ArayZ No.143 2023年11月発行タイでイノベーションを巻き起こす日本発スタートアップ
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カテゴリー: 特集
公開日 2023.11.10
目次
独自開発のAIによる画像解析とエッジコンピューティング技術を活用したAIエンジニアリング事業を展開するニューラルグループ。2018年の創業からわずか2年半で東京証券取引所に上場を果たし、初の本格的な海外進出として、タイ法人を22年末に設立した。街中の画像情報を認識・解析するAI技術はすでに日本各地の自治体、ディベロッパー、鉄道、商店街などで活用されており、地域のスマートシティ化に貢献している。
「交通量や商業施設内の人流を可視化し、その情報発信を通して人々の行動変容を促すのがコンセプト」と話すのはNeural Group (Thailand) Co., Ltd.の竹中一真CEO。同社は、今年4月にタイ最大財閥CPグループ傘下のEgg Digital社と事業提携した。慢性的な交通渋滞に悩むタイの幹線道路をAIで解析し、渋滞状況に応じて屋外広告のコンテンツを切り替えるデジタルマーケティングプロジェクトに乗り出している。竹中氏は「渋滞の待ち時間を生産的な時間に変えたい」と意気込む。
同社のAI解析は、カメラに設置された小型機器「エッジAIボックス」の端末内で完了する。クラウドサーバに送信されるのはテキスト情報のみで、個人を識別する画像情報は端末機器の中で破棄されるため、個人情報も保護できる。
AIエンジニアおよびデータサイエンティスト教育のエコシステム構築に向け、今年からタイ高専とパートナーシップを締結し、同社の技術者を派遣している。政府の産業高度化政策「タイランド4.0」を人材面でも支援する。
フルカスタマイズ可能なAI開発を強みに、企業のサステナビリティ実現のためコンサルティングから新規事業開発支援、ソリューション開発まで手がけるのが株式会社Recursiveだ。日本企業でありながら、CEOを務めるのはポルトガル人のティアゴ・ラマル氏。
創設者でもあるティアゴ氏は、「AlphaGO」で知られる世界最高峰のAI開発会社、DeepMindの元シニアリサーチエンジニア。強化学習、予測モデル、自己管理型学習など数々の最先端プロジェクトに従事し、「Nature」誌などにも論文を発表している。そんなティアゴ氏のことを「世界の宝。AIエンジニアのトップオブトップ」と評するのはもう一人の共同創設者、山田勝俊COOだ。2人の出会いから2020年に生まれた同社。ティアゴ氏に対する信頼が世界中からトップエンジニアと仕事を呼び込んでいる。
今年3月頃から本格的に動き出した海外進出。インドネシアでは森林火災の防止など森の保全プロジェクトに参加。AIで地下水位を予測するなどして、他社では1年半かかっていた取り組みをわずか2ヵ月で結実させ、これまでを凌ぐ成果を生み出した。
タイでは、8月に登壇した「Techsauce Global Summit 2023」をきっかけに主要財閥と組み、エネルギー、食、ヘルスケアなど一気に様々なサービスへの展開を狙う。大規模言語モデルを活用した情報横断検索システムはタイ語にも対応する。向こう半年をめどに拠点の開設も計画しており、現地の大学と協力してAIエンジニアの育成にも乗り出した。山田氏は、「いつかタイの会社が自社で開発できるように」と社会貢献への思いを語る。
「AIをゼロコードで、すべての人へ」をスローガンに、2018年に京都で創業した株式会社RUTILEA。複雑な導入プロセスをシンプルにすることで、精度の高いAIをすぐに使える状態にし、製造業の生産性向上を支援している。国内大手自動車メーカーなどで採用が進み、自動車部品の外観検査、動画による作業分析・安全管理、ドキュメント作成・管理などに活用されている。
この技術に着目をしたのが、タイのキングモンクット工科大学(KMUTT)の科学技術イノベーション政策研究所だ。昨今、タイ国内で相次いでいる銃器を使った犯罪の数々。この抑止が緊急課題として浮上していた。
同社は、物体検出やセグメンテーションを行う画像解析AIを使って、捜査機関などが持つ膨大な画像データから銃器を検出できる仕組みを構築する。薬物中毒者や再犯者に特徴的な挙動データを採り入れ、衣服の中に隠し持っていたとしても、その不自然な体勢や行動から銃器の存在が判別できるよう精度を高めていく方針だ。本年8月頃からプロジェクトを開始し、結果次第で来年の実用化が見込まれる。タイ深南部では分離独立を目指す武装勢力もおり、バンコクでの実績が郊外にも展開されることが期待される。「安全な場所に産業は集まる。インパクトは大きいはず」と同社は話す。
人工衛星データの販売およびデータを活用したソリューション提供で、災害対策やインフラ開発、農業生産性の向上などに貢献するのが2018年設立の株式会社Synspective。地図アプリなどに活用される従来の光学衛星と違い、同社が開発・運用する「SAR衛星」最大の特徴は、波長の長いマイクロ波で地表面の観測を行うことで、雲に覆われていても夜間でも、1年中常時地形や構造物の形状・物性までを正確に把握できる点だ。
同社のSAR衛星は、1,000km²以上のデータを3m以下の分解能で一度に取得でき、観測モードにより1m以下の分解能でもデータ取得が可能。SARデータは時系列分析や変化抽出に強く、経済・環境の連続的変化を捉えるのに適していると言える。
小型・軽量による低コスト化を図った同社の衛星は、多数機生産が可能となり、現在の3機体制から24年以降に6機体制を目指し、20年代後半には30機体制まで引き上げる計画。より迅速かつフレッシュな情報提供および幅広い顧客ニーズへの対応が期待される。
シンガポールに東南アジア市場の統括子会社を置く同社だが、タイでも、衛星運用・通信事業を行うTHAICOM PUBLIC COMPANY LIMITEDやタイ地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)とパートナー関係にある。過去20年間で面積が半分以下になったとされるタイの森林のモニタリングや、ミリ単位の地盤変動観測による地滑りの危険性予測など、アジア太平洋地域の社会課題解決に取り組む。
鹿児島県で創業した株式会社ECOMMIT。数あるリサイクルショップと違うのは、全国約3,000箇所の回収拠点と、国内外約100社のパートナーと築き上げた与信管理ルールだ。
日本国内で排出されるごみの量は、東京ドーム112杯にも相当する4,167万トン。1人が1日に捨てるごみの量は約900グラム。現在稼動する最終処分場もあと20年分しか残されていないのが現状だ*¹。にもかかわらず、日本の廃棄物のリサイクル率はOECD加盟国の中でも最下位に近い20%台*² 。この危機感が事業を成長に導いた。
同社は回収におけるインフラが圧倒的に不足していることが原因だと考え、2023年4月に不要品の回収・選別・再流通を一気通貫で行う「PASSTO(パスト)」の提供を開始した。公共施設や商業施設など、人々の生活ルート上に不用品回収ボックスを設置し、全国各地に回収拠点を拡大中。24年9月までに1,000ヵ所、回収する衣類は現在の倍の1万2,000トンを目指す。
回収後は衣類選別のプロがまだ使えるリユース品を選別。その数は123品目にも上る。これらを自社ネットワークや海外卸のルートに乗せ再利用へ。リユースできないものは、原料として生産現場へ提供する。その一つが東南アジアだ。
タイのリユース市場の拡大は目覚ましい。10〜20代を中心に古着に対するハードルはほぼなくなり、良いものを安く求める消費者が少なくない。アパレル生産国として縫製原料の需要も高く、資源としての循環も期待できる。「捨てない」選択肢を提供し、地球規模で再利用・再資源化を進める。
*¹ 出典:環境省HP https://www.env.go.jp/press/110813.html
*² 出典:国立環境研究所社会対話・協働推進オフィスHP https://taiwa.nies.go.jp/socialmediapolicy/index.html
オレンジやバナナの皮など作物残渣を原料とした完全オーガニック由来の超吸水性ポリマーの開発に成功したのは、沖縄科学技術大学院大学(OIST)発のスタートアップEF Polymer株式会社。創業者はインド人のナラヤン・ラル・ガルジャールCEO。自身も干ばつ地域の農村出身で、「村の仲間を助けたい」との思いから研究を始めた。同大のアクセラレータープログラムを経て、今では日本、インド、アメリカ、フランス、タイの水不足に悩む多くの農家を助けている。
世界で干ばつ被害を受けているのは人口約79億人の45%。水不足が作物の収量拡大の弊害となっている。「EFポリマー」を土に混ぜ込むだけで水利用量の最大40%、肥料の20%が節約でき、収量は15%拡大する。従来の石油由来のポリマーは吸水倍率などの機能が農業用途に向いていないだけでなく、土壌や海洋汚染など中長期的に環境への影響が懸念されるが、EFポリマーは水分と栄養素の保持力が高く、完全生分解性。作物の病気も軽減でき、農家の収入増にもつながる。
タイでは2020年頃からキャッサバ、サトウキビ農家で実証実験を開始。メコン川の水位が過去100年で最低を記録するなど気候変動が農業に与える影響は深刻だ。EFポリマーはその切り札となる公算が高い。同社は、これまでに5ヵ国で160トンのEFポリマーを届けてきた。さまざまな農作物の残渣が使えることから、地産地消型・循環型経済モデルも確立できるとして新たな国や地域への浸透も進める考えだ。
厚さわずか0.1ミリの新素材。太陽光からの熱を95%以上ブロックするのと同時に、赤外線として95%以上の熱を宇宙空間に放出することを可能にした夢のようなフィルムを、大阪ガスの研究者が開発した。地球温暖化の解決に役立つと、2021年に事業会社として設立されたのがSPACECOOL株式会社だ。社名と同名のフィルム「SPACECOOL」は、タイや中東などの低緯度地域で早くも威力を発揮する。
世界が注目するこの技術は、放射冷却現象の原理を応用している。冬の夜間から明け方にかけて気温が一気に低下するあの現象だ。地球は昼夜問わず常に熱を赤外線として放射し続けている。そこで、赤外線放射によって出る熱を太陽光から入る熱よりも大きくすることで、貼付した対象物を冷やすことを可能にしたのが同製品だ。直射日光が当たった状態で素材の表面温度が外気温より最大6℃、使用環境次第でそれ以上の温度低下も可能という。耐候性は10年以上。貼るだけで空間やものを冷やすことができるため、地球温暖化対策、省エネ、コンテナの温度上昇抑制、屋外機器の故障防止など様々な用途で活用され、大阪・関西万博のパビリオンでも使用されることが決まっている。
タイで事業化が始まったのは今年4月。環境問題に関心を持つ大手企業などから引き合いが相次いでいる。放射冷却を使った放熱フィルムの商業化は世界でも少なく、欧州では同社を例にその効果の評価基準作りが始まっている。有害物質を含まず、人体にも地球にも優しいSPACECOOLが市場をリードしている。
企業や製品・サービス単位での温室効果ガス(GHG)の排出量を算定・可視化および削減管理できるクラウドサービス「Zeroboard」を提供する株式会社ゼロボード。社内システムの各種データ(調達、会計など)を入力または連携するだけで、専門知識は不要だ。国内外の各種環境法令の報告形式での出力や、排出量削減のシミュレーションも可能。2021年の設立から加速度的に導入社数を拡大し、販売開始からわずか1年半で2,600社を超えた。
Zeroboard (Thailand) Co., Ltd.はASEANの統括会社として23年3月に開設。タイは2050年までにカーボンニュートラル、65年までにネットゼロ達成を目指しているが、「タイ証券取引所から気候関連財務情報の開示義務が課せられている上場企業ですら、GHG排出量の算定・見える化はこれからというところが多い」とタイ法人代表の鈴木氏は指摘する。
同社は、アユタヤ銀行や泰日経済技術振興協会(TPA)、タイ発電公社(EGAT)の子会社INNOPOWERなどと相次いでパートナーシップを締結。アライアンスパートナーである長瀬産業とは、脱炭素経営の普及啓発やタイ企業との共創の場として、EEC事務局の施設内にソリューションの展示ブースを設置。ベトナムでも共に、現地のGHG排出量オンライン報告システムに「Zeroboard」を連携する実証事業を進めている。インドネシアも新たな市場と捉え、アジア各国を飛び回る鈴木氏。脱炭素競争に勝ち残るための第一歩をゼロボードが支援する。
農家の販売先市場が国内に限定されていることに問題意識を持ち、青森県産りんごや静岡県産さつまいも、栃木県産シャインマスカットなどを東南アジアや台湾、香港ほか海外に輸出しているのが、2016年設立の日本農業。20年にはタイ法人Nihon Agri (Thailand) Co., Ltd.も設立し、北部チェンマイ県に日本人技術者3名が常駐して日本品種いちごの現地栽培を始め、出荷量、販売量ともに順調に伸ばしている。
バンコク中心部の商業施設には海外から輸入された青果が整然と並ぶ。日本産も少なくないが、幅を利かすのは韓国や中国など。価格は日本産を大きく下回るものが多い。「日本産の良さを知っている人が少ない。知っていても買えない人が多くいる」とCOOの今岡氏はもどかしさを覚える。日本産の美味しい青果をボリュームゾーンである中間所得層にも届けたいと、仕入れのタイミングを調整したり、サイズの小さいものを出荷したりするなど、中間ロスの削減に奮闘している。
入荷後、傷があるために廃棄する青果は加工販売することで、食品ロスの削減にも取り組む。環境意識が高まるタイでは重要な課題だ。
「輸入規制、輸出規制の厳しいタイでは煩雑な事務手続など問題山積だが、後継者不足・市場縮小に悩む日本の農家救済の一助になれば」(今岡氏)。若きスタートアップ企業が農業の構造変革に挑む。
29歳の若き連続起業家、坪井俊輔氏が2018年に設立したサグリ株式会社。途上国の児童労働を見たことがきっかけだった。
衛星データやAIを用いて耕作放棄地を可視化する「アクタバ」と、作付け状況を可視化する「デタバ」を国内40の自治体に導入し、農業にかかる調査を効率化。農業人口が減少する中、大規模農場経営や新規参入の切り札になるとして期待されている。
また、インドとシンガポールの支社を起点に国外にも提供しているのが、衛星データから生育状況の把握や土壌の解析を行う「Sagri(サグリ)」だ。農家は収穫量が落ちるのが不安なため、ついつい多量に使用されがちな化学肥料。Sagriを活用することで、全炭素や可給態窒素といった土壌の状態が可視化され、施肥量が最適化できる。その結果、農家のコスト削減にもつながる。
タイやベトナムでは、地方自治体や現地大手財閥と共同で新たな利用も始まっている。化学肥料削減によって生まれる温室効果ガスの減少分からカーボンクレジットを創出。欧米企業に販売することでその収益を農家に還元するという仕組みだ。両国とも農業就労人口はなお多くを占めながら、収入が少ないという課題がある。
中部パトゥムターニー県の水田20ヘクタールを利用した実証実験では、米の収量はそのまま、20%もの化学肥料の減量化に成功した。申請済のクレジットの承認が得られ次第、販売も開始する。社名でもあるサグリは、「SATELLITE(衛星データ)×AI(人工知能)×GRID(区画技術)」から。2025年までに国内外100万世帯の農家にサービスを届けるのが目標だ。
名古屋大学発スタートアップとして発足した株式会社TOWING。植物の炭等の未利用バイオマスからできるバイオ炭に、微生物を付加する独自のスマート人工土壌開発技術「高機能ソイル技術」を有しており、人工土壌の高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を研究開発している。
これにより、有機転換した際に通常3〜5年はかかると言われる土壌づくりがわずか1ヵ月で可能となり、広さや耕作期間が限られる農地においても収穫量の増加が期待できる。さらに、本来廃棄されるような植物残渣や有機物等を炭化し、畑へ撒くことにより、炭素固定ができ、焼却・廃棄によるCO2排出削減にも繋がる。既存の有機肥料と合わせて使用することも可能で、各農家が利用する肥料の切り替えが不要なこともメリットの一つだ。
同社は、アメリカやブラジルなど、農業の人手不足や食料不足に悩む地域にも展開を進めている。タイでは現在、製糖会社やキャッサバ生産会社などから食物残渣の有効活用や収量増加に関する引き合いを受け、農地調査や高機能ソイル技術活用のフィージビリティスタディ(FS:事業化調査)を実施している。海外事業開発担当の置塩氏は、「タイでの事業は始めたばかりだが、各土地にあった方法で効果の実証を重ねてきている。将来的には近隣諸国へも展開し、タイを東南アジアにおけるハブ拠点と位置付けたい」と意気込む。
同社は宇宙まで視野に入れており、月面農業という新たな食料生産システムの構築に目が離せない。
日本初の産婦人科電子カルテの事業化に成功した女性起業家、尾形優子氏が2015年に創業した香川大学発ベンチャー。共同開発した「分娩監視装置iCTG」は、手のひらサイズの可愛らしい2つの計測器だ。胎児の心拍数を測定するピンクのデバイスと子宮の収縮度を測定する水色のデバイスを妊婦のお腹に当てるだけで、計測データがクラウドサーバに送信され、医師は手元のPCやタブレットで胎児の「今」を把握できる。従来、通院が必須であった計測がいつでもどこでも行えるようになることで、近くに分娩施設がない妊婦への遠隔診療の提供やハイリスクの妊婦への早期対処が可能となる。
「世界中のお母さんに、安心・安全な出産を!」という理念のもと、タイ、インドネシア、フィリピン、ケニア、ブータンなどにも積極展開している同社。タイではチェンマイ大学内にオフィスを構え、山岳地帯の多い北部において2018年からの4年間で2,600人以上の元気な赤ちゃんの誕生に貢献した実績を持つ。へき地医療の問題に悩むタイ政府の関心も熱く、隣接するチェンライ県でも同様の取り組みが始まっている。
高齢出産によるハイリスク妊産婦の増加や産科医不足による分娩施設の減少が社会問題化する日本だが、将来的にはタイも同じ局面を迎えるのではと神原氏は読む。「地球上で1日に800人の妊婦と5,500人の胎児が亡くなっている。機器だけでなく、妊産婦死亡率・周産期死亡率ともに世界一の低さを誇る日本の周産期医療の教育も含め世界に届けていきたい」(神原氏)。
約30億年前に誕生し、地球上に酸素と生物多様性をもたらした藻類。現在は約30万種存在するとされるが、産業用に利用されるのは約30種と大半は未知のまま。その研究を20年以上続けてきた東京大学の研究者らが設立したのが株式会社アルガルバイオだ。70種以上もの多種多様な種株が保管される「藻類株ライブラリー」や育種技術に培養ノウハウを掛けあわせ、健康・食糧・環境問題に対するプロダクトやソリューションを開発・提供している。
課題解決に最適な種株を見つけるため企業との共同研究が続く。食物や飼料の原料であったり、鉱産資源に代わるクリーンエネルギーであったり、工場の廃液から汚染物質を取り除くものであったりと顧客が求めるモノ・コトは多岐にわたる。
タイでは、昨年開催された「Rock Thailand #4」への登壇をきっかけに、資源や素材を扱う大手企業から引き合いがあり、CO2の回収や排水の浄化のための共同研究に向けて技術協議が進む。「BCG経済モデル」を国家戦略に据えるタイで、それに貢献し得る技術を持つ同社への注目度は高い。
藻類は、雪山から温泉まで一般的な農業や耕作に不適な土地でも、場所を選ばず生育環境にできることから、シンガポール、インドネシア、アメリカ、ヨーロッパなど世界各国への展開も推し進める。「当社は藻類が大好きなマニアの集まり。藻の良さを世界に知ってもらいたい」(木村氏)。そんな純粋な思いが藻類の未知の可能性をカタチにし、タイを循環・共生型社会へと導く。
110年前から九州大学で行われてきたカイコの研究。効率よくタンパク質を生成する特性に着目し、創薬までの生産プラットフォームの商業化に乗り出したのが、KAICO株式会社だ。目的タンパク質の遺伝子を挿入したバキュロウイルスをカイコに接種することで、カイコ体内でタンパク質が発現。そのタンパク質を利用して製薬につなげる仕組みだ。安全性が高いことからヒトへの接種や投与はもちろん、畜産業や養殖業にも活用でき、実証実験も始まっている。
低コストで大量生産可能なだけでなく、短期間での少量多品種開発にも対応。バキュロウイルスは人体に感染せず無害で、野生回帰能力を完全に失っていることから研究施設外への流出もなく、地球環境に影響しないなど利点が多い。
感染症対策にも有益なのに加え、注目されるのが飼料添加物としての供給だ。すでにベトナムではブタ用飼料添加物としての認可目前で、養豚業の生産性向上が期待される。タイにおいても、この業界大手との事業化を目指す。
養殖漁業への転用も計画されている。養殖魚ごとにワクチンを注射する方法では労働は過酷で生産の拡大も困難。エサに経口ワクチンを混ぜ込めば、こうした課題も解決できるとして水産業が盛んなタイなどで関心が高まっている。カイコが切り拓く産業の創出は無限大だ。
植物由来の人工構造タンパク質繊維「Brewed Protein™(ブリュード・プロテイン™)」の原末をタイ東部ラヨーン県にある工場で生産するのが、慶應義塾大学発スタートアップのSpiber株式会社だ。2022年春に一部商業運転を開始。今年は100t以上の生産を予定しており、フル稼働すると年産500tの規模になるという。現在は衣類や化粧品原料などに用途が止まるものの、将来的に車のパーツなどの工業製品や医療品にも活用される見通しだ。
消費型社会を循環型社会に変えたいという若者たちが起業した同社。着目したのは人工タンパク質。石油由来ではなく自然界から得られた植物由来の糖類を使い、目的の特性に応じて独自にデザインした遺伝子を微生物に組み込み、発酵プロセスによって生産を行うという基盤技術でさまざまな性質のタンパク質を作ることに成功した。
日本との近さや原料が容易に調達できることからタイに工場を構えた。現在は全量を本社のある山形県鶴岡市に向けて輸出し紡糸を行っているが、今後はタイでの販路開拓も目指す。
タイ法人Directorの浅井氏は、「タイで問題となっているマイクロプラスチックによる海洋汚染問題の解決に貢献できるのではないか」と環境課題解決に向けた取り組みにも関心を向ける。ブリュード・プロテイン™は環境生分解性があるため、その代替品として供給できないかを模索している。また、樹脂やフィルムなどにも活用できることから、新素材を求めるタイ企業とのタイアップも進める意向だ。
融資や債権回収のプロセスをデジタル化し、融資申込者の利便性向上、金融機関の業務効率化に貢献するのが2018年設立のクレジットエンジン株式会社だ。同社が開発するオンライン融資管理システム「CE Loan」、債権回収システム「CE Collection」は、中小企業融資から住宅ローンまで幅広く対応しており、大手銀行・地銀などで実績を重ねてきた。
2021年にはシンガポール拠点Credit Engine Asia Pte. Ltd.を立ち上げ、タイ、フィリピン、インドネシアへの展開に動き出した。タイでは個人向けウォレットの導入は進んでいるが、債権回収のオペレーションは未だオンプレの古いシステムを使用している。情報を紙で管理し、延滞者には電話で催促、督促状を発送するなど、膨大な労力とコストがかかっていた。その債権回収の管理から延滞者への連絡、回収までのオペレーション全般をデジタルで行える点が他社にはない強みだ。
現地金融機関からの関心も高く、今年に入り、タイのマイクロファイナンス事業者Wealthi社や建設業界における金融サービスを提供するSIAM SAISON社、フィリピンの大手債権回収会社と実証実験を開始している。自動架電やSMSでの自動通知によりマンパワーでの回収業務が解消され、債権管理用のマイページの提供も行えるようになった。タイ語対応している点も受け入れられる大きな理由だ。
新型コロナウイルス感染拡大や地政学リスクの高まりを背景としたサプライチェーンの混乱により、影響が生じた部品の調達。キャディ株式会社が提供する「CADDi MANUFACTURING」はこうした有事の際はもちろんのこと、近年多様化する消費者のニーズに対応する多品種少量生産においても、低コストで柔軟なサプライチェーンの構築を実現する。同サービスは、メーカーの図面を独自のテクノロジーを駆使して解析し、品質・納期・価格が適合する加工会社を世界中から選定。製造・検査・納品を一貫して担うことで、調達・製造をワンストップで支援する。
そんなプラットフォームを運営する中で、各社各様の膨大な図面データの管理や検索を効率的に行いたいとの考えから、もう一つの主力サービスとなる「CADDi DRAWER」を開発した。過去に受注した図面データは保管していても有効活用できていない企業が多い中、同サービスは、形状・材質・部品名などから誰でも瞬時に図面検索が可能。モノづくりのDX化およびデータのアセット化にも貢献する。
2017年の創業当時から海外進出を念頭に置いていた同社は、22年3月にベトナムに進出。同年11月にはタイにも現地法人を設立した。APACエリアを統括する武居氏は、「タイの製造業は裾野産業まで広く多くの企業が集積しており、高い技術力を有する金属加工会社が多い。周辺国との取引も多い市場で、サービスの需要は増加するだろう」と見る。
株式会社FingerVisionは代表取締役の濃野友紀氏とロボット技術者の山口明彦氏が2021年に立ち上げた大学発のスタートアップ。山口氏が米カーネギーメロン大学在籍時から研究・開発を進める視触覚センサ(複数の特許登録済)「FingerVision」は、人間の指先に見立てた透明の接触部の内部に高解像度小型カメラを埋め込み、皮膚にあたる表面に多数のドットマーカーを配置した構造。わずかでも外圧が加わると表面部が変形し、動いたマーカーをカメラが捉えることで対象物と指先に生じた「力分布」と認識。さらに、対象物の時間的な変化を追うことで「滑り」も認識できる。これを解析して人間の手そっくりの滑らかな動きを実現している。表面部やハンドの着脱が可能なため、導入時や故障時、バージョンアップの際のコストを抑えられる点も強調したい。
すでに工場での実稼働を開始しており、繊細な弁当の盛り付けや、一つ一つ形状の異なる非対称な眼鏡レンズの加工など、多品種生産や柔軟物・不定形物を取り扱う様々な業界・用途で応用が可能だ。
設立直後より東南アジアにも照準を向けていた同社は、今年8月からタイでの本格展開に動き出した。タイでも進むロボットによる自動化。「触覚」の⽋如により進まなかった領域にも手が届くこの技術には、人材不足の解消も期待される。11月には東南アジア最大級の製造業向け展示会「METALEX 2023」にも出展予定で、「視触覚センサの可能性をタイの市場に問いてみたい」と活用分野の広がりに期待する。
2017年にタイで創業した株式会社Flareは、スマートフォンのアプリだけで、社用車ドライバーやセールスエンジニアなど外出の多い従業員の勤怠・業務記録などを管理できるSaaSソリューション「Flare Dash(フレアダッシュ)」を提供している。
Flare Dashは、アプリから業務実施場所・訪問時間や業務レポートを簡単操作で記録可能。記録されたデータは改ざんが出来ないため、虚偽の業務報告や交通費の不正請求などの抑止効果も高い。膨大な紙書類からの転記作業も解消でき、業務効率化にもつながる同サービスは、世界中どこでも利用が可能で、幅広い業種の企業に導入されている。
Flare Dashは同社の基盤技術である、「Flare Analytics(フレアアナリティクス)」との連携にも対応しており、急ブレーキや急発進などの危険運転行動を検知、AIによる分析で運転評価プロセスを自動化できる。また、車載デバイスに依存しないことから、導入までのコストが節約できるのも強みだ。
同社は、他の日系スタートアップ企業とは異なり、元々タイで創業したのが特徴的である。タイ市場に向けたサービスをイチから開発した点が、市場から評価されている大きな要因と言える。現在10ヵ国へのサービスを展開し、今後も事業拡大を狙う。
株式会社スタディストが開発・運営するマニュアル作成・共有システム「Teachme Biz」。2013年のサービス提供開始以降、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、香港、アメリカなど国内外の2,000社以上で導入がなされてきた。活用事例は製造業などの設備メンテナンス手順共有から飲食サービス業のレシピ共有、接客手順共有など多岐に渡る。人気の背景にあるのは、業種・規模・国を問わない高い操作性だ。
ワードやエクセル、パワーポイントによる従来型のマニュアル作成は人員的・時間的な負担が大きい。一方、Teachme Bizはスマートフォンなどで撮影した写真や動画をテンプレートに従って追加し、説明文を入力するだけ。特に識字率が低い国や接客業において、文字に比べ情報量の多い画像や動画の活用は共通認識を持ちやすい。
2010年設立の同社がタイ進出を果たしたのは18年のこと。紙文化と人材の流動性の高さから度々発生する業務の引継ぎ問題。データがどこにあるのか、どれが最新なのか分からないと悩む企業の属人化解消や人材の早期戦力化に貢献してきた。人材不足により業務の自動化にも注目が集まる中、「自動化の前に、まず①可視化、②標準化、③単純化、④徹底化の順で業務改善を進めることが重要だ」と創業メンバーでもあるタイ法人代表の豆田氏は語る。
実行を管理するタスク配信や活用状況を分析するアクセスログなど多くの機能で組織に根付くまで支援。単なるマニュアル作成に止まらず、業務そのものを正しく整理することで生産性向上を実現する。
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