タイの相続の概要~タイにおける遺言~

ArayZ No.120 2021年12月発行

ArayZ No.120 2021年12月発行変わる日タイ関係-タイ人における日本の存在とは

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タイの相続の概要~タイにおける遺言~

公開日 2021.12.09

当職担当の回では、タイにおける相続の概要について説明している。前回はタイに財産のある日本人に対して、タイで適用される相続制度について解説した。

今回は、タイの財産について遺言を作成する場合の、その効力や形式、解釈などについて解説する。

遺言の作成

タイに財産がある日本人が遺言を作成する場合、いかなる点に注意をして作成をすべきだろうか。

タイに財産がある、国際的な相続の場合、そもそもその遺言の作成と成立について、日本とタイどちらの国の法律が適用されるかという点から難しい問題である。

もっとも、タイでスムーズに相続手続きを進めるためには、タイ法上の規定に従っている必要がある。

このため今回は、タイで相続手続きができることを念頭において遺言を作成する場合、として解説する。

適用される法律

前回も解説した法律ではあるが、Act On Conflict Of Laws B.E.2481(以下「抵触法」)において、国際相続における遺言の作成能力や適用法などが規定されている。

まず、有効な遺言を作成することができる能力について、「遺言を作成する人の能力は、遺言が作成された時の国籍の法律による」(抵触法39条)として、遺言作成者の国籍地における法律が適用される旨が規定されている。

これによれば遺言作成者が日本人の場合、遺言は15歳に達した場合に作成することができる(民法961条)。このため、15歳以上であればタイでも原則として遺言を有効に作成できる。

遺言の形式について抵触法40条では「人は、自身の国籍における法律で規定されている形式に加えて、遺言を作成するその国の法律で定められた形式に従って遺言を作成することができる」とされている。  このため、まず日本人であれば、日本の民法に従う形式で遺言を作成することができる。さらに、遺言をタイにおいて作成する場合には、タイの民商法典に従う形式で、遺言を作成することもできるものといえる。

さらに作成された遺言についての効力やその解釈については、「遺言の効力および解釈、ならびに遺言または遺言の条項の無効は、遺言を作成した者の、死亡時の居住地の法律に準拠する」(抵触法41条)とされている。

このため、遺言の効力や、遺言の内容の解釈について争いが生じた場合には、遺言を作成した者の死亡時の居住地によりその有効無効や解釈が判断されることとなる。つまり、遺言を作成した日本人の死亡時の居住地がタイであった場合には、当該遺言の有効性や解釈については、タイ法に従って判断されることとなる。

最後に、作成した遺言の取消については「遺言または遺言の条項の取消しは、その取消がされた際の遺言を作成した者の居住地の法律による。また遺言または遺言の条項の失効は、遺言を作成した者の死亡時の居住地の法律による」(抵触法42条)とされている。

このため、日本人が遺言を作成し、後にその遺言を取消す際、取消時の居住地がタイであった場合は、タイの法律に基づき取消の有効性が判断される。

遺言の形式

遺言の形式としてタイの民商法典には大きく5種類が規定されている。このうち日本人が作成することが実務上可能なものは次の2種類である。

(a)普通遺言は、遺言作成時の年月日を記載の上、遺言者と2人以上の証人の署名により作成される(民商法典1656条)。

この証人は、遺言時における遺言者の署名を保証するためのものである。

この普通遺言は日本の遺言の方式でいえば公正証書遺言に似ているが、証人となる者の資格が公証人に限定されていない点や、遺言の趣旨を口頭で伝える必要がない点は日本と異なる。

(b)自筆証書遺言(民商法典1657条)は、その遺言の全てを遺言者の自筆で記載し作成する遺言である。

これは日本における自筆証書遺言と類似の形式と言える。

まとめ

日本人もタイの法律に基づき遺言を作成でき、タイ法上の遺言方式自体は日本と類似するものである。また日本の形式に基づき、遺言を作成することも可能である。

タイにも日本にも財産を有する場合、タイでの手続きを念頭にすれば、タイの財産を日本の財産と分けてしまうこと、また日本の遺言と矛盾抵触しない形で遺言を作成しておくことが、その内容が複雑化し、解釈が混乱する可能性を抑えることができ、タイで手続きを進める際には有用であると考える。

ただ、国際相続は税務面も含め複雑な検討が必要になるため、遺言作成の際は専門家へ相談しながら作成をすることをお勧めする。

寄稿者プロフィール
  • 藤原 杯花 プロフィール写真
  • TNY国際法律事務所
    日本国弁護士
    藤原 杯花

    17年1月よりタイのTNY国際法律事務所にて執務。TNY国際法律事務所は、日本人弁護士2名が共同代表を務める法律事務所であり、会社設立から規制調査、契約書のリーガルチェック、商標登録申請、相続手続きなどのサービスを提供している。

    URL : http://www.tny-legal.com/
    CONTACT : [email protected]

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THAIBIZ編集部

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