
カテゴリー: ビジネス・経済
連載: アジアのコングロマリット - 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
公開日 2026.09.10
タンカーラワクン(Tangkaravakoon)一族を祖とするTOAグループは、建築用塗料で約50%のシェアを誇る大手企業グループである。タイ証券取引所(SET)に上場し、安定した収益を生むTOAペイントに対し、未上場で投資・事業持株会社のTOAベンチャーホールディング(以下、TOAVH)は事業多角化を推進。「両利きの経営」に成功しているグループと言える。
本稿では、前編として建築用塗料を主としたコア事業を手掛けるTOAペイントの成長軌跡と近年の戦略的転換を紹介し、次回の後編では、TOAVHを通じたグループの事業多角化と、タイ国内の電気自動車(EV)シフトを捉えた同社の最新動向について分析する。
TOAグループは、タイでは典型的な華人系ファミリー経営の企業である。現在、経営陣は2代目に移行しているが、創業者のプラチャック氏は、妻ラオール氏と共に1957年に小さな金物店を開き、1964年に日本からの塗料輸入を手掛ける小規模な商社を設立した。当初は単なる輸入代理店に過ぎなかったが、他社との差別化を図るために1972年に初の自社工場を建設し、塗料生産も展開。本格的な成長軌道に乗った。
また後発ゆえの独自の販売網の構築も進めた。具体的には「กำเฉิน(カムチェン)」と呼ばれる極めて泥臭い現場主義である。建材店の店主たちを単なる取引先ではなく実の家族のように手厚くもてなし、昼夜を問わず現場へ足を運んで悩みを聞き、膝を突き合わせて強固な信頼関係を深めていった。他社が効率性を追うなかで、人情と結束力でバンコクから地方都市へ食い込み、各地の流通網を固めていった。
TOAペイントがタイ有数の大手企業グループに成長した要因として、高付加価値戦略と顧客の囲い込みが挙げられる。1970年代以降、従来の低価格帯中心の製品群から、より高付加価値なプレミアム建築用塗料分野にシフト。外資のノウハウも導入し、軒並みヒット商品を上市した。また、ゲームチェンジャーとなったのは、2001年に投入した自動塗料調色システム「TOA Color World」である。それまで建材店は、顧客の多種多様な好みに応えるために大量の塗料缶を狭い店内に積み上げ、在庫リスクと資金繰りに頭を悩ませていた。
同社は販売店の店頭に自動調色機システムを設置し、注文を受けてからその場で調色する仕組みを導入し、建材店の資金繰りを改善した。このシステムは他社製品を排除する強固なネットワークとして機能することとなった。

タイ国内で約5割という圧倒的シェアを占める同社は、1990年以降、東南アジア全域に展開することとなる。その先陣を切ったのが1995年のベトナム進出である。南北に長いベトナム市場において、TOAペイント (ベトナム)はタイ同様に全63省・1,200店舗以上に及ぶ巨大な販売ネットワークを構築した。
また、特に注目を集めたのは2017年のSET上場前後より実施された海外への積極投資である。約11億8,400万バーツの資金を投じ、インドネシア、ミャンマー、カンボジアに最新鋭の生産工場を同時並行で建設・移転する一大プロジェクトを断行した。これによりASEAN主要国に9つの生産工場を擁する巨大なサプライネットワークを完成させた。
TOAペイントグループ全体の年間生産能力は1億ガロン(約3億7,900万リットル)を超える規模へと飛躍的に膨れ上がり、同グループはASEANの塗料市場で約13%のシェアを奪取するまでに成長を遂げ、一大企業グループとなった(図表1)。

足元の業績は安定的ながらも、TOAペイントは戦略転換を急いでいる。高金利、高水準の家計負債、不動産開発の停滞—。タイのマクロ経済を不透明感が襲うなか、同社は従来の塗料メーカーからの脱却を素早く宣言し、「住まいの総合ソリューションプロバイダー」への変貌を標榜する。具体的には、塗料依存の構造から脱却すべく、商品ポートフォリオを非塗料分野に拡大。建設化学品や防水材をはじめ、タイル接着剤の「SHARK 2IN1 TILE」、エコ石膏ボード、スマート衛生陶器といった高付加価値製品の展開を急速に拡大している。
また新築市場の減速を踏まえて、需要が堅調なリノベーション・修繕市場へ主戦場を移しつつもある。施主と施工業者を直接つなぐプラットフォーム「WHO Service」を活用して修繕需要を直接掘り起こす一方、米国農務省(USDA)のオーガニック認証を取得した塗料「TOA Organic Care」や、下塗り・上塗り一体型の塗料「4SEASONS 2IN1」、高耐久水性塗料「TOA AQUA SHIELD」など、ESG(環境・社会・ガバナンス)対応を意識した配慮型製品を相次いで投入し、大手デベロッパーとのパートナーシップを強固にしている。
この戦略転換により、停滞していた業績は改善。2025年度、売上高は前年比2.1%増の215億8,900万バーツと微増だったものの、純利益は前年比52%増となる29億1,701万バーツと急成長。純利益率は14%へとはね上がり、逆風下でも確実に高利益を生み出す強靭な収益体質を証明してみせた。
今回は、ペンキ店から出発したTOA ペイントが、数々の革新的な技術を投入し、強靭な収益体質を築いてきた歩みを紹介した。次回は、本業で着実に成長を続けるTOAグループが、次世代への継承と事業多角化をどのように進めてきたのかを、TOAVHの視点から解説する。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希 氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Consultant
池内 勇人 氏
製造業全般の現場管理サポート、業務効率化サポートや新工場立ち上げなどを経験。2021年にMURCタイに入社、タイをはじめ周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、企業ベンチマークなどの業務を担う。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
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