ArayZ No.139 2023年7月発行BCG経済モデルで豊かな社会へ
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カテゴリー: ASEAN・中国・インド, カーボンニュートラル
公開日 2023.07.09
佐藤 暢史|プノンペン出張所長
目次
近年経済成長が顕著なカンボジアでは急増する電力需要に対応するため、独立系発電事業者(IPP:Independent Power Producer、以下IPP)による水力発電所や石炭火力発電所の開発が進められてきた。2019年には、渇水による水力発電所の稼働率低下に起因して大規模な停電が発生したが、近年は停電発生頻度は改善傾向にある。ただし、タイやベトナムなど周辺国に比べて停電発生頻度は高く、縫製業依存から脱却し、高付加価値産業をカンボジアへ誘致するためには、電力品質の更なる向上など電力インフラの継続的な改善が求められる。
また、グローバル企業の大宗がカーボンニュートラル目標を設定している中、カンボジアではまだグリーン電力証書制度が導入されていないほか、ルーフトップ太陽光発電を導入すると高い電力料金を支払う必要がある等、現地に進出する日系企業などから制度面の改善を求める声も大きい。
カンボジア政府は21年12月に気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)事務局へ後発発展途上国初となる「カーボンニュートラル長期戦略」を提出し、50年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を定めている。22年カンボジアの電力消費量(輸入電力含む)については40.7%が再生可能エネルギーで、特に水力発電が36%を占める。カンボジア政府は石炭火力発電所の新設を許可しない方針であり、またカンボジア国内で大規模水力発電を開発する余地は限定的であることから、今後は再生可能エネルギーを積極的に活用していく方針であるほか、省エネルギーについても「The National Energy Efficiency Policy(NEEP)」を制定し、これから推進していく方針である。
22年9月に制定された「Power Development Master Plan 2022-2040」(以下PDP)には40年迄の電力需要予測、発電計画、送変電計画が記載されている。発電計画については5つのシナリオを策定しており、メインシナリオは、既存の発電所に認可済の石炭火力プロジェクト、水力、ガス火力、再生可能エネルギー(太陽光、バイオマス等)の新規プロジェクトならびに省エネ推進、ラオス、タイからの電力輸入拡大を前提としている。
今回制定されたPDPメインシナリオにおける電力構成は、30年石炭火力24%(2,266MW)、水力17%(1,558MW)、太陽光(Battery Energy Storage System(以下BESS)を含む)13%(1,205MW)、バイオマス1%(98MW)、輸入電力40%(ラオス3,095MW、タイ700MW)(30年カンボジア発電能力+輸入電力合計9,412MW)、40年石炭火力15%(2,266MW)、水力20%(2,973MW)、太陽光(BESSを含む)26%(3,755MW)、バイオマス1%(198MW)、ガス火力6%(900MW)、輸入電力28%(4,095MW)(40年カンボジア発電能力+輸入電力合計14,677MW)となっている。
今回制定された新PDPでは、太陽光発電と水力発電、電力輸入を大幅に拡大させる計画であり、再生可能エネルギーや電力輸入に大きく依存した計画とも言える。カンボジアは日照時間が長く、太陽光発電に適した立地であるが、電力安定供給と経済成長、そしてカーボンニュートラル社会実現をどのように両立していくか難しい運営が求められる。
再生可能エネルギーや電力輸入に大きく依存したカンボジアの新電力マスタープランであるが、実現可能性についていくつか留意すべき課題がある。
まず輸入電力について、特にラオスからの電力輸入量を大きく拡大させる計画を策定しているが、19年にカンボジア電力公社(EDC)はラオスと電力販売契約(PPA: Power Purchase Agreement、以下PPA)を締結しているが、その内訳について今後ラオスで新設を計画している石炭火力発電所からの電力輸入が含まれている(合計2,400MW)。現在、地球温暖化対策の重要性が高まっており、石炭火力発電所に対するファイナンスは非常に難しく、ラオスの石炭火力発電所新設プロジェクトを計画どおり進めていくことは非常に難しいとの認識であり、ラオスからの電力輸入計画の実現可能性について見極める必要がある。
次にカンボジアの再生可能エネルギーの中心に位置付けられている太陽光発電について、カンボジアでは非常時に使用するディーゼル発電所以外、国内発電所は全てIPPにより運営されている。もしEDC自らが大規模な水力発電所や火力発電所、大規模蓄電池等を所有していれば、自ら調整をしながらカンボジアの系統で太陽光発電の受入が可能となるが、カンボジアにおける太陽光発電への依存度が過度に高くなった場合、運用の難易度が高まる可能性が高い。
また、現在カンボジア政府として、より付加価値の高い産業誘致に注力する方針であり、自動車やエレクトロニクス関連企業を優先業種として、カンボジアへの進出促進を図りたいと考えている。よりエネルギー消費の大きい工場が今後カンボジアに多く進出し、電力需要が当初想定よりも多く増加した場合、輸入電力や太陽光発電だけでなく、中長期的なカンボジア国内の電源開発も十分検討していく必要がある。今回の電力マスタープランにおいて、30年代にガス火力発電所を新設する計画が含まれているが、EDC自ら保有する大規模電源の開発についても検討が必要ではないだろうか。
カンボジアの脱炭素社会実現に向けて課題も多いが、今後急速に再生可能エネルギーや省エネに注力していく方向性に大きな変更はないものと考える。再生可能エネルギーや省エネの知見や経験が豊富な日系企業にとって、このカーボンニュートラル化の流れは新たなビジネスチャンスを創出する可能性がある。
まずは再生可能エネルギープロジェクト案件への参画である。今後、カンボジアでは太陽光発電の比率が大きく高まるということは前述のとおりであるが、稲作が非常に盛んなカンボジアでは籾殻が豊富であり、バイオマス発電などもビジネスチャンスといえる。しかしながら、カンボジアにおけるIPPはEDCとのみPPAを締結できることとなっており、売電価格は非常に安価であることから、収益性がネックとなる事例も少なくない。日本とカンボジアとの二国間クレジット制度(JCM)の補助金を活用することも一案である。
次に日本の省エネ技術の活用である。カンボジアではNEEPが制定され、30年迄に省エネを行わない場合と比較して19%の省エネを達成する目標を設定しているが、省エネ家電のラベリングなど、まだ議論が始まったばかりである。年間平均気温27℃のカンボジアではあるが、ヒートポンプなど省エネ機器の導入事例は非常に少ない。また、大規模商業施設開発プロジェクトにおけるコジェネレーションなども将来的な導入の可能性は皆無ではない。
次の経済発展のステージを目指すカンボジアにとって脱炭素社会の実現は大きなチャレンジである。カンボジアが縫製業に大きく依存する産業構造から脱却し、自動車やエレクトロニクスの分野など高付加価値の産業集積を加速させるため、脱炭素社会実現は不可欠であり、カンボジアとして脱炭素社会を目指していく方向性は変更することはないであろう。現在、中国の影響力が非常に高まっているカンボジアであるが、日本の強みであるカーボンニュートラルや省エネの知見がカンボジアにおけるビジネスチャンスに繋がっていく可能性は十分あると考える。現在取組んでいるJICAプロジェクトなど日本からの支援を梃子として、再生可能エネルギー案件や省エネ機器など日系企業のビジネスチャンスが拡大していくことを強く期待したい。
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みずほ銀行メコン5課
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