「数字の裏にある実態を、どう見るか」 主体性を引き出す組織づくりの舞台裏

THAIBIZ No.177 2026年9月発行

THAIBIZ No.177 2026年9月発行タイ宇宙産業に商機はあるか いま、民間企業が動くべき理由

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

「数字の裏にある実態を、どう見るか」 主体性を引き出す組織づくりの舞台裏

公開日 2026.09.10

タイで組織を動かすには、文化や価値観の違いを理解し、現地スタッフの声に耳を傾けることが欠かせない。ミズノAPACタイランドで経営企画・管理部門を率いる田原大輔氏は、企業資源計画(ERP)刷新を好機として、タイ人が自ら考え行動できる組織づくりを推進。さらなる事業成長を目指す同氏に、タイで実践するマネジメントの挑戦について話を聞いた。

田原 大輔 氏
Mizuno APAC (Thailand) Ltd.
Finance & Administration Senior Manager

新卒でミズノに入社し、営業部門でファッションアパレル商品の販路開拓に従事。百貨店市場の縮小を背景に、ECやセレクトショップなど新たな販売チャネルの開拓を経験。日本国内の営業統括・経営企画を経て、2022年末にタイ赴任。経営企画・管理部門の責任者として経営基盤を支える幅広い業務を統括する。

現場を知ることから始まったタイでのマネジメント

Q. ミズノAPACタイランドとご自身のキャリアについて教えてください

1906年創業のミズノは、2014年にシンガポール地域本社を設立し、東南アジア事業を本格化しました。2018年にはタイに現地法人「ミズノAPACタイランド」を設立し、代理店中心の販売形態から直接販売へとビジネスモデルを転換。現在はASEAN市場で現地密着型の事業展開を進めています。

私は新卒でミズノに入社し、営業部門からキャリアをスタートしました。当初、主に担当していたのはアパレル商品です。百貨店市場が縮小し、電子商取引(EC)やセレクトショップなど新たな販路を開拓しなければ成長が難しい変革の時代でした。

その後、国内でのいくつかの異動を経て、2022年末にタイ赴任。現在は経営企画・管理部門の責任者として、ファイナンスやアカウンティング、人事・総務、物流まで幅広い業務を担当しています。

Q. 実際にタイへ来て、日本との違いをどのように感じましたか

一番驚いたのは、想像以上に上下関係を重視する文化だったことです。日本とタイは、相手への厚い配慮や、その場の空気を読むハイコンテクストな文化など、類似する点は多くあります。ただし、役職による距離感はタイの方がずっと明確だと感じました。

赴任当初は、なかなかタイ人から意見が出ないことに戸惑いました。最初は遠慮や恥ずかしさからだと思っていましたが、徐々に「上司への配慮も大きいのだ」と気が付きました。タイ人同士でも、役職が近い人とは活発に意見を交わしているにもかかわらず、立場が離れると本音を言わない場面が見られたからです。

私の立場上、マネジメント層とだけ話をしていれば、仕事を円滑に進めることはできるかもしれません。しかし、それだけでは現場が抱えている課題や不満を把握することは難しい。そこで、仕事の場だけでなく、プライベートも含めて現場のスタッフと話す時間を意図的に増やしました。時間はかかりましたが、その積み重ねを経て、今では役職を越えて率直な意見を聞けるようになったと感じます。

数字だけでは見えない現場を動かす仕組みづくり

Q. 経営判断をする上で、何を大切にしていますか

経営数値は会社の状況を把握する上で重要ですが、数字だけでは、その背景まではわかりません。マネジメント層から見える数字と、現場で働くスタッフが見ている実態に違いがある場合もあります。

例えば、半年先を見据えて商品の発注量を決める際、経営側は売上目標を達成するために一定の数量を確保したいと考えます。一方で、実際の店舗の状況などを確認すると、発注量が多すぎる可能性があります。そのため、管理職による計画だけで判断せず、現場のスタッフにも直接話を聞き、実態を踏まえた上で最終判断を行うようにしています。

判断基準についても、在庫回転率など、確認すべき重要な指標を絞ったうえで、「この数字が一定の範囲に収まっていれば認める」という考え方を共有しています。すべてを細かく管理するのではなく、譲れないポイントだけを示し、それ以外は自由に考えてもらう方が、タイ人スタッフの気質には合っていると感じています。

Q. 日本での経験は、タイでどのように生かされていますか

日本ではシステムを入れ替えるだけでなく、業務プロセスそのものを見直しながら進める重要な業務改革(BPR)プロジェクトを事業改革室という部門で経験しました。その考え方は、現在タイで進めているERP刷新でも生かされていると思っています。

一方で、当時の日本での役割と現時点でのタイでの私の役割は大きく異なります。日本では販売領域が中心でしたが、タイでは営業、マーケティング、経理、物流など会社全体の業務改革を横断的に推進しています。組織規模は小さいものの、担当領域はむしろ広がりました。

日本で学んだ「現場を巻き込みながら改革を進める」という姿勢も大切にしています。当社は約30人の組織なので、ほぼ全員がプロジェクトに関わります。要件定義の段階からタイ人スタッフにも参加してもらい、一人ひとりが業務改革を自分事として捉えられる組織づくりを目指しています。

タイ人が主体となる成長戦略

Q. 現在、タイ市場でどのような成長戦略を進めていますか

直営店の領域においては、従来は既存店舗の売上向上に重点を置いていましたが、さらなる事業成長を目指し、新たな出店を進める方向へと舵を切りました。そのため現在はその出店に力を入れており、2026年に入ってから6店舗から11店舗まで店舗数を増やしました。

実際に市場を知っているのはタイ人スタッフです。人口などの数値だけではなく、「この場所ならブランドが浸透する」といった現地をよく知るタイ人ならではの感覚を尊重し、候補地の選定やマーケティングはタイ人スタッフが主体となって進めています。

私の役割は、最終的に事業として成り立つかどうかを数字の面から判断すること。計画や収支を確認し、実現性を見極めた上で意思決定を行い、現場の知見と経営的な視点を組み合わせながら、共に店舗づくりを進めています。

Q. 今後、特に力を入れていきたい分野はありますか

一定の市場認知をしていただいているサッカーやゴルフに加え、バドミントンを新たな成長分野として育てていきたいと考えています。ミズノは、シューズの認知度は高まってきているものの、ラケットについてはまだ成長の余地があると考えており、まずは地域に根差したマーケティングを強化しています。バドミントンコート周辺で商品を手に取ってもらえる環境を整え、競技者との接点を増やしています。

ブランドをどう浸透させるかについても、現場をよく知るタイ人スタッフが中心となることを大切にしています。

Q. 今後の目標を教えてください

タイ人スタッフが自ら考え、判断し、成長し続けられる組織をつくることが目標です。駐在員はいずれその土地を離れる存在だからこそ、自分が成果を上げること以上に、現地のメンバーが中心となって会社を動かし続けられる仕組みや人材を残すことが大切だと考えています。タイ人スタッフの強みを生かしながら、一人ひとりが主体的に力を発揮できる組織を目指したいと思っています。

また、タイでの経験を通じて、「組織づくりに正解はない」ということも学びました。国や文化が違えば、人との向き合い方やコミュニケーションの取り方も異なります。だからこそ、それぞれの文化や価値観を理解し、現場の声に耳を傾けながら主体性を引き出すことが重要です。この考え方を今後も大切にし、どの国や組織でも、その環境に合った形で人と組織の成長を考え、そして支えていきたいと考えています。

筆者:三田村 蕗子

>> 連載「在タイ日本人駐在員の挑戦」の記事一覧

THAIBIZ編集部
白井恵里子

THAIBIZ No.177 2026年9月発行

THAIBIZ No.177 2026年9月発行タイ宇宙産業に商機はあるか いま、民間企業が動くべき理由

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP