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カテゴリー: ASEAN・中国・インド, 会計・法務
連載: ONE ASIA LAWYERS - ASIAビジネス法務
公開日 2025.06.06
昨年のグエン・フー・チョン書記長の死去に伴う共産党書記長の交代以降、ベトナムで最大の政治テーマとなっているのが行政改革です。
新共産党書記長のトー・ラム氏は、2024年10月13日に声明を発表して、「汚職の撲滅」と並んで「浪費の防止」を重視すべきと論じました。この浪費には、資源や財源の浪費、生産効率の低下、コスト負担の増大、貧富の差の拡大などが含まれるとしたうえで、官僚的な行政手続きや非効率的なオンライン公共サービスも、企業や個人の時間や労力を浪費していると述べました。
この浪費は、国家レベルと地方レベルで生じており、一部の役人による嫌がらせ、無能、職務回避、責任回避、労働力の質と生産性の低下が原因であると喝破しました。そして、問題の解決には、行政改革を含め、官僚主義と戦うための抜本的な改革が必要であるとしました。
ベトナムの行政組織は、長年にわたり中央レベルと地方レベルにおいて問題を抱えてきました。
中央レベルにおいては、次のような問題が指摘されています。
第一に、ベトナムでは組織の縦割りや業務の重複という問題があるため、迅速な意思決定や政策実行が妨げられてきました。また、権限の逸脱や懈怠(けたい)も発生しています。行政組織の権限を明確化して、縦割りの弊害をなくすための省庁の改編が必要です。
第二に、ベトナムでは非効率な組織体制が維持されており、仕事のないポストが温存され、公務員の人員過剰が生じています。これは公務員の低賃金の原因ともなっています。組織をより筋肉質なものとするために、不必要なポストを削減し、人材の再配置が必要です。
第三に、複雑な行政手続は、贈収賄やコネ優遇の温床となっています。手続きを合理化して透明性を高めるとともに、IT化により人為的な介入の余地を減ずる必要があります。
他方で、地方レベルにおいては、次のような問題が指摘されています。
第一に、現在の地方行政は、省級(省・直轄市)、郡級(郡・区・町)、社級(社・坊)という三級で組織されていますが、郡級レベルで規定の人口を満たさないなど過度に小規模な地域があります。これらの行政単位においてもフルセットの行政組織が設けられているために、非効率が生じています。
第二に、業務の重複などにより、効率性の悪化が生じています。また、公務員の採用や昇進が能力主義ではなく、年功やコネに依存しています。
以上の問題に対応するための組織改革が喫緊の課題となっています。
上記の問題を克服するために国会は、2025年2月に中央省庁の改編を実現するために行政組織法の改正を行うとともに、政府が14の省と3の省級機関により構成されると決議しました。この国会決議を受けて改編されたのが図表1に示す省庁です。
外資企業に影響がある点として、投資や企業設立のライセンスの発給を担当してきた計画投資省が財務省に統合された点や、ワークパーミットを所轄していた労働・傷病兵・社会問題省(MOLISA)が内務省(MOHA)に統合され点が挙げられます。
上記の中央省庁と比べて、地方政府の改革はこれからです。2025年2月の国会で地方政府組織法の改正が行われましたが、地方行政組織の改革はいまだ実施されていません。地方政府の再編は二つの面から検討されています。一つは省市の統廃合で、他は地方政府の3級制の見直しです。
省市の統廃合については、公式案によれば、現在63ある省市を統合により34に減らすことが検討されています。省市の再編計画は、4月初旬の党中央委員会で内定したのち、5月開催の国会において正式に決定されます。
主要な省市の統合案として、ホーチミン市については、隣接するビンズオン省とバリアブンタウ省を統合します。ダナン市については、クアンナム省を統合します。カントー市は、ソクチャン省およびハウザン省と統合します。ハイフォン市は、ハイズオン省と統合します。ハノイ市については他省の統合は行わず、現状を維持します。
地方政府における3級制の見直しについては、省級、郡級、社級という3級制度を、郡級を廃止して、省級と社級にすることが計画されています。また、約1万余りある社級(社・坊)については統合により5,000程度に整理するとされています。
地方政府における行政改革は、大量の公務員の整理を伴います。人員削減により余剰となった公務員を混乱なく社会で吸収することが、今後の課題となります。ホーチミン市は、職業訓練や就職情報の提供などの施策のほかに、市内の国有企業に対して余剰公務員の優先雇用を働きかけるなどの措置を検討しています。
行政改革が外資企業に及ぼす影響としては、許認可付与の遅延が挙げられます。たとえば、ワークパーミットの付与を担当していた労働傷病者社会省が内務省に統合されました。その結果、手続規定が未整備のため、ワークパーミット付与の遅延が生じていると言われています。
また、今後行われる地方行政府の統廃合において、組織の変更や人員の削減が生じるために、すでに許認可業務に遅延が生じているとの指摘もあります。地方政府は、多くの外資企業にとって許認可窓口となっているので、今後実施される見込みの地方政府の行政改革の進展に注目する必要があります。
オブ・カウンセル 弁護士(日本法・ベトナム外国登録弁護士)
One Asia Lawyers Vietnam Co., Ltd.所属
布井 千博 氏
東海大学法学部と一橋大学大学院で学部・研究科の立ち上げに携わる。日本、ドイツ、フランスにおけるコーポレートガバナンスとEUにおける法統治を専門とし、中国でのJICA法整備支援を通じてアジア法にも精通。ベトナムでは、大学での講義のほか、ベトナム企業法や投資法の改正に係る意見提出を行った経験を持つ。実務に活かせる分かりやすい説明を心がけている。
One Asia Lawyers
One Asia Lawyers Groupは、東南アジア・インドの法律に関するアドバイスを、アジア各国のネットワークを基礎として、シームレスに、ワン・ストップで提供するために設立された法律事務所です。
Website : https://oneasia.legal
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