激動のタイ市場で日系企業が勝ち残るため、“今”求められるDXとは?

THAIBIZ No.172 2026年4月発行

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激動のタイ市場で日系企業が勝ち残るため、“今”求められるDXとは?

公開日 2026.04.10

2026年、タイ市場は日系製造業にとっての安住の地ではなくなりつつあります。中国系電気自動車(EV)メーカーの台頭、非日系アジアブランドの伸長、構造的なコスト競争力の低下など、これらは一過性の変化ではなく、不可逆な構造変化です。

本連載では、従来DXの業務改善・効率化に留まらず、次世代を生き抜くための変革の在り方、方向性を示し、再びタイ市場で日系企業が輝きを取り戻すために、今何が求められているのか考察していきます。

2026年、タイにおける日系企業の「現在地」

「タイはもはや、安価な生産拠点でもなければ、黙っていても日本製品が売れる市場でもない」。バンコクのオフィス街や工業団地で経営者の方々と対話をする中で、この危機感はかつてないほど切実なものとして共有されています。

かつて「アジアのデトロイト」と呼ばれたタイ。しかし近年、タイ政府が掲げる「EV」「スマートエレクトロニクス」「デジタル」といった新産業領域では、中国・台湾などの非日系アジア勢や米国IT企業の大型投資が相次ぎ、日系企業のプレゼンスは相対的に低下しています。

さらに、不安定な地政学リスクによるサプライチェーンの複雑化、バーツ高や人件費高騰といった構造的なコスト競争力の低下、急速な少子高齢化といった「不可逆の変化」が、日系企業の足元を揺らしています。

このような状況下で、日系企業はグローバル経営におけるタイ拠点の位置づけを見直そうとしています。インド、中東、他のアセアン諸国などの新たな新興市場へのシフトが進むなか、タイ拠点の役割をどう再定義するべきなのか、今まさにその重要な岐路に立っています。

なぜ今、改めて「DX」なのか − AIを前提にした次世代DX

「デジタルトランスフォーメーション(DX)にはすでに取り組んでいる」—ほとんどの在タイ日系企業がそう答えるでしょう。しかし、昨今の激変する環境下で、これまでの延長線上にあるDXで本当に目指したい姿にたどり着けるでしょうか。

タイのデジタル産業は2024年から2025年にかけて前年比約5.8倍という驚異的な成長を遂げています(図表1)。デジタルはもはや、単なる業務改善のツールではなく、企業が生き残るための変革の主軸なのです。

出所:ジェトロ「ビジネス短信」資料をもとにアビームコンサルティング(タイランド)が作成

これからのDXの核心は、会社構造(戦略、組織、業務プロセス、システム、データ)の全てが「人工知能(AI)を前提としたもの」に生まれ変わるという未来像からのバックキャストです。

従来の業務プロセス再設計(BPR)は、既存業務の「積み上げ」による改善に留まりがちでした。しかし、私たちが描くTo Be(あるべき姿)は次元が異なります。「人間が行っていたどの領域をAIが代替し、人間はどこで付加価値を生むのか」を戦略・組織・プロセスの全レイヤーで定める必要があると考えています。

AIが自律的に判断し、プロセスを回すことを前提とした業務フローを設計し、新たな業務フローのもとでヒトに必要となるスキルセットから「人材ポートフォリオ」を再定義する。この「AI前提のグランドデザイン」をどこまで解像度高く描けるかが、変革の成否を分ける鍵となります。

変革の軸は常に「ヒト」:超主体性が生む変革力 −「Beam-X」の提唱

AIがもたらす新しい変革への必要性は理解していても「何から手をつけてよいかわからない」「新たなDXを進めているつもりでも、本当に正しい方向に向かっているのか確信が持てない」といった状況に置かれている経営者は少なくないはずです。

新しいデジタル技術を導入しただけでは変革は成し遂げられません。不確実な外部環境の中で変革を前に進める原動力は、技術そのものではなく、ヒトの信念とチーム力です。「デジタルを活用しながらも、変革の中心はヒトである」という考え方を、当社では「Beam-X(ビーム・トランスフォーメーション)」と呼んでいます。

「Beam-X」の「Beam」は、アジアの重要戦略拠点になるという高い目標に向けて突き進む光線(Beam)のように力強い変革推進をイメージしています。そしてそれに必要なのは、テクノロジーそのものではなく、それを動かす「ヒトの価値観・想い」です 。

変革を成功させる唯一の道は、現場のマネジメントから従業員一人ひとりに至るまでが、本社の指示を待つ受け身の姿勢から卒業し、「自らが変革の主役である」という主体性を持つこと以外にありません。

一部の改善に留まることなく、会社全体の変革において、旧来の成功体験を自ら否定し、新しい技術を学び直し・取り入れ、現場の摩擦を恐れずに失敗とアジャストを繰り返す。私たちは、この「泥臭いプロセス」を一つひとつ乗り越えていく先に、中長期的な非財務価値向上があると考えています。

本連載の航路:Beam-Xを成功させる4つの要諦

では、「ヒトが動かす変革」を機能させるには何が必要となるのでしょうか。次世代DXを実行するためには、目指すべき4つの要素が揃って初めて、「Beam-X」は推進力を持ちます。

変革を通じてタイ拠点が「グローバルの重要戦略拠点」として再起するためには、従来のDXのやり方を超えて、「Beam-X」を機能させる変革ロードマップの策定が重要な成功要因となります(図表2)。

出所:アビームコンサルティング(タイランド)が作成

本連載では、ヒトを起点とした「Beam-X」の実現に向けたテーマを、AIを軸にしつつ深掘りし、アビームならではの実践的な知見を交えて考察していきます。本連載が、在タイ日系企業の皆様にとって、次なる成長へのブレイクスルーを見出すきっかけとなれば幸いです。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Principal

吉本 諭治 氏

経営コンサルタントとして23年の経歴を持つ。在タイ歴8年。自動車、電機、産業機器、消費財、飲食品、通信等、幅広い業界にてデータおよびデジタル技術を活用した事業戦略、サプライチェーン改革、デジタルマーケティング戦略、Go-To-Market戦略、および事業改革プロジェクト推進等を支援。ABeam Consulting (Thailand)のStrategic Transformationチームを統率。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Director

木口 郷 氏

商社、金融、製造業等、業界問わず、IT/DX戦略・企画領域から大規模システム導入プロジェクトに至るまで、ITライフサイクル全般に対するプロジェクトマネジメントを中心に15年以上のコンサルティング経験を持つ。グローバル企業に対するIT/DXガバナンス強化、システムリスク管理態勢強化、人材育成、IT-PMI等に関するアドバイザリー経験多数。
2024年9月よりABeam Consulting (Thailand) に赴任し、組織変革等のコーポレートストラテジーに携わりつつ、AI Initiativeを立ち上げ、AI人材の育成やAIプロジェクトの獲得に向けたアクション、社内でのAI利活用等をリード。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.

日本発、アジア発のNo.1グローバルコンサルティングファームを目指し、専門知識と豊富な経験を持つ約8,300名のプロフェッショナルと世界各地のアライアンスパートナーの「総合力」でクライアントの変革実現への挑戦を支援。タイ法人は2005年に設立。500名超のコンサルタントを抱え、東南アジア最大規模の拠点。

Website : https://www.abeam.com/th/

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