カテゴリー: ビジネス・経済, カーボンニュートラル, バイオ・BCG・農業
公開日 2023.03.08
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はタイ国立科学技術開発庁(NSTDA)と共同で2月10日、「タイのカーボンニュートラルの実現に資するCCUS技術~日・タイの挑戦~」と題するウェビナーを開催した。NEDOとNSTDAは2021年8月に協力の覚書(MOU)を結び、日タイ両国のこの分野の政策や取り組みを相互に紹介し、技術交流の促進に取り組んでいる。同ウェビナーは今回が第2回目で、政府機関や民間企業の専門家がタイにおける二酸化炭素(CO2)回収・利用・貯留技術 (CCUS)開発の可能性や実証事例・最新技術についてそれぞれ報告した。
ウェビナーではまず、NSTDA傘下の国立ナノテクノロジーセンターのポンガーン氏がCCUSと電気化学的なCO2削減をテーマに講演した。同氏は廃棄物から価値を生み出すというコンセプトに基づき、バイオマスや、CO2の化学物質への変換を研究テーマにしている。例えば、「CO2の化学物質への変換では、CO2をアルコール、エチレン、エタノールなどの有用な化学物質に変換する触媒プロセスに重点を置いており、CO2の炭素への変換、CO2の分離、固体吸収剤を用いたCO2の回収も研究している」と述べた。
ポンガーン氏はCO2排出量について「タイのCO2年間排出量は約300メガトン(1メガトン=100万トン)で、東南アジアではインドネシア、マレーシアに次ぐ3位だ。タイのCO2排出量は世界の排出量の約1%未満に過ぎないが、タイ政府は国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル、2065年までに二酸化炭素排出のネットゼロを達成するとの挑戦的な目標を公表しており、脱炭素戦略を強化する必要がある」とした上で、「最も難しいのは石油化学産業やセメント産業などの重工業の脱炭素化だ」と強調。CO2削減の1つの方法として再生可能電力を利用し、電解槽などの電気化学プロセスでCO2を燃料や化学物質に変換する方法を説明した。
続いて、泰日工業大学(TNI)のジンタワット准教授が2022年9月より開始した石油・ガスエネルギー産業及び化学産業のCCUS技術の可能性を探る調査プロジェクトの概要を報告。「タイは2007年に国家気候変動政策委員会と温室効果ガス削減推進を目標とする気候変動小委員会を設置した。この小委員会は経済面や法制度面の検討、さまざまな対策の提案、ロードマップの作成、各種法案改正を行っており、CCUS技術の普及・発展に関する対策も担当している」などと説明。さらに「タイ投資委員会(BOI)もCCUS技術を支援するための政策やインセンティブを提供している。タイ工業連盟(FTI)はCCUS技術の人材育成支援のため、チュラロンコン大学と大手民間企業8社とCCUS技術開発コンソーシアムを構築し、技術開発を推進している」ことを明らかにした。
TNIからはさらに工学部のマハンノッブ副学部長がタイ国内における研究の現状及び初期段階の調査結果を紹介。2022年10月に研究者及び企業にインタビューした結果、「CCUS技術のコアテクノロジーは材料科学とエネルギーの2つの分野から構成されている。材料科学は二酸化炭素貯留または炭素吸収材を開発する基礎となる。材料部門とエネルギー部門の協業に関しては貯留した二酸化炭素をどのようにエネルギーに変換するか、またはより付加価値の高い新素材にどのように変換するのかがポイントになる。さらに発電過程でいかにCO2排出量を抑えるかもポイントだ」との認識を示した。
同氏はまた、「CO2のCCUS技術では、各大学が工場の煙突からすべての燃料生産プロセスからのCO2を回収できる素材を開発している。また、企業はCCUS技術の実用化には炭素税の法整備と具体的な運用方法が必要だと指摘している。炭素税が導入されれば、企業は何らかの対策を講じなければならない。これは大企業なら問題ないが、中小企業の場合はインセンティブを与える必要があり、資金面に加え、大学や研究機関などからの支援、インフラ投資の支援を提供すべきだ」と訴えた。
一方、NEDO環境部の大城 昌晃主任研究員はNEDOの役割について、「日本は2050年にカーボンニュートラルを目指しており、1億2000万トンから2億4000万トンの二酸化炭素(CO2)のCCUSに取り組む必要がある。NEDOはイノベーションのアクセラレータであり、公的な技術開発マネジメント機関として、現在、民間企業、大学、公的な研究機関などから案件を公募している。採択された案件を実行に移し、基礎研究からスケールアップし、社会実装までを支援し、日本や世界の社会問題を解決することを目指す」と述べた。
その後、日本企業がそれぞれのCO2分離回収技術やプロジェクトを紹介した。
まず、日鉄エンジニアリングの脱炭素ソリューション営業部の三室 真彦シニアマネジャーは同社の省エネ型CO2回収設備「ESCAP」について、「ESCAPでは2基の商業機の実績がある。初号機のCO2は日本の炭酸ガス販売事業者の「エア・ウォーター炭酸」社に供給している。製造規模は1日120トンで、北海道全土に液化炭酸ガス、ドライアイスを供給している。また、北海道では飲料メーカーのコカ・コーラやサッポロビール向けの炭酸ガスもこの設備が供給している。2つ目の商業機は愛媛県の新居浜市にある住友化学向けの設備だ。近隣にある住友共同電力の石炭火力発電所の排ガスからCO2を分離回収し、住友化学の工場へ供給している。当社はCO2分離回収設備を日本でのCCUSの実現可能性調査に利用しており、2030年までにCO2排出量を30%以上削減することを目標している」と強調した。
続いて、川崎重工業の技術開発本部の奥村 雄志氏が同社の空気からのCO2分離回収技術を紹介。「この技術は空気から直接CO2を回収できる『Direct Air Capture』技術だ。回収したCO2はほぼ100%という高純度のCO2になる。その日の天候により、性能に差はあるが、1000時間を行っても劣化していくことはなかった。1日に5キロ分離回収できているが、今後は年間数千トンの分離回収に向けて開発を進めていきたい」と抱負を語った。
最後に三菱重工業の脱炭素事業推進室の米川 隆仁次長が登壇し、「2050年までにカーボンニュートラル達成を目標にしているが、削減努力にもかかわらず、世界のCO2の排出量は4.3~13ギガトン(1ギガトン=約10億トン)程度と予想されており、現在の100~300倍のCO2を回収する必要がある」と指摘。そして、「CO2エコシステムがカーボンニュートラルを加速できると信じている。良い例としては英国の『CCS Hubs and Clusters』がある。このプロジェクトは、CO2回収市場を創設し、CO2回収プロセスへ応用し、セメント工場や製鉄所などさまざまなCO2排出源に対象を拡大している。当社では化石燃料の燃焼後のCO2回収に加え、廃棄物発電所やバイオマス発電所などからのCO2を大気から直接回収する研究開発にも取り組んでいる」と報告した。
TJRI編集部
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