連載: 日タイ経済共創ビジョン
公開日 2024.08.26
現在、世界各国にある商工会議所は、中世から近世にかけて欧州の商工業者の間で結成された「ギルド」がルーツとされ、世界初の商工会議所は1599年にフランスのマルセイユで設立された。その後、商工会議所は欧州を中心に世界各国に広がり、タイでも1933年3月にタイ商工会議所(TCC)が設立された。そして、タイ政府は輸出入を活発化し、外国からの投資を促進することで、タイ産業の競争力を高めることを目的に、1954年にTCCの上部組織としてタイ貿易委員会(BOT)を設置。
BOTで在タイの外国商工会議所との協力促進の窓口となる外国商工会議所発展促進委員会の委員長を務めるカセームシット・パトムサック副会長(マーチャント・パートナー証券会長)にTCCの目的などの概要や主要な政策、タイ企業と日本企業の連携機会などについて話を聞いた。
(インタビューは5月21日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)
目次
カセームシット氏:TCCはタイ貿易委員会(Board of Trade:BOT)の傘下にあり、その主な役割は「民間企業に貢献する産業団体」だ。現在の会頭であるサナン・アンウボンクン氏が2期目を務めている。TCCは官と民の両方をつなぐことで、民間企業の事業活動を支援し、タイ経済の持続的な成長に貢献している。貿易・経済の課題解決では政府に協力している。2024年8月1日時点の会員数は個人会員も含め約15万3000だ。
TCCの主なビジョンは次の3つだ。
(1)Connect:国内外の民間企業と政府部門の利害関係者の連携を推進する。
われわれの目標は、中小企業を支援し、メンバーとして参加してもらうことで、今後3年間で会員数を20万に拡大していく。
(2)Competitive:タイの産業界の競争力を強化する。
われわれの目標はアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を推進し、外国と自由貿易協定(FTA)交渉を進めるために政府を支援することだ。タイ投資委員会(BOI)や東部経済回廊(EEC)事務局と連携して外国直接投資(FDI)を拡大する。日本や米国などの既存の投資家とのつながりを強化する一方で、中国、サウジアラビア、ベトナム、インドなどを戦略的に誘致するためには投資家説明会(The business roadshow)が主要な手段になる。
(3)Sustainable:将来世代のために持続可能な成長と豊富な機会を提供する。
われわれの目標は、タイ国内の経済社会の不均衡を是正するためにタイ高等教育・科学・研究・技術革新省とともに国家経済発展計画を活用し、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルを効果的に実行し、支援していく。
カセームシット氏:タイはその地理的条件が強みだ。CLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)と近接しており、南部はマレーシアと国境を接している。また、国内総生産(GDP)ではタイは、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国内の2位であり、人口は約7000万人だ。さまざまな産業分野でASEANのテスト市場になれるだろう。
特にタイの観光産業の発展余地は大きい。2010年以前は全GDPに占める観光産業の比率は約6~7%だったが、現在は約16~20%まで増加している。観光産業のサプライチェーンは長く、ホテルや食料品などの国内資源を利用するため、タイ経済にとって非常に重要な産業だ。
さらに、タイは医療サービスの水準が高い一方、そのコストは先進国に比べ相対的に低いため、「ヘルス&ウェルネス」産業は今後、高い成長を実現できる産業だと期待されている。ヘルス&ウェルネスの中でも「退職後ビジネス(Retirement Business)」が面白いと思う。例えば、自然が美しく、気候が良く、物価も安い東北部のブンカーン県はこの事業に適している。このビジネスで重要なのは在宅の高齢者のためのコミュニティー形成や、看護サービスを提供することだ。将来的には投資家がこのような事業にもっと目を向けるようになるだろう。
カセームシット氏:最近のビジネス環境は非常に変化が早い。事前に良い計画を立てても、それを100%実行することは難しいケースも多い。より良い方法が分かれば、変わる必要もあるだろう。例えば、電気自動車(EV)へのシフトが加速する中、日本企業が既存の事業モデルに固執し、すべての影響を見極めてから決断するという姿勢では、世界のトレンドに追いつくのが難しいかもしれない。また、日本が推進している水素の技術はとても良いものだが、開発には長い時間が掛かる一方で、多くの国のインフラが既にEVを中心に整備されつつある。
カセームシット氏:人間関係は多面的なものであり、会社と会社、国と国だけでなく、やはり「人と人」だと思う。タイ社会は人間関係を非常に重視しており、仲間になったら、ビジネスがより容易になる。例えば親しい関係とのパートナーであれば、電話で話して、すぐに重要な決断を下すことができ、より早いプロセスが可能になる。一方、国としてもタイと日本は長年、緊密な関係にあり、タイ人は日本のことが好きだ。お互いがビジネスアイデアを交換すれば、新たな提携のチャンスも生まれるだろう。
例えばタイの食品産業は発展の余地は大きいが、パッケージデザインの工夫やイノベーションの利用などが不足しており、これらの分野で日タイは共同事業ができると思う。また、BCG経済やタイ産ハーブの高付加価値エキスなどでも協力関係を拡大できるだろう。しかし、タイ人は仕事では、作業が非効率になっている場合も多く、改善する必要がある。
カセームシット氏:今年11月には、経済同友会が主導する日本とASEAN諸国との経済協力を強化する会議である「日本・ASEAN経営者会議(ASEAN-Japan Business Meeting:AJBM)」の第50回がタイで開催される。今年は泰日協会の会長で、TCCの名誉会頭であるカリン・サラシン氏が議長を務める。貿易・投資面での協力の強化のほかにも、技術移転や人材育成など、日本とASEAN諸国との協力関係をさらに強化するための行動計画の提案を準備している。
THAIBIZ編集部
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