機械や設備の先にある可能性を掴み、タイで切り拓く“コト売り”の新事業

THAIBIZ No.176 2026年8月発行

THAIBIZ No.176 2026年8月発行タイ企業が切り拓く、日本食の新時代

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機械や設備の先にある可能性を掴み、タイで切り拓く“コト売り”の新事業

公開日 2026.08.10

モノ売りから“コト売り”へ。機械商社の枠を超え、タイで新規ビジネスの創出に挑む、第一実業タイランドの中野竜介氏。医薬品トレーサビリティ、フードロス解消など、社会課題の解決を起点に、日タイ共創による新事業の構想を進めている。赴任時から掲げる「3本の矢」という目標と、異文化マネジメントへの取り組みとともに、全力で突き進む同氏の挑戦に迫る。

中野 竜介 氏
DAIICHI JITSUGYO (THAILAND) CO., LTD.
Regional Manager, ASEAN Healthcare Department

2012年に第一実業へ入社。ヘルスケア分野の営業を担当した後、ジョブローテーション制度でドイツに赴任。帰国後は大阪支社の海外営業部、富山出張所の勤務を経て2025年より第一実業タイランドに赴任。ASEAN全体のマネジャーを務める。

機械を売るだけではない独自のエンジニアリングが強み

Q. 第一実業タイランドの事業内容とご自身の経歴について教えてください

当社は1995年に設立され、機械の専門商社として、「産業機械」「エレクトロニクス」「プラント&エネルギー」「ヘルスケア」の4つの事業を展開しています。単に機械を売るだけでなく、生産ラインにおける独自のエンジニアリングを強みとし、製造の現場と機械メーカーをつなぎ、日タイのモノづくりをサポートしています。

約30年の歴史がありますが、私が所属するヘルスケア部門に専任者が常駐するようになったのは、4年ほど前からです。現在は私と、タイ人の営業1名、エンジニア1名の3名体制。タイの製薬会社や食品メーカーに対して設備販売の営業活動を行っています。

私自身は、入社後、東京本社に勤めた後、2年間ドイツへ赴任し、自動車関連業務を経験しました。その後、大阪支社で新設されたヘルスケア事業の海外営業部と富山出張所での勤務を経て、2025年3月にタイへ赴任しました。現在はリージョナルマネジャーとして、タイ市場を軸にしながらASEAN全体のヘルスケア事業を担い、周辺国の開拓・調査も行っています。

Q. 日本とタイの市場の違いについて

第一実業は商社でありながら、医薬品の外観検査機をつくる100%子会社の第一実業ビスウィルを大阪に持っています。日本は薬の傷や外観を気にするため、需要が高く、日本国内シェアは7割を誇る一方、品質基準が異なるタイでは需要がほとんどなく、導入実績も現時点では3台にとどまっています。だからこそ、タイのニーズに応えられる商材・提案を模索し続けることが欠かせません。

医薬品の製造は、例えば固形剤であれば、原料の計量・混合から始まり、造粒、打錠やカプセル充填、包装という工程で行われます。これらの工程で使用される機械を単体、もしくは製造ライン全体でエンジニアリングし、工場内の図面作成や動線設計まで、顧客の要望に合わせて柔軟に提案しています。こうした日々の業務に加え、赴任時にタイの市場を踏まえ、3つの目標を掲げました。

タイ駐在期間に成し遂げたい「3本の矢」という目標

Q. 3つの目標とはどのようなものか

赴任時に設定した「3本の矢」という目標の1本目が「安定した受注基盤をつくる」ことです。私が着任した当時はタイ、ベトナム、インドネシアとあちこちに手を広げている状態でしたが、まず拠点のあるタイに集中し、次にベトナム・ホーチミンに絞って開拓した結果、昨年1年間でホーチミンにおいては新規導入の成果を予想以上にあげることができました。今年は次のステップとして、ハノイ地区に加え、在マレーシア駐在員の協力も得て、インドネシアの開拓を進めています。

Q. 次の「2本目の矢」とは何か

2本目は「売れる商材をつくる」ことです。タイの製造現場では中国製、インド製、欧州製が多く使用されているため、日本製に限定した提案内容では現地企業に響かないという壁に直面しました。そこで弊社のグローバルネットワークを活用して各国の商材を調査し、幅広いラインナップを有することで、さまざまな要望に応えられる体制を整えました。

さらに安定した収益を目指して、トレーサビリティシステムにおける、医薬品1点1点に識別番号を与えるシリアライゼーションのための自社製品を開発中です。これは各国のトレーサビリティ規制に対応する需要の高まりを感じたのがきっかけとなり、開発に着手した製品です。ドイツ製の最先端のソフトウェアとタイ製のハードウェアを組み合わせることで、高機能ながら市場にマッチした価格競争力も備えており、今年6月にデザインが完了し、まもなく市場へのローンチを予定しています。

Q. 安定した受注基盤、商材に続く「3本目の矢」とは

最後の矢は「新規ビジネスをつくる」こと。これはコト売りへの転換を目指しています。私自身、従来よりフードロスや農業関係に興味があり、以前訪問したタイの食品加工工場では、1日に1トンもの可食野菜が廃棄されるという話を聞きました。

廃棄野菜を乾燥・粉末化する技術を持つ日本のベンチャー企業と手を組むことで、アップサイクルビジネスをタイでも展開できるのではないかと考えています。タイはシーズニングの輸出で世界6位の規模を持ちます。例えば、この廃棄野菜を粉末化し、シーズニングとマッチさせたら、サステナビリティに富んだ付加価値の高い商品を提案することができます。この他にもTHAIBIZ主催イベントで出会ったタイ企業の次世代スーパーフード「ウォルフィア」と日本の粉末加工化技術を組み合わせ、栄養価と利便性を兼ね備えた、幅広い世代に親しまれるスーパーフード商品の企画を進めています。このように、日タイ協業による新規ビジネス創出を目指しています。

「細かく指示を出すが、細かく管理はしない」を徹底

Q. タイ赴任後、マネジャーとして苦労したことは

日本には「察する文化」があり、「これ、お願いします」と伝えれば、相手は期待通りに仕事を進めてくれますが、タイではそれは通用しません。赴任直後、私の指示をタイ人スタッフが自分なりに解釈して進めた結果、予想とは違う成果が出てくることに何度か直面しました。それ以降は、ドイツ駐在中に顧客から言われた「自分の常識は相手の非常識」という言葉を肝に銘じ、指示を出す際は5W1Hをしっかりと伝え、「なぜこれを依頼するのか」という背景や理由についても説明するようにしています。

ただ、マイクロマネジメントはスタッフの反発を招くため、「指示は細かく、管理は細かくしすぎない」を徹底し、進捗は日頃の雑談でさりげなく確認しながら、ある程度任せるスタイルを保っています。失注した際も、原因を細かく分析する日本流のやり方より、会話のなかで「なぜうまくいかなかったか」の学びを促すようにしています。

Q. スタッフのモチベーション創出に心がけていることは

一緒に営業しているタイ人スタッフは私よりひと回り上の女性で、チャレンジ精神が旺盛かつ新しい取り組みにも前向きなかたです。そこで「新規ビジネス創出プロジェクト」にも参加してもらっており、モチベーション高く取り組んでくれています。

赴任前に、人前では叱責しないなどのタイの商習慣について調べてきましたが、異文化のコミュニケーションはやはり実践でこそ、学びが多いと感じています。タイ人スタッフの個々の個性に合わせて楽しく働ける環境を考え、チャンスを与えることが、いまの自分の役割だと考えています。

Q. 最後に今後の展望を教えてください

まずは「3本の矢」を3年で達成すると自分自身に課しています。現時点では残りの駐在期間は未定ですが、「3年で成果を出せなければ4年目を迎えても同じだろう」と自ら期限を決めることで、背水の陣の覚悟で臨み、自分を奮い立たせています。

当社には「人をつなぎ、技術をつなぎ、世界を豊かにする」というスローガンがあります。スピード感を持って実践、達成していく。タイ駐在期間中に、機械や設備提案の先にある、ビジネスの素晴らしさを売る“コト売り”への転換を実現したいと思います。

>> 連載「在タイ日本人駐在員の挑戦」の記事一覧

THAIBIZ編集部
杉浦亜希子

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