衛星の国産化へ日タイが連携 ~産官学共創で26年初号機完成狙う~

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    衛星の国産化へ日タイが連携 ~産官学共創で26年初号機完成狙う~

    公開日 2025.06.20

    NNA掲載:2025年3月28日

    日タイの産官学が連携し、タイ初となる実用小型衛星の製造に向けたプロジェクトが始動する。洪水や大気汚染といった社会問題、海上保安や農業利用などで衛星需要が高まる中、輸入依存によるコスト負担が長年の課題だった。現状では製造力を持たないタイに、高度な技術を持つ日系2社と宇宙航空研究開発機構(JAXA)、地元大学が参画し、共創体制を構築。2025年内の製造拠点立ち上げ、26年の初号機完成を目指す。

    日新電機は27日、タイ法人で装置部品の受託生産および電気機器の製造・販売を手がける日新電機タイに、25年内に小型人工衛星の製造拠点を設立する計画を発表した。JAXAバンコク駐在員事務所の支援の下、衛星や医療向けの精密・高精度な部品加工に強みを持つ由紀精密(神奈川県茅ケ崎市)が日新電機タイの組み立てエリアを活用。部品製造から組み立てまでを連携して進める。タイからは、人工衛星の試験製造に実績を持つタイのキングモンクット工科大学(KMUT)が参画。衛星の設計から試験までの理論・知見を提供し、プロジェクトの頭脳を担う。

    小型人工衛星の製造拠点が置かれる、バンコク北郊パトゥムタニ県のナワナコン工業団地にある日新電機タイの工場(同社提供)

    4者は昨年11月にオーストラリア西部パースで開催されたアジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)の年次会合にて、共同プレゼンテーションの形でプロジェクトを紹介。26年にタイの首都バンコクで開催予定の同会議までに、小型衛星の初号機完成を目指すとした。

    日新電機タイは今回のプロジェクトに関するNNAの取材に対し、「(自社の)さまざまな加工に対応できる設備と半導体製造装置・核融合発電関連・その他各種産業装置などの製造で長年培った技術力」が活用できると説明。また、人工衛星の製作を通じた新たな技術取得により、ビジネス機会の拡大にも期待を示した。

    由紀精密が自社で開発・製造した衛星スラスタ(推進システム)の推定測定を行うベンチ(同社提供)

    由紀精密は人工衛星の構成部品や地上実験装置などの製造を手がけており、航空宇宙分野では設計・開発まで対応可能な技術力を備える。従業員40人規模の工場ながら宇宙機の熟練技術者を擁し、航空宇宙・防衛産業向けの品質マネジメント規格であるJIS Q9100も取得している。

    由紀精密の天満史郎取締役は先月、タイの大学やスタートアップ企業と面会。案件化につながる動きが見られるという。同氏はNNAに対し、「製造する衛星は受注内容によるが、自社のモノづくり技術を通してタイの社会課題解決に貢献したい」とコメントした。

    高まる人工衛星需要

    現在、世界では通信・モノのインターネット(IoT)などの技術革新に伴い、低コストで開発期間が短い小型衛星の需要が拡大している。タイではこれらに加え、洪水、森林火災、大気汚染、干ばつといった主要な社会課題の解決手段として、衛星の活用が期待されている。しかし、自国での製造技術や生産体制が整っておらず、欧州などから購入することで多額のコストを払い続けているのが現状だ。

    キングモンクット工科大学ノースバンコク校(KMUTNB)のポンサトーン博士は、今回のプロジェクトにおける初期開発のターゲットとして、タイ政府の国家海洋利権保全指令センター(Thai-MECC)に向けた観測衛星を想定している。かつてThai-MECCより、船舶自動識別システム(AIS)用の衛星製造について相談を受けたという。AISは15年、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)がタイに「違法・無報告・無規制(IUU)漁業」の警告(イエローカード)を発した際、一部の船舶に導入が義務付けられたシステムだ。運用には欧州製の観測衛星を導入しており、5~10年である寿命ごとの買い替えで費用負担が膨らんでいる。ポンサトーン氏はNNAに対し、「衛星の必要性を強く認識しているThai-MECCから導入を進め、段階的に他の省庁にも理解を浸透させたい」との考えを示した。

    現状、小型衛星は1基につき1用途が一般的で、例えば主要課題である洪水、森林火災、大気汚染、干ばつに対応するには4種が必要となる。さらに、全国をカバーするには10基規模の運用が求められ、衛星の寿命を踏まえれば、国内製造体制の確立は急務といえる。

    タイ宇宙産業への影響

    JAXAバンコク駐在員事務所の中村全宏所長によれば、人工衛星の製造には「部品の製造・調達」「組み立て」「地上での機能試験」といった複数の工程が必要となる。現状タイには、いずれの段階においても単独で完結できる体制がなく、製造力・試験設備・人材ともに不十分だという。またタイ地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)の予算はJAXAの10分の1程度にとどまり、政府は支援姿勢を示しているものの、実効的な成果はまだ見えていない。

    人工衛星をはじめとする宇宙機の国産化を進めるには、製造・運用両面の成功事例が不可欠だ。その点で、今回のプロジェクトはタイの宇宙産業界に大きなインパクトを与えることが期待される。

    その上で中村氏は、日タイ・産官学による連携の必要性を強調。「今後より事業を拡大させていくために、当初から『共創』の形をとっておくことが非常に重要」と説明した。衛星製造の長期的な展望については「タイ国内での量産化に成功すれば大幅な価格低下が見込まれ、民間企業による商業利用が視野に入る。財閥系をはじめとする大きな資本を持った企業が、農業などそれぞれの用途で導入することも期待できる」との見方を示した。

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