THAIBIZ No.149 2024年5月発行総合商社の成長戦略
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公開日 2024.05.10
目次
タイ国内で223店舗(2024年4月時点)を展開する独立系タイヤ小売チェーン「B-Quik社」。交換タイヤ販売においては国内トップシェアを持ち、2006年の丸紅参画以来、年間約10店のペースで店舗網を拡大し、成長を続けている。
丸紅の「統合報告書2023」によると、丸紅子会社のB-Quik社は、2023年3月時点の持分利益は38億円で、前年の27億円から11億円増の好業績を収めている。今年度も9店舗増加(新規12店舗、統廃合3店舗含む)を予定している。2014年に進出したカンボジアでは現在2店舗を営業している。2020年に進出したインドネシアでは、現在26店舗を展開中で、今年度は11店舗を開店する予定だ。
丸紅がB-Quik社を買収したのは2006年にまで遡る。買収に至った経緯について、日高社長は、「当社は伝統事業として、メーカーの販売代理店としてトレードを行ってきたが、当時、日系のタイヤメーカーの販売権が打ち切りになったことがきっかけだ」と振り返る。販売代理店業は、「製品を販売したうちの数パーセントが入る口銭商売で、メーカーの都合により流通や販売が突然打ち切りになる場合がある」という。
次の成長戦略を考えた時に「丸紅がバイヤー / リテイラーになるしかない」という一つの結論に至った。「代理店は、メーカーに主導権があり、そのメーカーの製品しか売ることはできない。バイヤー / リテイラーになれば、一つのメーカーに縛られることなく、複数のメーカーの製品を取引することができる」とした上で、「商社は時代の変化に応じてビジネスモデルを変革していかないと生き残れない」と強調した。
丸紅ではタイヤ小売事業をメキシコでも展開しており、その他の国でも現在展開を検討しているという。ASEANに関しては、タイミングよくB-Quik社という優良企業と巡り合うことができ、タイをハブとして今後も周辺国への進出を推進していく計画があるそうだ。
2020年にB-Quik社が進出したインドネシアは、2億7,000万人を超える世界第4位の人口を抱える国で、今後中間所得者層の成長が見込まれている大きな市場だ。B-Quik社は、自動車アフターサービスの次なる市場としてインドネシアでも事業拡大を目指している。
年間約10店舗ペースで事業を拡大してきたB-Quik社。成功の秘訣は何なのだろうか。日高社長は、「CEOであるヘンク氏のポリシーが大きく関係している」と分析する。
B-Quik社は、同業他社と比較した時に、他社は自動車のアクセサリー販売や板金修理などを提供しているのに対し、B-Quik社はそれらを一切提供していない。ヘンク氏のポリシーとして、B-Quik社が提供するのはタイヤとオイル、スペアパーツの交換・メンテナンスに特化している。
なぜか。それは、顧客の回転率を上げるためだ。
店舗には6つ前後の作業ベイがあり、円滑に回転させなければならないが、板金修理をすると半日がかりになり、全く収益に貢献しない。また、アクセサリー販売も、顧客はそれを買うために店舗に長居することもある。さらに在庫を抱えるリスクもあるからだ。
当初は、両者で意見の相違もあったが、「本業でないことはあえてやる必要がない」というヘンク氏のポリシーを尊重し、現在は丸紅全体でサポートをしているそうだ。
合理的な経営を貫くヘンク氏だが、一方で「顧客サービスには特に力を入れている」と日高社長は続ける。
ヘンク氏は、B-Quik社の事業を説明する際に「われわれは歯医者のようなもの」と例えるそうだ。「歯医者に喜んで行く人はいないように、タイヤ交換も誰もしたいとは思わない。嬉しい出費ではないからだ。だからこそ、われわれは自動車のプロとして、品質の高いサービスを提供する」といい、社員への顧客サービスのトレーニングも徹底的に行っている。カンボジアやインドネシアでも徹底しており、日高社長は「これがB-Quik社が勝っている成功の秘訣だ」と強調する。
B-Quik社の店舗は商業施設に併設しているのをよく見るが、日高社長は、「出店する際のロケーション選びも肝の一つだ」とし、「このノウハウは丸紅にはない。完全にタイのマーケティングチームに頼っている」という。
B-Quik社は丸紅の持株比率90%の子会社だが、「経営陣は、ヘンク・キックスCEOとブサララット・アッサラタナクンCOOが買収前から指揮を執っている。ただし、丸紅のガバナンス体制に基づいて管理されており、丸紅から日本人3名が取締役として加わっている。主に財務や戦略面で協力している」という。例えば、店舗拡大には資金が必要となるが、設備投資をする際など資金調達においては、丸紅の方が金利は圧倒的に有利になる。また、インドネシアに進出した際も、地政学的なノウハウの提供などは丸紅が主導して行ったとし、現在も丸紅からインドネシアに出向者を置いて事業を全面的にサポートしている。
丸紅グループに入ってよかったと実感するのは、長期的に安定した計画が立てられるようになったことだ。2006年に丸紅の傘下に入り、18年経った今でも継続的な事業成長を遂げることができている。長く一緒に働く中で、われわれはお互いの強みと弱みを理解した上で尊重し合える関係にある。
また、2020年にインドネシアのタイヤ小売事業会社PT. Trans Oto Internasional社を買収した際も、企業買収の手続きはもちろん、事業の立ち上げから運営、法的整備などさまざまな面で丸紅の全面バックアップにより順調なスタートを切ることができた。これは当社単独では成し得なかったことで、非常に感謝している。
インドネシアでは、現在約300人の従業員を抱えており、当社がこれまでタイで長年培ってきたカーメンテナンスや顧客サービスのノウハウを現地の従業員に移転するとともに丸紅のITや財務などの知見を集結して、今後も事業の拡大に取り組んでいく予定だ。
パートナーシップにおいて両者の利益に貢献し、事業を発展させていくことは企業としてもちろん重要だが、常に利益だけを追い求めるのではなく、お互いに支え合い、信頼できる関係を築くことの大切さを感じている。これは、「人材を何よりも優先する」という私の経営信念とも通じるところだ。丸紅と長年働く中で、お互いにサポートし合える関係だからこそ、結果的に事業を成長させていくことにもつながっているのだと思う。
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THAIBIZ編集部
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