タイで培土の現地生産と普及に挑む「将来的には日本にも還元したい」両国Win-Winのシナリオも

THAIBIZ No.152 2024年8月発行

THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意

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タイで培土の現地生産と普及に挑む「将来的には日本にも還元したい」両国Win-Winのシナリオも

公開日 2024.08.09

水稲用育苗培土や野菜・園芸用培土の各種生産と、有機肥料の製造販売を手がける関東農産。1989年の設立以来、全国の農家に食の安心と安全につながる農業資材を提供している。2019年には、来日したタイ農業・協同組合省との交流が契機となってタイ国内に現地企業との合弁会社を設立。海外進出の足がかりをつかんだ。南国の大地でタイ農業の底上げと生産性の拡大、さらには日本農業との連携を目指している。


株式会社 関東農産 (THAILAND) COMPANY LIMITED
真鍋 和裕 取締役

株式会社 関東農産 1989年設立。栃木県那須町にて、水稲育苗培土、園芸培土、有機肥料の製造販売を手掛ける。有機培土国内最大のメーカー。有機肥料は県内200ヶ所に設置した精米機から出る米ぬかを主原料とし、地域資源を活用化したリサイクルシステムを手がける。


木下 御社の事業内容とタイでの取り組みについて聞かせてもらえますか。

真鍋 日本における当社事業は、那須地域の良質な土を原料とした水稲培土事業、米ぬかをベースとした有機肥料事業、野菜づくりを支える園芸培土事業、植物の生理生態や日本の気象風土に適した施設園芸栽培事業、お米のうま味を逃さない低温精米方式を採用したコイン精米事業—の5つです。

コイン精米機から発生する米ぬかは有機肥料の原料としてリサイクルするなど、持続可能な循環型社会の形成にも貢献しています。

タイでは、合弁相手の現地企業が肥料メーカーだったことから、有機肥料の販売からスタートしました。しかしその後、当社が最も得意とする培土事業に軸足を置くことを決断し、まずは野菜用培土に絞ってタイで展開していくことを決めました。

木下 野菜用培土に注力する決断に至った背景として、タイの農業の特徴や課題についてどのようにお考えでしょうか。

真鍋 全人口の4割が農業に従事しており、その多くを稲作が占めるタイですが、米作は驚くほど生産性が低いと言われています。日本の稲作農家が行っている田起こしや苗代といった工程はほとんど見られず、種籾を水田に直に蒔く方法が一般的です。その後は天候次第の自然任せで、雑草の処理を行わなくても、天然の恵みが二期作三期作を可能としてきました。

一方で、低い生産性が農家の所得向上を妨げており、そもそも肥料の購入や機械化の投資も制約的な状況です。培土に至っては、必要性を理解してもらうことから始めなければならず、タイの稲作業界に浸透するまでには相当の期間を要すると判断しました。このような背景から、ひとまず先に野菜用培土に照準を合わせることにしたのです。

タイの野菜農家の現状を見ると、欧州産など海外製の輸入農業資材は高価格で一部の農家しか手が届きません。ローカル製品は低価格な分、日本の水準ほどの品質は担保できていない印象です。当社は、ここにチャンスがあると見ています。タイにはキャッサバの残さやサトウキビの絞りかす、ココナッツ繊維など、これまで廃棄物とされてきた天然の原料が豊富に存在します。

こうした原料を限りなく100%現地調達にすることで、品質の高い培土を低価格で生産することができれば、タイの野菜農家のニーズに応えられると考えています。ゆくゆくは、タイ産の原料を日本に輸出し培土を生産することで、コストダウンや持続可能な原料調達が実現でき、日本の社会にも恩恵を還元できる、といったシナリオも持っています。

チャイナ—ト試験場での苗の試作

木下 将来的に日本社会にも貢献できる可能性があるのは非常に楽しみです。最後に、タイへの進出を検討している日本企業に向けて何かアドバイスがあれば教えてください。

真鍋 その国が抱える社会課題を少し掘り下げれば、解決手段として使えそうな民間の技術は幾多もあると思います。ただ、自社の製品や技術が当てはまるかもしれないと閃いた場合でも、中小企業ができることには限りがあります。実際に当社も、導入の提案や交渉の相手先は農業・協同組合省など国や県の機関となり、ハードルが非常に高いと感じていました。

そんな時にJICAの民間連携事業を活用すると、「タイの農家の技術レベルや所得を向上させるためのプロジェクトを推進する会社」という前提で省庁の上層部の方々と会話ができたのは、一番の利点でした。

また、海外進出にあたっては、超一流の技術やハイテク製品を持ち込むばかりが、社会貢献につながるわけではないという事実も伝えたいです。当社が手掛けることにした野菜用培土の事業も、それを証明しています。高い技術やノウハウを注ぎ込めば、おのずと商品の価格は高騰し、所得の低いタイの農家には手の届かない存在になってしまいます。

当社は独自加工技術と、タイの豊富な原料を掛け合わせることで、品質を担保しながらもローカル農家が購入できる価格帯の設定に拘っており、ここに双方にとっての持続可能な関係が成り立つと考えています。最も肝心なことは、その地域のニーズにあった方法でビジネスを展開することだと思います。

左:培土の試作の様子 右:現地試作培土で育てたキュウリの苗
THAIBIZ No.152 2024年8月発行

THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意

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JICAタイ事務所
Representative

木下 真人 氏

タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。
Email:[email protected]

JICAタイ事務所

31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250

Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html

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