転換期の製造業、「何を作るか」から「何を解決できるか」へ 〜ジェトロ・バンコクが多角化支援プログラムを始動〜

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転換期の製造業、「何を作るか」から「何を解決できるか」へ 〜ジェトロ・バンコクが多角化支援プログラムを始動〜

公開日 2026.08.24

電気自動車(EV)シフトやサプライチェーン再編が進む中、タイの製造業はかつてない転換期を迎えている。こうしたなか、ジェトロ・バンコク事務所は、在タイ日系製造業を対象としたプログラム「2026年度 在タイ日系製造業 多角化支援事業 〜パートナーシップと多角化で新たな未来を築く〜」を開始した。

第一弾となるワークショップでは、参加者は自社技術を「何を作るか」ではなく「顧客にどのような価値を提供しているか」という視点で可視化し、新たな事業や市場への展開可能性を探った。今後はタイ企業との対話やビジネスマッチングを通じ、その価値を具体的な事業へと結び付けていくという。

変化を「成長機会」に変えられるか

7月24日に開かれた第1回のワークショップには、自動車部品や一般機械、素材、建材などを手掛ける在タイ日系製造業19社が参加した。

開会挨拶に立ったジェトロ・バンコク事務所の阿部一郎所長は、「いま問われているのは、既存事業をいかに維持するかではなく、変化を新たな成長機会としてどう捉え、自社の次の事業につなげていくかだ」と語った。

ジェトロ・バンコク事務所の阿部一郎所長

一方、多角化や事業変革の必要性を認識していても、「自社の強みを客観的にどう再定義するか」「現場のマインドをどう変えていくか」といった課題から、具体的な一歩を踏み出せずにいる企業は少なくない。

こうした課題を受け、ジェトロ・バンコク事務所は今年度、在タイ日系製造業を対象とした年間の伴走型支援プログラムを立ち上げた。まずは全2回のワークショップを通じて自社の技術や経営課題を整理した上で、タイ企業や関係機関とのネットワーク形成、ビジネスマッチングへとつなげる。今回はその出発点として、自社技術の価値を可視化し、新たな事業や市場への展開可能性を探ることを目的に実施された。

企業にも「進学」が必要

イベントではまず、事例講演として、YN2-TECHの中村亮太社長が登壇。自社の成長を「学校への進学」に例えながら、企業も成長に応じてできることを増やしていく必要があると語った。

同社は機械商社としてスタートしたが、商社機能だけでは顧客の課題を解決できない場面が増えたことから、3D設計・CAD、メーカーとの共同提案、自社工場の保有、日本でのM&Aへと約2年ごとに機能を拡張。その時々の市場環境や顧客ニーズに応じて役割を広げてきたことが、現在の事業につながっているという。

YN2-TECHの中村亮太社長

その考え方を象徴するのが、多角化の取り組みだ。中村社長はホーローメーカーの生産工程の自動化や食品工場の搾汁工程の改善事例を紹介。新しい技術を一から生み出すのではなく、自社やパートナー企業が持つ技術や機能を組み合わせ、それぞれの現場が抱える課題を解決することで、新たな事業へ展開してきたと説明した。

また、「どこで勝負するか」も重要だと強調。最先端デジタルや人工知能(AI)、英語をメインとした領域では、中国やインドの人材やスピードが存在感を増している。だからこそ、日本企業が強みを持つ溶接や板金、熱処理といった「アナログ技術」に着目し、その技術を集約・アップデートしてタイやインドへ展開することで競争力を築くという考えを示した。

さらに、「これまでチャレンジした事業のうち成功したのは65%、失敗が35%。しかし、この35%の失敗が次の成功率を上げる資産になっている」と話し、自ら率先して顧客へ謝罪に向かう姿勢や、若手が挑戦できる環境づくりなど、挑戦を支える組織づくりの重要性にも触れた。

自社技術を「新しい市場の言葉」に置き換える

ファシリテーターを務めたJMAC(株)日本能率協会コンサルティングの山中淳一氏

講演後のワークショップでは、JMACが設計・監修した「課題整理シート」を使い、参加企業が自社技術の価値を洗い出した。ポイントは、製品名や加工方法を説明するのではなく、「その技術で何ができるのか」「顧客のどんな困りごとを解決できるのか」という視点で整理することだ。

参加者はまず、現在の主力製品や加工技術を書き出した上で、それを「何を、どのようにする機能なのか」という言葉に置き換えた。さらに、品質向上、コスト削減、生産時間の短縮、安全性、環境負荷の低減といった視点から、顧客にもたらす価値に落とし込む。最後に、その価値が食品、医療、物流、農業など別の市場でどのような課題に応用できるか、実現に必要なパートナーは誰かを検討した。

例えば「自動車用シャフト」という製品名だけでは、用途は自動車産業の中に限定されて見える。しかし、「回転力を正確に伝え、摩擦やメンテナンスの負担を抑える機能」と捉え直せば、食品工場の生産設備や物流機器など、別の現場との接点も見えてくる。

出所:JMAC

自社が何を作っているかではなく、その技術によって顧客の何を解決できるのか。参加企業は、自社が「何を作っている会社か」ではなく、「何を解決できる会社か」という視点で技術を見つめ直し、新たな市場へ展開するための仮説を組み立てていった。

他社との対話が、自社技術の可能性を広げる

ワークショップでは、異なる技術や市場を持つ企業同士がグループに分かれて議論を行った。あえて異なる分野の企業が対話することで、自社では当たり前だと思っていた技術や強みを、別の視点から見つめ直すことが狙いだ。

ファシリテーターを務めたJMAC Thailandの大森靖之氏は、「技術説明は最初の5分程度にとどめ、その後は『その価値を、どの業界のどんな課題に使えるか』という議論に時間を使ってほしい」と参加者へ呼び掛けた。

JMAC Thailandの大森靖之氏

開催後、参加者からは「具体的な異なる分野の企業からコメントをもらい、展開のイメージができた」「自社製品の特徴や強みをもっと深く分析する必要を感じた」「社内に戻り、この方法で改めてブレインストーミングしてみたい」といった声が寄せられた。

また、アンケートでは多くの企業が「継続的な情報交換や今後の協力関係構築の可能性を感じた」「具体的な商談や協業につながりそうな話ができた」と回答しており、自社技術を見つめ直すだけでなく、新たな企業間ネットワークの構築にもつながる場となった。

次は可視化した「価値」を市場へ繋げる

今回の第1回ワークショップでは、自社技術の価値を整理し、新たな市場への可能性を探った。続く第2回では、その価値をタイ企業が抱える具体的な課題と結び付ける段階へ進む。

9月4日に予定されている第2回には、Thai Subconやタイ工業連盟(FTI)、タイ企業などが参加予定だ。日系企業はグループディスカッションや個別商談を通じて、自社技術がどのような課題解決に活用できるのかを検討し、新たなビジネス機会の創出を目指す。

第2回ワークショップからの参加も可能。自社技術の価値をタイ企業の具体的なニーズと結び付け、新たな事業や協業の可能性を探りたい企業にとって、有効な機会となりそうだ。

>> 9月4日(金)ジェトロ・バンコク事務所主催 在タイ日系製造業 「経営課題の可視化・経営の改善と変革」ワークショップ〜第2回 多角化の可能性の模索〜の詳細はこちら

THAIBIZ編集部
和島美緒

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