THAIBIZ No.153 2024年9月発行ヒットメーカーが語る!タイの外食産業必勝法
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カテゴリー: 自動車・製造業
公開日 2024.09.10
タイ国家EV委員会は7月26日、ハイブリッド車(HEV)に対する物品税の一時的な引き下げを承認・発表した。タイでは、「Thailand EV 3.0」により電気自動車(EV)への補助金を提供するなど、EV促進一辺倒の政策をこれまで展開し、EVで優位性をもつ中国勢がもっぱらその恩恵を受けてきた。HEVに対する優遇措置を発表したのは、タイ政府としてもHEVで優位性をもつ日系メーカーに対して、ある程度配慮することにより日中のバランスを図ろうという思惑がある。
7月26日に発表されたHEVに対する恩典の概要は図表1に示す。恩典は2つのポイントがあり、①2028〜2032年にHEVに対する物品税が6%から2年毎に2%上がる計画であったが、新恩典により6%に据え置きになったこと、②その恩典を得るために、2024〜2027年までに30億バーツを投資し、バッテリーの組立、HEV関連部品の国産化や先進運転手支援システム(ADAS)の搭載が義務づけられる。
既に実施されているThailand EV 3.0またはThailand EV 3.5の恩典制度との違いは、EVに対しては物品税の引き下げ措置および補助金の支給(10〜15万バーツ)があるのに対して、HEVは物品税の優遇制税のみ適用されることである。なお、注意すべき点として、現行のHEVの物品税率の据え置き措置であることから、直接的にはHEVのコストの引き下げにはつながらない。
日系としては、この恩典を利用してEVで押されている中国勢に対して、以下の3点で巻き返しを図ることが予想される。一つ目は、日系OEMはHEVに対する優遇税制が2032年まで維持されることにより、将来に対して安心して投資し、HEVのモデルラインナップをより拡充できる。
二つ目は、HEV関連部品の部品メーカーの進出・投資を促して、現地調達を進めることにより、コスト削減を図ることができる。
三つ目は、生産拡大と現地調達拡大により、タイのHEVの生産拠点化を図ることが可能となる。EVは中国から完成車を輸入しており、現地生産化されるとしても、部品の大半は中国から輸入することになり、BEVの拠点化を図りにくい。その一方で、HEVでは、日系はエンジン部品生産の現地化をこれまで進めており、HEV関連の製品や部品の輸出につながることが期待される。
タイ政府としても、この優遇税制により、中国勢に比べて最近目立った投資が少ない日系メーカーからの投資を惹きつけることができる。タイ政府の見込みでは、この恩典により500億バーツ(約2,200億円)の投資を見込んでいる。
次に、現地調達規制があることから、EVとも共通化できるモーターやインバーターなどの電動関連部品への投資を引き込んで、EVサプライチェーンの発展につながる。また最近、輸出が伸びているインドネシア等近隣国との生産拠点化の競争が激化しており、在タイ企業のHEVの拠点化を後押しすることで、近隣国に対して一歩リードすることができる。
世界的にみると、米国をはじめとして、EVブームが一息ついて、HEVの販売拡大が注目されている。タイでも登録ベースでみれば、2024年2月以降にEVの補助金が15万バーツから10万バーツに減額され、EVは昨年の7,000〜8,000台/月のペースから5,000〜6,000台/月に減速する一方で、HEVの販売は1万台以上に伸びている。
HEVの回復の要因は、昨年以降、トヨタのYaris Cross、三菱のXpander等日系主要メーカーが70〜80万バーツの廉価なHEVモデルを投入したことが大きい。その一方で、中国勢のEVの主要モデルは激しい価格競争により年初から20〜30万バーツ以上引き下げられており、タイのユーザーはさらなる値下げを懸念して、EVの買い控えにつながっていることがEV減速の要因の一つとして挙げられる。
さらに、バッテリー等のEVの修理コストの高さや、充電環境の問題など、EVのマイナス面がより一般的に知られるようになり、使い勝手が良く、性能・品質で信頼性の高い日系のHEVの見直しにつながっている。
日系としては、中国勢のEVが減速し、市場が混乱している合間に廉価なHEVモデルを多数投入し、攻勢を強めたいところだ。HEVでは、日系はトヨタのHEVシステムTHS IIに代表されるような燃焼効率の高いエンジンにより、最適な駆動方式(EVないしモーター)で走行する高度なHEV機構を駆使することで、燃費面で優位性を維持すると見込まれる。一方で中国勢は、HEVのエンジンの排気量は1,500ccに限られているなど燃費面で追いつくことは厳しい。
xEVへの対応で最も注目される中国勢は、BYDの動向である(図表2)。同社は、BEVは中間価格帯のATTO 3から投入し、より高価格帯のSeal、低価格帯のSeagullを投入。次の布石として、プラグインハイブリッド車(PHEV)に照準を当て、8月8日に中間価格帯のSUVのSealion 6を投入した。
BYDのPHEVの強みは、EVとPHEVを合わせた300万台以上の生産台数に達した新エネルギー車(NEV)の共通プラットフォームの活用により、日系のHEVと競合できる価格帯で投入できる点だ。BYDのPHEVは、約94万バーツで販売し、トヨタのCorolla CrossやホンダのHR-Vのe:HEVと競合する。BYDのような中国勢大手は、HEVを投入しなくてもPHEVで十分に日系と対抗できると読んでいるようだ。
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NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal
山本 肇 氏
シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。
野村総合研究所タイ
ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)
《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
TEL: 02-611-2951
Email:[email protected]
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Wattana, Bangkok 10110
Website : https://www.nri.com/
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