カテゴリー: 組織・人事
公開日 2024.07.17 Sponsered
「人材が集まらない」「採用できても定着しない」「優秀な人から辞めていく」近年、タイの人材市場で人気が低迷していると言われる日本企業には、このような悩みが尽きない。一方でグローバル競争は激化しており、人事経験があまりない駐在員にも海外拠点の人事改革の着手が求められるケースが多い。では、効果的な打ち手はあるのか。「本社の経営戦略と海外拠点の人材要件のミスマッチが根本的な問題だ」と指摘するのは、本社との繋がりを強みに持つ、株式会社マネジメントサービスセンター(以下、MSC)の取締役 福田俊夫氏だ。在タイ日本企業が抱える人事課題とその背景について、同氏に話を聞いた。
目次
リーダーシップ開発のプロフェッショナルである福田氏は、日本企業が直面している課題について、「日本では2023年に、人的資本の情報開示が義務化された。投資家が経営戦略の実現可能性を判断するために、社員の能力を可視化し開示する必要がある。経営戦略に適った人選がなされているかを示すために、特に役員の選定における外部の客観的視点が重要視される一方で、それがまだ実現できていない企業が多い」と解説する。
「日本の人口減少も大きな課題となっている」と同氏は続ける。総務省統計局によれば2020年から2030年にかけて、日本の人口は7.7%減少すると見込まれており、さらに、この10年間で活躍人材と言われる35~44歳の人口は23%以上も減少するとの予測がある。福田氏は「この年齢層の全員がマネジャーにならないと組織が成り立たない程、切迫した状況だ」と警笛を鳴らす。さらに、人口の減少に伴い国内マーケットが縮小傾向にあることで、海外展開に踏み切る企業が増加しており、海外拠点での売上が国内売上を上回るケースも珍しくないという。同氏は、「そうすると必然的に、本社だけでなく海外拠点の社員についても人的資本の情報開示が要求されることになる。売上の多くを生み出している海外拠点に、本社が掲げる経営戦略を実現できる人材が配置されているのか。この点に投資家が関心を持つのは当然の流れだと言える」と、人材能力の可視化はもはや本社だけの問題ではないことを強調する。
福田氏は「特にタイなど東南アジアに拠点を持つお客様企業の話を聞くと、優秀な人材の採用難と人材流出を課題に感じている方が多い」とした上で「一方で、ますます重要度が高まっている海外拠点の生産性をいかに上げていくかが求められている」と話す。
では、タイ拠点で人材が獲得できない理由は何なのだろうか。タイ国内の就職先として日本企業の人気度が低迷しているとの調査結果もあるが、福田氏によれば、その背景には主に三つの問題点がある。一つ目は、世界的なインフレ率の上昇に昇給率が追い付いていないことだ。「日本企業に入社しても欧米系の企業並みのサラリーは期待できない」と思っているタイの人材が多いというのが同氏の見解だ。二つ目は、従来型のマネジメントスタイルが残ってしまっていることだ。特に優秀な若手タイ人は、日本人の従来型のマネジメントスタイルにストレスを感じる傾向が高いという。三つ目は、明確な昇格基準の欠如だ。福田氏は「マネジャーや部長職に昇格するためのコンピテンシーが明確ではないため、社員が具体的にどのような能力を開発すればより早く昇格できるのか分からないまま仕事をしていることが最大の問題だ」と指摘する。明確な昇格基準がないことで、新しく入社した若手が成果を出しても昇格ができない状況に陥っている。「優秀な人から辞めていく」現象の一因は、ここにある。
理想的な組織のローカル化について同氏は、「基準が不明確なままローカル社員を上級管理職にするのではなく、まずは本社の考え方や制度を理解させ、それに沿った動きができるようになるまで数年をかけて育成するアプローチが好ましい」とした上で、「しかし本社との一体感を持つことは想像以上に難しい」と、一筋縄ではいかない取り組みであることも明かした。
では、本社との一体感を阻んでいるものは何か。福田氏は「本社と海外拠点とで、経営戦略の共通項が見出せていないケースが多い。特に、戦略を実現するためにはどのような能力を持っている人材が必要なのか、人材のプロフィールなど共通言語を持って擦り合わせられていないことが問題だ」と指摘する。よくある事例として、本社が新たに打ち出した経営戦略と、海外拠点の人事担当者が作成した人材要件が全く嚙み合っていないケースが挙げられる。さらに言えば、本社の経営戦略や人材戦略が変更されても、現地では見直しされていない人材要件を使用している場合や、そもそも人材要件すら設定していない海外拠点も珍しくないそうだ。
日本企業の人気低迷の理由の一つでもある「明確な昇格基準の欠如」が、優秀な人材の獲得難と流失を招く。その克服には本社との一体感が欠かせないが、ここにも「人材像の共通言語の欠如」という課題があるという。では、今日本企業がすべきことは何なのか。後編では引き続き福田氏が、任期付きの駐在員でも実践可能な具体的アプローチを紹介する。
▼人事部門が抱える課題については、こちらのコラムでも詳しく解説しています。
「マネジメントの効率化とスキルの普及」をミッションに掲げ、1966年に日本で設立。経営戦略に基づいたリーダーシップ開発を専門とし、法人向けの人材アセスメントとスキルトレーニングの提供を通じ顧客企業のリーダー発掘・育成を支援している。1973年に米国のDDI社(Development Dimensions International)とパートナーシップを結び、米国の人材アセスメント手法を初めて国内に取り入れ展開させる。約50年間にわたり世界90ヵ国以上に、様々な人材開発プログラムを多言語展開。日本での取引実績は年間700社に上り、アセスメントは延べ約80万人、リーダーシップ・トレーニングは延べ約150万人に提供している。
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THAIBIZ編集部
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