナム国家宇宙センター(VNSC)との関係を築き、2023年には、日本のODAとJAXAの協力で整備が進むスペースセンターに関する基本合意書(MOU)を締結した。現在は、同センター内設備の監修を担っている。
湯本社長によれば、提携実現の背景には、いくつかのポイントがある。まず、日本国内で衛星部品の製造実績を積み重ねていたこと。そして、VNSC設立間もない段階から関係構築に動いたことだ。さらに決め手となったのが、ベトナムに現地法人を持っていたことである。VNSCが求めていた「Made in Vietnam」に対し、日本の技術をベトナム法人を通じて提供できる体制が高く評価されたという。


一方で、MOU締結後も、進捗は決して早くない。同社長は「宇宙産業はまだ完成された市場ではない」と指摘したうえで「短期間で投資回収を目指すのではなく、既存事業を基盤としながら長期的な視点で取り組むことが重要だ」と、参入時の心構えについて語る。また、政府機関や大学、研究機関、既存の宇宙企業と連携しながら取り組むことで、参入の可能性はさらに広がるという。
今後、在タイ日系製造業が宇宙産業への参入を検討する際には、「現地に根差した拠点を活かし、政府・研究機関との信頼関係を築きながら長期的に市場を育てる」という湯本電機のベトナムでの歩みは、有力なモデルケースの一つとなるだろう。
衛星データを活用し、社会課題の解決に新たな選択肢を提供するアクセルスペース。高度な技術を活かし、宇宙産業を支える製造領域へ挑戦する湯本電機。宇宙経済の成長を支えるのは、多様なプレーヤーによる挑戦だ。二社の歩みは、その可能性を示している。


THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 白井恵里子


