打倒・競合!カルビーの大構造改革

THAIBIZ No.175 2026年7月発行

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打倒・競合!カルビーの大構造改革

公開日 2026.07.10

輸出事業は伸びている。経営も決して悪いわけではない。それでもカルビーは、「このままで本当にいいのか」と、タイ市場を見つめ直した。

日本では国民的お菓子である「かっぱえびせん」。しかしタイでは、競合商品の方が5倍売れていた。当時タイ法人の最高経営責任者(CEO)を務めていた本村隆氏は、「タイで商売をしていてタイで売れていない状況を、放っておいていいのか」と問いかけ、組織や売り方の改革へ踏み込んだ。それは、競合が強いタイ市場で、自社のプレゼンスをどう高めるかという挑戦でもあった。その象徴が、2024年に実施した「白のかっぱえびせん」への刷新だ。本特集では、本村氏が進めた4年間の改革と、ともに歩んだ現場の変化を追う。

Calbee, Inc.
東南アジア・オセアニアグループ統括
本村 隆 氏

1999年カルビー入社。日本国内の工場長を歴任するなど、長年にわたり生産部門でキャリアを積んだ後、2022年タイ法人カルビータナワットへ赴任。サムットプラカーン・バンプー工業団地の同社工場で1年間生産管理を担当した後、2023年よりCEO就任。2026年4月よりタイ2社を含む東南アジア、オーストラリア、ニュージーランドの7ヵ国・8社を管轄する。

タイ市場に挑んだ4年間、白のかっぱえびせんに託したもの

タイで売れているのはポテトチップスではない

カルビーのタイ法人であるカルビータナワットは1980年、タイの輸入企業タナワットとの合弁会社として設立。以来45年にわたり、タイ国内販売と輸出の両輪で事業を展開してきた。国内売上の半分以上は、ポテトベースのスナック「Jaxx」だ。日本で言う「サッポロポテトつぶつぶベジタブル」のような生地に、別添えのソースをディップして食べる商品で、タイ国内売上の大部分を占めている。

この商品がタイ市場に根付いた背景について本村氏は、「タイ独自の食文化がある」と話す。「タイの食べ物は、自分で味を足していく文化がある。クイッティアオ(麺もの)でも酸っぱくしたり辛くしたりして、自分好みの味を作る。Jaxxもそういった文化に合っていたのではないか」。カルビータナワットでは現在、Jaxxだけでなく、BunBun、かっぱえびせんなどを中心に6ブランドを展開する。

なお、カルビーといえばポテトチップスが代表というイメージだが、実はタイでは展開していない。原料となるじゃがいもの関税や輸入量制限により、ポテトチップス事業を展開するハードルが高いため、別の商品群の育成に注力してきた。同時に、拡大していったのが輸出事業だ。現在、売上の半分以上を輸出が占めており、最大の輸出先はオーストラリアだ。健康志向スナック「ハーベストスナップス」を中心に、アメリカやニュージーランドなどへも販路を拡大してきた。

順調な輸出の裏で始まったカルビーの名をかけた戦い

輸出事業で経営は安定していたものの、本村氏の中には別の危機感があった。「タイに会社があるのに、タイの人たちにもっと知ってもらい、もっと食べてもらわなくてどうする」。なかでも、特に気になっていたのが「かっぱえびせん」だった。かっぱえびせんはカルビーの名を世に広めた象徴的商品であり、創業期から会社を支えてきた。今でも日本国内で年間100億円以上を売り上げる。

しかしタイ市場では、現地競合他社の類似商品が市場を押さえ、カルビーは本家でありながら後発の立場にあった。同氏は、「カルビーで働いている人間は、かっぱえびせんをすごく大事にしている。しかしタイでは、カルビーのかっぱえびせんより、他社商品の方が売れている。タイに来て、セブンイレブンで競合が棚を占めかっぱえびせんはその下に1列、という場面を目にして驚いた」と、赴任当時の4年前を振り返る。

えびスナック分野でのシェアは2022年当時、売上1位の競合他社と5倍の差が開いていた。輸出を伸ばしながら現状維持を選ぶこともできたが、同氏は「このシェアをどうにか上げたい」と、かっぱえびせんを軸に国内市場へ改めて向き合うことを決断した。2022年のことだった(図表1)。

大構造改革1:競合対策の徹底

ライバルを明確に掲げ、組織に火をつけた

5対1という差を前に、本村氏が行ったのは、競合の存在を社内で明確にすること、つまり競合対策だった。「『競合に打ち勝つ』という方針を皆の前で話した」と、同氏は明かした。工場やオフィスも含めたタイ拠点全社員に向けて、競合に挑む姿勢を繰り返し伝えた。ボクシングで競合を倒しているようなイメージ画像も用意し、「これをやるんだ」と共有したという。同氏は、その狙いを「ライバルや目標があった方が、人は動きやすい」と説明する。競合を明確に掲げたことで、組織として何を変えるべきかも見えやすくなった。

こうして、商品開発、営業、マーケティング、売り場づくりも含め、競合を意識した改革が始まっていった。広告宣伝費やプロモーション費用も増やし、営業やマーケティングにも人員を投入した。大きな転機となったのは、2024年のかっぱえびせんリニューアルである。

大構造改革2:白のかっぱえびせん誕生

“当たり前”を大胆に変えた、タイ市場でのリニューアル

かっぱえびせんと言えばパッケージは昔から「赤」。カルビー社内にも、そのイメージは強く根付いていた。しかしタイでは、その“当たり前”を変える決断をした。「特にかっぱえびせんは会社を背負った象徴的商品。白への変更は、日本のカルビー本社でもかなりの議論があった」。それでも本村氏は、競合との差別化を優先した。タイの店頭では競合商品も赤系統のパッケージが多く、売り場で埋もれてしまう。そこで、視認性を高めるため白を基調としたデザインへ変更した。

また、味についても、改めてタイ人の嗜好を調査した。日本人の味覚とタイ人の味覚を比較しながら試作や試食を重ねていく中で、口に入れた瞬間にしっかり味がすることや、旨味が強い方が美味しいと感じてもらえることがわかった。2017年にも一度、タイ向けに味付けを見直していたが、今回のリニューアルではさらに旨味をアップ。日本のように“食べ進めるうちに風味が広がる”ではなく、一口目から味を感じる設計へ調整したという。

さらに、リニューアルに合わせて、広告宣伝や店頭プロモーションも強化した。新商品の投入数は従来の倍以上に増やし、売り場での露出拡大を進めた。このように味やパッケージだけでなく、売り場づくりまで含めた改革を進めた結果、えびスナック市場で約9%だったシェアは、1年で18.9%まで上昇した(図表2)。競合との差も、5:1から3:1程度まで縮まったという。

大構造改革3:消費者起点への転換

消費者に近づくための営業改革

かっぱえびせんのリニューアルと並行して同社が進めていたもう一つの改革が、営業・マーケティング体制の見直しだ。具体的には、次の3つが挙げられる。

①消費者の動向をデータで徹底分析

従来は、長年の経験や現場の感覚に基づいて商品や売り場を考える場面も少なくなかった。しかし競合と本気で戦うためには、「消費者は何を求めているのか」「どの商品が、誰に、どこで売れているのか」を、より具体的に把握する必要があった。そこで同社では、消費者をより深く理解するための仕組みづくりに着手した(次ページで詳しく紹介)。従来は十分に把握できていなかった購買行動や売り場の実態を、販売時点情報管理(POS)データで可視化。経験や勘だけではなく、客観的な根拠をもとに判断できる体制への転換を進めた。

②消費者に近い「売り場」まで踏み込んだ営業スタイルへ

また、同社はこれまで問屋に任せる部分が大きかった小売店との接点にも、より積極的に関わるようになった。単に商品を増やすのではなく、消費者に求められる商品や売り場をどう作るかを考え、小売や問屋とともに提案していくためだ。例えば、購買データをもとに、どの売り場で何が伸びているのか、どの施策が効果を出しているのかを確認しながら、提案内容を組み立てるようになった。現在では、問屋と一緒に小売店への提案を行うなど、関係性も変わり始めている。

③新しいやり方を実現する組織とプロセスをつくる

こうした営業スタイルを実現するためには、チームも変える必要があった。データを分析する専門人材を採用し、体制を整備。日本側の情報システム部門や東南アジア・オセアニアのサポートチームとも連携しながら、営業判断の場でデータを示し、議論するプロセスづくりを進めていった。同氏は「営業部門にはデータが何かもわからないという状態のメンバーがいるほどで、最初は分析できる人材もいなかった」と振り返る。

こうして同社では、競合と戦うために、商品や売り場を「自社都合」で考えるのではなく、消費者を起点に考える営業・マーケティングへと舵を切っていった。大胆なパッケージデザイン変更の裏では、売り方そのものを見直す地道な改革も進められていたのである。

大構造改革4:痛みを伴った組織改革

成長していても、組織は変わらなければならない

これらの構造改革に取り組む際、本村氏が直面した大きな壁があった。改革の土台となる「組織」だ。競合に本気で挑戦するためには、これまでと同じやり方や意識ではいけない。同氏はそう考えていたが、「輸出が伸びて全体的に成長しているのに、なぜ変える必要があるのか」と改革の方針に反発する社員も当然いた。対話を続けたものの、最終的に意見は一致しなかった。

5名いた本部長クラスのうち、4名が会社を辞めることになった。そして、彼らの下にいるメンバーも去っていった。「当時は7名体制だったマーケティング部門が、新入社員とスーパーバイザーの2名しかいない状態になり、新商品を出したいと言ってもやる人がいなかった」。同氏は、かっぱえびせんリニューアルまでの最初の2年間は組織づくりに費やしたと、その苦労を振り返る。

しかしその分、現在のチームには「打倒・競合」の意志を共有したメンバーが残り、新たな人材も加わった。同氏の考えにただ従うのではなく、時に「それは違う」と率直に意見を返してくれる頼もしいメンバーばかりだという。

改革は未来への投資「打倒・競合」の戦いは続く

カルビーは、2022年にタイで健康志向スナックを手掛ける「グリーンデイグローバル」を買収。タイ国内での健康志向商品の展開を拡大している。カルビータナワットとしては、輸出では引き続きオーストラリア向けの「ハーベストスナップス」が成長を続けるほか、日本で高いシェアを持つ「フルグラ」もタイ市場へ投入するなど、新たな事業領域の拡大も進めている。

競合を明確に掲げ、白のかっぱえびせんという大胆なリニューアルに踏み切り、営業の仕組みを変え、人も組織も入れ替えた。この改革は、単なる商品刷新ではなく、カルビーが次の成長を実現するための土台づくりでもあった。タイ市場で続く挑戦に、引き続き注目したい。

THAIBIZ編集部
和島美緒

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