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公開日 2025.06.12
本セミナーシリーズ「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」では、ビジネス経済情報誌ArayZ2023年10月号の特集記事「なぜタイ人は日系企業を辞めるのか?」の反響を受けて、著者Asian Identityの中村勝裕氏に、経営変革に取り組む在タイ日系企業の事例をご紹介いただきます。
THAIBIZは5月16日、Asian Identityと共催で「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」第三回セミナーを、日本語とタイ語の二言語でハイブリッド開催しました。
今回のセミナーでは、旭化成プラスチックス(タイランド)社(以下、「APT社」)よりManaging Directorの小池尚生氏および、ADM & SHE Senior Department ManagerのSomchoke氏をゲストにお迎えし、同社の組織カルチャーの変革ストーリーご紹介いただきました。オンライン・オフライン合計で100名以上の参加申込があり、タイ人参加者も多く見受けられました。
目次
セミナー冒頭ではAsian Identityの中村氏が、THAIBIZの2024年10月号巻頭特集「なぜタイ人は日系企業を選ぶのか?」で紹介されている「日系企業を復活させるPRIDEモデル」(図表1)について解説。
「タイ人に選ばれる企業の取り組みポイントを整理すると、①理念を強みに据えた経営(Philosophy)、②長期目線に立った能動的採用(Recruiting)、③ 熱心さと継続性のある教育(Development)、④明確な基準に基づいた評価制度の設計と運用(Evaluation)、そしてすべての起点となる⑤ リーダーの決断と行動(Initiative)の5点に集約される」と説明した上で、「今回ご紹介するAPT社の取り組みは、特に①Philosophyを体現しているモデルケースであり、日本人とタイ人が二人三脚で変革に挑んでいる点がポイントだ」と紹介しました。
中村氏は、在タイ日系企業が理念を語る意義について「昨今の日系企業の位置づけの変化に伴い、会社としての未来を語る必要性が増している。さらに、激化する人材獲得競争の中では、より“自社らしさ(アイデンティティ)”を訴求することが重要だ」と説明しました。
APT社の小池氏は旭化成株式会社について「1922年に設立し、現在は①マテリアル、②住宅、③ヘルスケアの3領域で事業を展開している」と紹介し、APT社については「このうち①マテリアル領域内の事業を手がけるタイ法人だ。強度と耐熱性に優れた機能樹脂(エンジニアリングプラスチック)の生産販売に携わっており、具体的には、ポリアミド(PA)樹脂『LEONA™』、ポリアセタール(POM)樹脂『TENAC™』、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)樹脂『XYRON™』の3製品を生産販売している。原料から製品まで一貫生産できることや、グローバルでのコンパウンド生産が強みだ」と説明しました。
続いて同氏は、APT社の離職率の推移を紹介し、「2019年、高い離職率の改善を目指してAsian Identityと共に組織カルチャー変革の取り組みを始めた。その結果、コロナ禍が明けた2022年~2023年頃に、ようやく組織文化が成熟して離職率が落ち着いた」と、変革の目的と成果について解説しました。
変革の成果は離職率の改善だけではありません。工場経営にとって重要な「安全・安心・安定操業」のレベルが向上し、例えば、安全成績、ロス率やトラブル数などの全てのパラメーターが改善しました。同氏は「カルチャー変革によって離職率が低下し、組織の人的構成が変化してきたことも成功の要因だと思っている。
具体的には、入社2年以内の比較的経験の浅い層の比率が減少し、ベテラン層比率が増加したことで、構成人員の平準化が起こっている」と説明し、「このような人的構成の安定と組織文化の成熟が、工場全体のパフォーマンスの向上につながっている」と見解を述べました。
APT社の組織カルチャー変革を牽引したADM & SHE Senior Department ManagerのSomchoke氏は、「日本人とタイ人は、目上の人への敬意やハイコンテクスト文化、対立の回避など似ている部分もある一方で、計画の立て方や実行の仕方など異なる部分も多い。文化や価値観の相違が原因で仕事が円滑に進まない場面が多々あり、労災やミス、トラブルの発生につながっていた」と変革に至った背景について説明。
続いて「当社には200人以上の社員が在籍しているが、人材は企業を動かす存在であるため、企業文化の醸成が必要不可欠だと考えた。主に従業員の能力開発制度、人材管理システム、および職場環境の整備の3つを柱に変革を行ってきた」と、変革の主旨について語りました。
同氏によれば、プロジェクトの第一ステップとして実施した全社員への意識調査では、マネジメントスタイルのギャップや部門間の連携不足、「部下が上司に気持ちを伝えられない」といったコミュニケーションの課題、社員間のスキル格差が大きいことなどが明らかになりました。
この結果を受けて第二ステップでは、部門を越えて問題の共有を図るコミュニケーションセッションを実施。日本人を含めた社員間でブレインストーミングを行い、「Safety(安全)」「Improvement(改善)」「Caring(会社を愛する)」等の6つのフィロソフィー(6 beliefs)を構築しました。
Somchoke氏は「当初は約20個のキーワードを用意していたが、優先順位を軸に取捨選択した結果、最終的に6つのキーワードが残った。6 beliefsの構築には約半年の歳月を要したが、企業文化を言語化したことで共有しやすくなった」と、その過程を振り返りました。
小池氏は、6 beliefsのうち特にユニークな「Caring」というワードについて、「会社を好きになって欲しい、という想いで選ばれた言葉だ。Caringという言葉を、社員が仲間へのケアと解釈して、実践してくれたことで、結果的に会社を大切に思う気持ちの醸成にもつながっていると感じる」と解説しました。
第三ステップは、策定した6 beliefsの浸透に向けた取り組みでした。Somchoke氏は「まずはマネジャー以上の役職で実践し、全社員への浸透を目指した。具体的には、評価項目への追加や、ポスターコンテストなどの企画を通じて、6 beliefsと自分の仕事との繋がりを考える機会を意識的に作っている」と説明。キーワードを提唱するだけでなく、6 beliefsをベースとした“会話”を心がけることで浸透の促進を図っていることを強調しました。
第四ステップとして行われた全社員への意識調査では、全項目において改善が見られたといいます。同氏は「モニタリング調査を定期的に実施し、改善のための計画立案と実行を繰り返している。離職率、ルール違反、コミュニケーションなど、あらゆる側面において大幅に改善されたが、まだ課題はある」とし、今年度は社内のジェネレーションギャップによる問題解決に焦点を当てることを明かしました。
トークセッションでは、変革のポイントや変革を実践するにあたり意識すべきことを議論しました。APT社の変革プロジェクトを担当したAsian IdentityのPakwan氏は同社の取り組みについて、「あらゆるアクティビティーに6 beliefsを盛り込むことで、全社員が個々のbeliefについて腹落ちできており、組織文化の浸透につながっている」と評価しました。
Q&Aセッションでは、時間の経過に伴うトーンダウンを防ぐ方法や本社とのコミュニケーション、社内ワークショップ開催方法等について、多くの質問が寄せられました。
最後に中村氏はまとめとして、「PRIDEモデルの中のPhilosophyを、強いInitiativeをもってやり遂げたことがAPT社の特徴の一つだ」と解説し、同氏が策定した「海外拠点変革アクション・チェックシート」(図表2)を紹介しました。
さらに、タイ人のエンゲージメントを高めるには「ビジョンの表明」「歴史の共有」「方針の明示」が挙げられると説明し、会社としての方向性をタイ人社員に明示することが求められていることを強調しました。
ーーー
本セミナーシリーズでは、今後も「選ばれる企業」になるためのヒントをお届けしてまいります。第4回以降もご期待ください。
>>「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」第一回セミナーレポートはこちら
>>「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」第二回セミナーレポートはこちら
>>人事評価やタイ人育成に関するAsian Identityのお勧めサービスはこちら
中村勝裕 氏
Asian Identity Co., Ltd. Founder & CEO
株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役
愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。YouTubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」を運営。
Asian Identity Co., Ltd
2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、”Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。
開催概要
「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」第三回
旭化成タイ法人の取り組みから学ぶ「タイ人リーダーによる組織カルチャー変革」
日時:2025年5月16日(金)15:00~16:30(タイ時間)
形式:ハイブリッド(オフライン会場 / オンライン)
会場:Mediator内セミナールーム
主催:THAIBIZ(Mediator Co., Ltd.運営) / Asian Identity Co., Ltd. ※共催※プログラム詳細はこちら
THAIBIZ編集部
「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」開催リポート|旭化成タイ法人の取り組みから学ぶ「タイ人リーダーによる組織カルチャー変革」
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