日本にはない「バイクタクシー」 運転手の生活が成り立つのはなぜ?(後編) 〜働く条件と業界の裏側〜

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日本にはない「バイクタクシー」 運転手の生活が成り立つのはなぜ?(後編) 〜働く条件と業界の裏側〜

公開日 2026.10.30

前編では、バイクタクシーの制度や料金、運転手の収入まで見てきた。後編では、運転手になるための条件や経費、登録制の裏側にある問題から、バイタクという仕事の実態をさらに掘り下げてみたい。

バイタクの最大のメリットは渋滞をすり抜けできること。
バイタクの最大のメリットは渋滞をすり抜けできること。

収入は悪くないが、平均勤務期間は8年程度

前編で紹介した通り、2019年のUTCCの調査結果では、アンケート対象1,243人のバイタク運転手における平均収入は1日あたり974.81バーツ、1ヶ月あたり2万4370.25バーツだった(1ヶ月25日稼働として算出、1日平均9時間)※1。タイ国家統計局(NSO)発表の2025年度におけるタイ全土の平均世帯収入は月2万8,308バーツ※2なので、経費を無視すればだが、2019年のUTCC調査結果を見る限りでは決して収入は悪くない。

UTCC調査ではバイタクを専業にする運転手はアンケート対象者数の79.57%で、自由に出勤し、自由に休める点でも悪くない職業ともされる(ただし、法的には1年間で最低6ヶ月間の稼働は必須)。それでも平均的な勤務期間は8年程度ではある。悪天候では労働環境が悪化し、晴れれば炎天下での走行を強いられる。いずれにしても、厳しい環境下での仕事だからだ。

そんなバイタク運転手になるには、まず「公共二輪運転免許証」が必要になる。これは日本でいう第二種運転免許で、旅客運送に必須の免許証だ。20歳以上が取得でき、取得後、所属したい待機場所と契約、バイク(125ccまで)の旅客運送登録(黄色のナンバープレートを取得)を経て、地域の陸運局で運行許可証をもらう。待機場所の名簿に登録され、その場所で登記された以上そこでしか顧客を乗せてはいけないことになっている。

走行距離にもよるが、燃料費などの経費は1ヶ月あたり1万バーツ程度かかるとみられる。タイでは、バイタクの運転手は、実際にかかった経費を計上する代わりに、売上高の60%を経費として一律に差し引くことが認められている。また、個人所得税については、経費や本人控除(6万バーツ)などを差し引いた課税所得が年間15万バーツ以下であれば、かからない。

この条件で計算すると、ほかに所得がない場合、年間売上高が52万5,000バーツ以下であれば所得税額はゼロとなる。月平均では約4万3,750バーツだ。長距離走行や高額な運賃設定などで売上高が大きく伸びない限り、多くのバイタク運転手は所得税がかからない計算になる。

バイタク業界に潜む新たな闇

平均収入が悪くないとはいえ、富裕層の所得水準には到底及ばないので、先述のように登録制になったことで、みかじめ料(前編で解説/かつて一説にあった反社会勢力運営時代の慣習)が不要になったことはバイタク運転手にはありがたいことだった。しかし、それでもバイタク業界に新たな闇が各所で浮き彫りになりつつある。上記の平均収入はあくまでも平均であって、当然ながら上に大きく振れている数値もある。つまり、平均を大きく上回って稼いでいるバイタク運転手もいると考えられる。

先述のバイクの黄色ナンバー取得については2021年4月下旬に「公共バイクタクシーの登録に関する陸運局規則(第3版)」※3が施行された。また、陸運局への営業許可申請には犯罪歴の確認も必要になっている。身分証の提示はもちろんのこと、得られた許可証や待機所の名簿への登録名義、オレンジのベスト、そしてバイクも含めて他人への貸し出しは禁止となっている。

こうなると、正規バイタク運転手になるには少しハードルが高いと感じる人も出てくる。犯罪歴がある人や、外国人など書類が揃えられない人がそれにあたる。タイ人雇用を守るため、バイタク運転手は本来外国人が就くことは認められない。しかし、現実的に不法就労としてバイタク運転手をするラオス人などがいるようである。


こういった人たちにタイ人名義の営業許可やオレンジのベストが裏取引されることがあるという。タイのメディア記事※4では地域によって数万~数十万バーツが購入価格相場とある。あまり人気のないソイ奥などであれば3万~8万バーツ、ソイの入り口付近で8万~15万バーツ、バンコク中心部なら15万~80万バーツとされる。さすがに購入できないとなるとレンタルもあり、それでも毎月数千~数万バーツもかかるようだ。違法であることはともかくとして、この金額で採算がとれるということでもあるので、バイタク運転手でも稼げるエリアは平均よりもずっと多いということでもある。

縄張り争いから抗争に発展

待機場所はバンコク都委員会が指定した場所になるのだが、2003年に登録・整理が始まってから23年になるので、古参こさんも多い。タイはいろいろな場所・業界で利権が幅を利かせるが、ここでも古参が利権を握ってしまうという構図ができあがっている。

先述のようにバイタク運転手になるには許可申請前に待機場所を確保する必要がある。ほとんどは顔見知りなど人づてでその待機場所に入っていくケースだが、そうでない人に対しては、界隈を仕切るボス的存在が登録の見返りを求める場合が多々あるのだ。さらに、日々の売り上げからみかじめ料を要求される。これでは登録制以前のタイ反社会勢力がやっていたこととまったく同じだ。

この問題が浮き彫りになったのは、2019年6月中旬、スクンビット通りソイ103のウドムスック通りで2つのバイタク拠点が暴力的な衝突をしたことがきっかけだった。一方の待機場所は委員会指定の正規で、もう一方のグループは非正規の待機場所メンバーだった。ルートが重複するため縄張り争いになったのだ。これだけ聞くと、非正規が悪いように見える。

しかし、警察の捜査の結果、非正規の待機場所の運転手たちはもともと正規の待機場所のメンバーだった。正規の待機所を支配する人物が、各運転手から毎月3,500バーツもの賄賂を要求していたという。1ヶ月に25日稼働とすれば1日140バーツにもなる。そのため、不満に思った人たちが新拠点(非正規の待機場所)を結成するに至った。タイの報道では、この暴力的な衝突で負傷者多数、死者1名が出ている(死者は、発砲の流れ弾を受けた無関係の人物)。タイ・メディア※5では、支配していた人物の自宅は豪邸だったと報道されている。

これはかなり悪徳なケースだ。待機場所を牛耳る反社会勢力的な人物は現在でもバンコク中にいて、場所の使用料や維持費などと称して運転手ひとりあたり月平均で500~2,000バーツも要求し、支払いを怠れば嫌がらせなどで、生計を脅かすのは日常茶飯事だという※4。

正規バイタクでも見分けは難しい

バイタクを利用する場合は上記のようなトラブルもあるので、基本的には正規を使いたいところだ。しかしオレンジベストが売買されているとなると、どうやっても正規か否かをこちらで判断しかねる。そもそもベストは運行許可が出たら、待機場所から番号をもらい、その番号でベストを自分で仕立て屋に発注する、という段取りで作成される。正規番号を入れないベストなら外国人観光客でも作れるくらいで、知識がなければ正規・非正規を見分けられない。

それでも無許可営業の割合は正規よりもずっと少ないので、とりあえずは地域の名称を刺しゅうしているオレンジベストを着た運転手(もしくは待機場所)を選べば問題ないだろう。乗車中に起きた事故に対する補償の問題もあるため、正規を選ぶことをおすすめする。

正規ベストは走行エリアの刺しゅうがある。
正規ベストは走行エリアの刺しゅうがある。

渋滞が酷い時でも、利用はいかがなものか

正規バイタクの場合、登録時に商用車用の「ポーローボー」(日本でいう自賠責保険)への加入が条件となる。つまり、正規には無保険車は存在しない。自賠責なので高額の補償は期待できないものの、治療費最高8万バーツ、死亡で最高50万バーツが支払われる。事故直後には初期補償という制度もあり、過失割合の確定を待たずに治療費実費が最高3万バーツが支払われることになっている。

前編の料金設定に関する説明で15キロメートル以上は交渉制と記したが、その距離をバンコクで利用するのはおすすめしない。アソーク辺りから15キロメートルというと、ほとんど郊外に到達する。そこまでの距離の道中は路面の悪さ、天候の変化、他車のマナーの酷さなどにより、事故に遭う確率が跳ね上がる。

短距離移動であっても危険度はそれほど変わらないだろう。バンコクは渋滞が酷いので、急いでいるときにバイタクは使いやすいと考える人も多い。しかし、タクシーや乗用車の特に後部座席の人がうしろを見ずに突然ドアを開けるなど、罠としかいいようのない危なさが常時つきまとう。

バイタク業界そのものに裏事情が多すぎて、運転手たちも稼ぐのに必死だ。非正規ならなお吸い取られる部分が多く、その補填のために客にふっかける悪い人もいる。そのあたりを考慮すると、バイタク利用はよほどの最終手段と見たほうがいい。

地域によっては24時間待機もあるが、基本的にはバーが終わる深夜2時くらいにはすでに終了している待機場所がほとんど。
地域によっては24時間待機もあるが、基本的にはバーが終わる深夜2時くらいにはすでに終了している待機場所がほとんど。

参考:

  1. ※1 タイ商工会議所大学(UTCC)経済・ビジネス予測センター(CEBF) ↩︎
  2. ※2 タイ国家統計局(NSO) ↩︎
  3. ※3 タイ陸運局(DLT) ↩︎
  4. ※4 MGRオンライン ↩︎
  5. ※5 Thai PBS(2019年6月20日) ↩︎

髙田 胤臣 氏

タイ在住ライター。初訪タイ98年、移住2002年9月~。著書に『だからタイはおもしろい』(光文社新書)、『亜細亜熱帯怪談』『タイ飯、沼』(ともに晶文社)、『裏の歩き方』シリーズ(彩図社)などのほか、電子書籍をAmazon kindleより自己出版。書籍、雑誌、ニュースサイトで東南アジア関連の記事を執筆する。YouTubeチャンネル「バンコク・シーンsince1998│髙田胤臣」でも動画を公開中。

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