公開日 2024.06.19
本セミナーシリーズ「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」ではビジネス経済情報誌ArayZ2023年10月号の特集記事「なぜタイ人は日系企業を辞めるのか?」の反響を受けて、著者Asian Identityの中村勝裕氏に、人事制度変革に取り組む在タイ日系企業の事例をご紹介いただきます。
THAIBIZは6月5日、Asian Identityと共催で「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」第一回セミナーをハイブリッド開催しました。
シリーズ初回となる今回セミナーでは、株式会社村田製作所のタイ拠点であるMurata Electronics (Thailand) , Ltd.(以下、MTL)より内藤龍祐氏をゲストに迎え、同社が実施した人事制度改革についてご紹介いただきました。オンライン・オフライン合計で約290名の参加申込があり、Q&Aセッションで寄せられた質問内容からも、参加者の皆様の高い関心度を伺うことができました。
目次
まず、中村氏がイントロダクションとして、「ArayZの2023年10月号特集では、日本企業の人気低迷の理由として、イメージの低下、キャリアの問題、上司・意思決定構造の問題、そして評価・給与の問題を挙げていた。今回セミナーでは、この中の『評価・給与』をテーマとして取り上げる」とした上で、「前回の特集では、そのタイトルからも『タイ人が日本企業を辞めること』が強調されていたが、本セミナーシリーズでは、日本企業の弱点さえ理解し改善すれば、今からでも日本企業は変われると改めて伝えること、ひいてはタイから日本を変えることを目指したい」と説明しました。
具体的な提言として、①新しい日本人リーダー像を作る(シン・日本人)、②タイ法人の存在意義(ミッション)を語る、③タイ人スタッフ主導で魅力的な文化を作る、④評価基準を透明化し、評価スキルを高める、⑤戦略的採用で優秀人材を「口説く」ーの5つを挙げました。そして「特に④について、MTLでは丁寧に大胆な変革を推進している。今日は、同社の具体的な取り組み内容から、あらゆるヒントを探っていきたい」と、今回セミナーの主旨を強調しました。
ゲストの内藤氏は、村田製作所について「総合電子部品メーカーとして、材料から設備までを一貫して研究開発していること、幅広い製品ラインナップ、およびグローバルな生産・販売ネットワークが強みだ。特にスマートフォンや電気自動車の必須部品として使用される積層セラミックコンデンサ(MLCC)が主力商品であり、世界トップシェアを維持している」と説明。また、1954年に創業者の村田昭氏により創られた社是を紹介し、同社が大切にする価値観について解説しました。
タイ法人であるMTLは1988年9月に設立され、ランプーン県内の北部工業団地に所在しています。従業員数は約6,000人、そのうち日本人は約60人。内藤氏によれば、同工場での生産品目は複数にわたり、2023年には主力商品であるMLCCの生産棟も竣工しました。
同氏は、MTLに人事制度改革が必要となった背景について、「ローコストでの生産を役割として担っていた『第一創業期』から、最先端の部品生産やMLCC生産も担う『第二創業期』に突入したことで、従業員の自立的な考え方や行動が今まで以上に重要となってきた。そのため新しい人事制度のキーワードを“Professional”とし、従業員が自立的に主体的に、プロフェッショナルとして働く環境の整備に注力している」と説明しました。
具体的には、ハード面では社内の家具や就業ルール等のオフィス環境と、ユニフォームデザインの刷新を行い、ソフト面では社内SNSの活用によるコミュニケーションの活性化、人事制度の全面改訂、および社是の実践促進を実施。特に人事制度の改訂においては、これまで曖昧だった職級定義にメスを入れ、一人一人の従業員に対し、会社が求める役割と期待値を明確化したといいます。内藤氏は「中心化傾向だった評価制度を改訂することで、頑張った人が確実に報われる組織へと進化できると考えている」と、本改革への期待を示しました。
同氏は「職級定義の明確化や役割等級制度の導入、役職設定の見直し、潜在能力ではなく実績と行動を評価する考課制度、報酬制度の是正など、約1年半をかけて準備し昨年10月から新制度をスタートした」とこれまでの道のりを振り返り、さらに「決定プロセスにおいては都度、管理職を巻き込み、一方的な押し付けではない形の改革を心がけた。時間はかかったが、その分スムーズに導入ができたと思う。また、従来のやり方を否定するのではなく、会社の置かれている環境の変化に伴う必要な変化だというメッセージを、トップから全従業員に伝えるようにしていた」と、丁寧な社内コミュニケーションの重要性についても強調しました。
また、「オフィス家具やユニフォームなど目に見える変化の早期実現は、従業員に会社の変化意欲を体感的に理解してもらうメリットがあり、さらに、従来と変わらず大切なこと(社是)の実践度を確認することも大切だ」と、変革を行う上でのポイントを明かしました。
参加者からの関心も高かった「従業員からの反応」について、内藤氏は「変化に対する不安が見られた一方で、全体的に会社が良い方へ向かっているとの理解が得られている実感がある。ただ、これは当社の継続的な安定雇用も大きく影響しているだろう」と説明しました。
Q&Aセッションでは、改革における本社との関係や予算の確保、言語の壁、職級の定義のしかた、昇格の試験内容、給与レンジの設定、従業員との対話についてなど、多岐にわたる質問が寄せられました。
また総括として、中村氏は「MTLの管理職は、会話の中で自然と社是の言葉が出てくる程、理念に浸透している。人事改革プロセスにおいても、決定したことを押し付けるのではなく、丁寧なコミュニケーションと、従来のやり方を否定しない肯定的なメッセージを積極的に伝えるなど、日本人とタイ人が協業して創り上げた好事例だ。家具やユニフォームなど目に見えるもので変化をPRすることも上手く作用していた」と解説し、厳しさと温かさを兼ね備えた変革方法であると評価しました。
本セミナーシリーズでは、今後も「選ばれる企業」になるためのヒントをお届けしてまいります。第二回以降もご期待ください。
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Asian Identity Co., Ltd. Founder & CEO
株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役
愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。YouTubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」を運営。
2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、”Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。
「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」第一回
村田製作所タイ法人の取り組みから学ぶ「タイの人事制度改革」
日時:2024年6月5日(水)15:00~16:30
形式:ハイブリッド(オフライン会場 / オンライン)
会場:Mediator内セミナールーム
主催:THAIBIZ(Mediator Co., Ltd.運営) / Asian Identity Co., Ltd. ※共催
※プログラム詳細はこちら
THAIBIZ編集部
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