連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2024.09.19
1951年に日本で初めてのミニチュアベアリング専業メーカーとして創業し、ミツミ電機、ユーシン、エイブリックとの経営統合を経て、多種多様な「相合」精密部品メーカーへと成長したミネベアミツミ。同社のタイ法人であるNMBミネベア・タイは、同グループ最大の生産拠点だ。NMBミネベア・タイの坂主克浩社長に、ミネベアミツミの事業戦略や、これまでのタイでの事業の取り組みなどについて話を聞いた。
<聞き手=mediator ガンタトーン>
目次
坂主社長:ミネベアミツミの東南アジア進出は、1972年にシンガポールから始まりました。事業拡大に伴い、シンガポール工場が手狭になったため、1980年にアユタヤ県にベアリング製造のタイ法人を設立、1982年より事業を開始。その後、新工場や合弁会社の設立、資本参加、経営統合などを経て、現在ではタイ国内に10工場を持つまでに成長し、ミネベアミツミグループ最大の生産拠点となっています。従業員(正社員)数は、2万8,000人以上にのぼり、日本人駐在員も約220人が勤務しています。
NMBミネベア・タイは主力製品であるベアリングを中心に、航空機用の接合部品であるロッドエンド、モーター各種、液晶用ライティングデバイスなど幅広い製品を製造しています。さらに近年は車載用のアンテナやキー、ドアミラーなどの製品のほか、道路灯や室内照明器具などの分野にも進出しています。
坂主社長:当社はベアリングを起点として多種多様な製品を手がけてきましたが、その基盤にあるのは高度な精密加工技術と垂直統合生産システムで、常に改善を重ねることで、加工のしやすさや信頼性、精度を高める努力を続けています。特にベアリングでは、高精度を実現しており、それにより静粛性や省エネルギー化にも寄与しています。生産設備の多くを自社で内製している点も当社の特長の一つです。
また、市場のトレンドの変化に伴い、需要がなくなる製品もありますが、これまで培ってきた技術を活かし、新製品の開発にも応用しています。例えば、高い光学的均一性が要求される液晶バックライトの技術を道路灯に転用したり、磁気ディスクや光ディスクの技術をカメラのオートフォーカス部品に活用するなど、従来の技術を新しい製品に活かす取り組みを行っています。
当社製品は部品が中心であるため、一般の消費者の方々の目に触れる機会は少ないですが、これらの地道な取り組みが、当社の総合的な競争力につながっています。今後も精密加工技術をさらに磨き、垂直統合システムを突き詰めることで、さまざまな産業の発展を支えていきたいと考えています。
坂主社長:当社の特徴として、製品群の多さや拠点数の多さ、さらにグループ内で最大の従業員数を擁していることが挙げられます。
昨今は市場環境の変化が激しく、製造業は市場の変化の影響を受けやすい業界ですが、当社は多種多様な製品を手がけているため、事業ポートフォリオを分散できており、比較的安定した経営が可能となっています。
例えば、新型コロナウイルスのパンデミックでは、航空業界が大きな打撃を受け、当社の航空機部品の受注も激減しました。通常であれば、受注減少に伴い、工場の稼働を縮小したり、人員削減が避けられない状況ですが、当社の場合は、航空機部品が減少した代わりに、コロナ禍の巣篭もり需要でゲーム機やPC周辺機器などに搭載するファンモーター等の受注が拡大しました。結果として、他の生産部門の稼働率が上がり、人員解雇をほとんどすることなく、従業員の配置転換で危機を乗り切ることができました。
坂主社長: 当社は、グループ全体の生産高の22%を占め、重要な拠点としてオペレーションの中枢を担っています。タイでの事業運営を円滑に行えるようタイ政府と直接対話をする機会を持つことができるのも、他国ではあまりないタイの特徴の一つです。
またタイ拠点には、「マテリアル・サイエンス・ラボ(MSL)」という分析部門が設置されています。MSLでは、クリーン度やRoHS(ローズ:特定有害物質の使用を制限するEU規制)指令などに対応するために、生産時に環境有害物質が入っていないかを内部で迅速に検査し、公式証明書が発行できる認証を取得しています。タイのMSLは、日本を含めたグループ内で最大規模となっており、他のグローバル拠点とは異なる当社の大きな特徴です。
さらに、タイ拠点はグループで唯一ヘリコプターを所有しています。タイ国内の工場は広範囲に分布しており、北はロッブリー県から南はラヨーン県に位置しています。グループの重要拠点であるタイには、VIPや顧客が頻繁に訪れるため、ヘリコプターを利用することで効率的に各工場を巡ることができ、移動の利便性を向上させています。
坂主社長:脱炭素の取り組みの一環として、2021年にロッブリー工場とバンパイン工場に太陽光発電システムを設置し、CO2排出量の低減を推進してきました。しかし、工場敷地内での太陽光発電だけでは再生可能エネルギーの導入には限界がありました。新たな解決策を模索していたところ、再生可能エネルギー関連事業を行うタイのSuper Energy Corporation社とご縁があり、今年7月に同社と太陽光発電を行うための合弁企業Minebea Super Solar Power Ltd.の設立に向けた契約を締結しました。この合弁企業の設立により、効率的な太陽光発電の供給体制を構築し、タイ工場における再生可能エネルギーの調達をさらに拡大することで、約12万トン/年(約240 GWh相当)のCO2排出量削減を目指しています。
ミネベアミツミグループとしては、単に製品の加工や組み立てにとどまらず、川上から川下までできるだけ自社でカバーする方針を掲げており、今回の合弁企業の設立は、その方針に沿った「究極の垂直統合」の一環と捉えています。
坂主社長: タイ拠点に限らず、ミネベアミツミグループでは各国の幹部候補となりうる優秀な若手人材を対象に、日本本社で半年から1年の研修制度を設けています。この研修では、日本語の習得のほか、会社の基本理念やポリシーなどについて学んでもらいます。
こうした研修を経て、各拠点の中核を担う人材が育ち、現在タイ拠点では5人のタイ人役員がいます。そのうち2人は日本本社の執行役員も兼任しています。本社の執行役員を兼任するタイ人役員の1人は英語を使っての会話となりますが、日本語を話さなくとも本社役員に登用されるという事実は、現地のスタッフにとっても「努力次第で本社の役員にもなれる」という大きな励みになっていると思います。
坂主社長:私は現在、タイ法人に加え、東南アジア(フィリピン除く)とインドを統括しています。ミネベアミツミグループでは、近年積極的に経営統合を進めて来ており、それに合わせて各国の拠点には事業部を通じた縦の指示系統が構築されておりますが、現地側で構築すべき横串的な管理体系がまだ十分ではなく、会社の方針が正しく伝わり、確実に実行されているかを確認するまでに、少々時間と労力がかかっています。
そこで、今後はタイ拠点内に東南アジア全体をカバーする情報統括機能の構築を考えています。例えば、本社経営トップから指示内容が現場レベルまで浸透しているかの確認や、何か突発事象等が発生した場合に、各国の拠点にリアルタイムで情報を共有し、確実にその案件への対応が実施されるまで追いかける事で、今後も拡大する東南アジアのオペレーションを円滑に運営できる仕組みを構築していきたいと考えています。
THAIBIZ編集部
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