分断の時代、アジアはどう勝ち残るか 〜Nikkei Asia Forum APAC 2026、経営の最前線から見えた「次の成長条件」〜

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分断の時代、アジアはどう勝ち残るか 〜Nikkei Asia Forum APAC 2026、経営の最前線から見えた「次の成長条件」〜

公開日 2026.08.20

米中対立や地政学リスクを背景に、世界経済の分断が進んでいる。これまでグローバル化の恩恵を受け、国境を越えた貿易や投資によって成長してきたアジアは、この変化にどう向き合うのか。7月16日、バンコクで初開催された「Nikkei Asia Forum APAC 2026」には、日タイ両政府の関係者をはじめ、アジアの企業経営者や有識者が集結した。

本稿では、フォーラムから浮かび上がった「Connectedness(つながり)」と「Transformation(変革)」という二つのキーワードを軸に、企業の実践を紹介しながら、タイを含むアジアで事業を展開する企業の成長のヒントを読み解く。

分断に「つながり」で挑む、アジアの新たな選択

©️Nikkei

「Nikkei Asia Forum APAC 2026」は、日本経済新聞社の創刊150周年記念プロジェクトの一環として、7月16日にバンコクで初開催された。会場には、日本経済新聞社の飯田展久代表取締役社長をはじめ、エクニティ副首相兼財務相、シハサック副首相兼外相、大鷹正人駐タイ日本国大使ら日タイ両国の政府関係者、アジアの企業経営者や有識者が集まった。

冒頭、飯田社長が強調したのが「Connectedness(つながり)」の重要性だ。地政学的な対立や経済の分断が進む今だからこそ、国や企業が境界を越えて連携する必要がある。人工知能(AI)の時代にあっても、ビジネスの原点には人と人との対話と信頼があると訴えた。

日本経済新聞社の飯田展久代表取締役社長 ©️Nikkei

では、分断が進む世界で、アジアはどのように「つながり」を維持していくのか。その方向性を示したのが、シハサック副首相兼外相が掲げた「Resilient Openness(強靭な開放性)」だ。リスクが高まったからといって経済を閉じるのではなく、特定の国や市場への過度な依存を減らし、パートナーを多様化することで、開かれた経済と強靭性を両立させるという考え方である。

同氏はさらに、これからの成長には、国境を越えて異なる技術や製造力、資本、イノベーションを組み合わせ、新たな価値を生み出していくことが重要だと指摘した。リスクに備えながらも閉じるのではなく、むしろつながる相手を広げていく。それが、分断の時代にアジアが示す新たな選択肢だ。

では、その考え方を企業経営の現場ではどう実践するのか。最も生々しくその現実を語った一人が、タイ自動車部品大手AAPICO HI-TECH(アーピコハイテック)を率いるイエップ・シー・チュアン氏だった。

「今が最も恐ろしい」、それでも中国と組む理由

左から、モデレーターを務めたNikkei Asia東南アジア編集長のジョン・アグリオンビー氏、タマサート大学ビジネススクールのパヴィダ・パナノンド教授、国際通貨基金(IMF)のペティア・コエヴァ・ブルックス調査局副局長、AAPICO HI-TECH(アーピコハイテック)のイエップ・シー・チュアン社長兼CEO ©️Nikkei

アジア経済は成長を続けている。国際通貨基金(IMF)のペティア・コエヴァ・ブルックス調査局副局長によると、世界経済の成長率が3%程度と見込まれる一方、アジア新興国は約5%と、引き続き世界経済を牽引する存在だ。しかし、その内側では産業構造が大きく変わりつつある。

タマサート大学ビジネススクールのパヴィダ・パナノンド教授は、危機や変化への対応力を意味する「レジリエンス」について、「誰のためのものか」と問いかけた。例えば、先進国が自国産業を守るために製造業を国内へ戻すことは、その国にとってはリスクへの備えとなる。一方、海外投資に支えられてきたタイにとっては、むしろリスクになりうるからだ。

こうした構造変化の渦中にあるのが、タイの自動車産業である。イエップ氏によると、タイの自動車生産台数は約12年前のピーク時の年間240万台から、現在は160万台まで縮小した。景気低迷に加え、中国メーカーの急速な進出で競争環境も大きく変わっている。「当社の歴史の中でも、今が最も恐ろしいリスクに直面している時期だ」と、現在の事業環境に強い危機感を示した。

それでも同氏は、危機を「機会」と捉える。アーピコハイテックは1997年のアジア通貨危機や2011年の大洪水、コロナ禍など、幾度もの危機を経験してきた。約20年前から海外展開を進め、現在では売上高の約半分を海外市場で稼ぐ。危機が訪れるたびに事業を「再調整」してきた経験が、現在の経営を支えているという。

つながるためには自らも「変わる」必要がある

AAPICO HI-TECH(アーピコハイテック)のイエップ・シー・チュアン社長兼CEO ©️Nikkei

そして今、イエップ氏が生き残りのために選ぶのが、中国企業との連携である。同氏はまず、自社が小さな企業から成長できた背景には日本企業の存在があったと振り返る。「ゼロPPM(100万個あたり不良ゼロ)」の品質と「100%」の納期遵守。その厳しい要求から部品の作り方、供給の仕方を学び、それがタイを世界水準の自動車製造拠点へと育てた財産になったと話した。

一方、現在タイに進出する中国企業については、「最先端の技術と豊富な資金を持ち、私たちよりはるかにハードに働く」と、その強さを評価する。祖父が中国から移住してきた自身を「30%タイ、30%マレー、30%中国のハイブリッド」と表現しながら、現在の中国企業とは文化や考え方が異なると指摘。それでも、生き残るためには排除ではなく連携しかないと断言した。現在はタイ人スタッフを中国へ送り、中国人技術者をタイへ招くなど、互いの強みを取り込む動きを進めているという。

イエップ氏の話からは、新たな「つながり」を広げながら、自らも変わっていく「Transformation(変革)」の必要性も見ることができた。

「正しい技術」だけでは市場は動かない

サイアム・セメント・グループ(SCG)のタマサック・セタウドム社長兼CEO(写真中央)、トヨタ自動車アジア地域CEOの前田昌彦氏(写真右) ©️Nikkei

では、こうした変革を、実際の事業や現場でどう進めていくのか。フォーラムでは、その具体的なテーマとして脱炭素やAI、ロボティクスを巡る議論も交わされた。そこで見えてきたのは、新しい技術や仕組みを導入するだけでなく、コストや実用性を見極めながら、どう実際のビジネスに落とし込んでいくかという現実的な視点だ。

「グリーンだからといって、顧客が高い価格を払ってくれるわけではない」。サイアム・セメント・グループ(SCG)のタマサック・セタウドム社長兼CEOは、脱炭素を進める上での現実をこう語った。同社はタイで販売するセメントの96%を低炭素型へ切り替えているが、環境に良いだけでは市場には広がらない。従来品と同等か、それ以下のコストが求められるという。

SCGとトヨタ自動車による水素トラックの実証も象徴的だ。トヨタ自動車アジア地域CEOの前田昌彦氏は、タイで実際に運行したものの、水素価格が高すぎたため「1ヶ月で中断した」と明かした。しかし、実証で得た運行データ(テレマティクス)をAIで分析すると、配送ルートを最適化し、ディーゼル燃料の使用量を減らせることが分かった。当初の水素という解に固執せず、得られたデータから別の解へと軌道修正したのである。前田氏はこの転換について「パートナーであるSCGがいてこその最大の収穫だった」と振り返っている。

壇上でダンスを披露したAGIBOTの人型ロボット ©️Nikkei

AIやロボティクスでも、議論は「何ができるか」から「どう使うか」へ進んでいる。中国のiFlytekはAI翻訳機を実際の海外商談で活用。AGIBOTの人型ロボットも、中国や日本の製造・物流ラインでOJTを始めている。同社の小松愛実氏は、現在地を「これまでが幼稚園なら、ようやく小学校に進んだ」と表現した。

華やかな技術の可能性だけでなく、コストや実用性、現場での試行錯誤まで語られた点も、今回のフォーラムの特徴だった。

「安いタイ」の次へ、競争力はコストから「能力」へ

変革が求められているのは、企業だけではない。タイの産業全体も、これまでの成長モデルから次のステージへの転換期を迎えている。タイはこれまで、比較的安い労働力や充実したサプライチェーンを強みに海外企業を呼び込み、製造拠点として成長してきた。しかし、人件費の上昇や周辺国の成長によって、「安く作れること」だけでは競争力を維持できなくなっている。

ABeam Consulting Thailandのマネージングディレクター、スプリーダ・ジラウォンスリ氏は、これからのタイに必要なのは「コスト」から「能力」への転換だと指摘する。EVや半導体、データセンターなど新たな産業への投資が相次ぐなか、求められるのは単に海外企業の製造を担うのではなく、タイに蓄積された人材や技術、産業基盤を生かし、より高い価値を生み出せる拠点へと変わっていく必要があるという。

ABeam Consulting Thailandのマネージングディレクター、スプリーダ・ジラウォンスリ氏 ©️Nikkei

「つながり」と「変革」が生む、次の成長

本フォーラムで印象的だったのは、変化に対応するために、これまで築いてきた強みと新たな力をどう組み合わせるかという視点だ。アーピコハイテックは、日本企業から学んだ製造力を土台に、中国企業との連携を進める。SCGとトヨタ自動車は、企業の垣根を越えて脱炭素に挑み、水素トラックの実証で得たデータを次の取り組みへと生かしている。

こうした企業の実践は、外とのつながりから新たな力を生み出し、それを次の成長へと変えていくことこそ、分断と変化の時代を進む一つの力になることを示していた。

なお、Nikkei Asia Forum APAC 2026の全セッションはYoutubeで観ることができる。

THAIBIZ編集部
和島美緒

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