アヌティン首相、経済界トップと直接対話 〜35人の経営者会合に見る、タイ経済再設計の本気度〜

THAIBIZ No.174 2026年6月発行

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アヌティン首相、経済界トップと直接対話 〜35人の経営者会合に見る、タイ経済再設計の本気度〜

公開日 2026.06.10

アヌティン政権が、タイ経済界との距離を一気に縮めようとしている。5月15日、首相府にタイを代表する大手民間企業の経営者や業界団体トップが招かれた。政府側が一方的に政策を説明する場ではなく、「民間の意見を政府が聞く」ことを前面に打ち出した点が、今回の会合の大きな特徴である。

タイ主要産業の経営者が一堂に

今回招かれたのは、タイ商工会議所のポット会頭、タイ工業連盟のピムジャイ会長、タイ銀行協会のパヨン会長などの主要経済団体トップに加え、タイ経済を代表する経営者たちである。

金融界からはバンコク銀行、カシコン銀行、サイアム商業銀行の幹部が参加し、農業・食品業界ではチャロン・ポカパン(CP)グループのタニン上級会長、タイビバレッジ、サイアムクボタなどの代表が出席した。

自動車業界からはトヨタやホンダ、エネルギー業界からはガルフ・デベロップメントなどが参加。他分野からも、業界を代表する企業代表らが列席した。

民間が提示した 「タイ経済の設計図」

参加企業からは、タイが地政学的緊張の中で中立性を保ちながら国内産業を守り、クリエイティブエコノミーや低炭素経済を成長分野として押し上げるべきだとの提案があった。

金融界は、タイを「安全で高効率な低炭素ハブ」として再定義し、地域統括本部や研究開発(R&D)拠点、さらにはカーボンクレジット取引センターとして発展させることを提案。一方で、家計債務や法制度改革への対応も長期的な競争力向上に不可欠だと指摘した。

商業界は汚職対策組織の設立、自動車業界は国内生産基盤を守るセーフガード措置と「新車買い替え支援」策、観光業界は入国税導入の延期などを提案。医療業界では、医療ツーリズムの発展による健康安全保障の構築や、国産医療製品の優遇措置が提案された。

建設・エネルギー業界は、1兆8,000億バーツ規模のインフラ投資、水や電力、許認可といったボトルネック解消を重要課題として挙げた。小売・サービス業界は、タイをASEANの貿易・投資ハブへ引き上げること、公平な競争環境、欧州連合(EU)との自由貿易協定 (FTA)加速を提案した。

全体として民間の要求は、短期的な景気刺激ではなく、タイを「あらゆる分野における地域ハブ」へ再設計することである。そのためには、各種の構造的な課題を解決する必要があり、今回の会合はその方向性を官民で共有する場となった。

政府が示した4つの実行軸

会合後、エクニティ副首相兼財務相は、世界経済や地政学リスクをタイの成長機会と位置付けた。政府は今後、①インフラ・クリーンエネルギー投資、②人的資源の高度化、③新たな成長エンジン創出、④構造的ボトルネック解消―の4軸で政策を進める方針を示した。

注目すべきは、政府が民間からの提案を単なる意見として扱わず、官民合同委員会を通じてアクションプラン化した上で進捗管理し、半年後に再評価するとしている点である。これが実行されれば、民間の知見を国家運営に組み込む新しい仕組みになりうる。

能動的な情報収集が鍵となる

この会合は、タイの経済界がいま何を恐れ、何を期待し、どこに成長機会を見出しているのかを分かりやすく示した。

重要なのは、日本企業がこのような議論にいかにして入り込み、誰から情報を取り、どのタイミングで本社へ伝えるかである。表に出るニュースだけでなく、民間企業、政府機関、業界団体、メディア、専門家の間で交わされる情報をいち早く取りに行けるかどうかが、本社を含む経営判断を大きく左右する。

タイ経済界の声を読み解き、政策の方向性を先に掴み、それに合わせて事業を再設計する。今後タイで成果を出す企業は、単に「市場を待つ企業」ではなく、「能動的に情報を収集し、変化の中に入り込む企業」なのだろう。

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Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer

ガンタトーン・ワンナワス

在日経験通算10年。2004年埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ国の王室関係者や省庁関係者のアテンドや通訳を行い、タイ帰国後の2009年にメディエーターを設立。日本政府機関や日系企業のプロジェクトをコーディネート。日本人駐在員やタイ人従業員に向けて異文化をテーマとした講演・セミナーを実施(講演実績、延べ12,000人以上)。

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