公開日 2023.06.20
TJRIは5月18日、タイ企業と日本企業の新たなビジネス創出のきっかけづくりを目指す「TJRIビジネスミッション」として国営タイ石油会社(PTT)本社を訪問して日本企業に最新の事業内容を紹介するイベントを開催した。今回のミッションでPTTは、今後成長の可能性が高い新規事業として、EV(電気自動車)エコシステム、ライフサイエンス(生命科学)、AI(人工知能)・ロボティクスの3分野についてプレゼンテーションを行い、パートナー募集の内容を説明。その後、参加した自動車、石油化学、各種素材、消費財、医薬品などの多様な業種の18社の日本企業の担当者と名刺交換するなどのネットワーキングも行われた。
PTTのプレゼンテーションの冒頭では、シャーン執行副社長が登壇。「私はPTT入社後の26年間、タイと日本のパートナーとの協力関係を常に見てきた」と強調。その上で、「PTTは世界の変化に適応していくため、『Powering life with future energy and beyond』とのビションに基づき、現在の事業分野のほか、電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、EVバッテリー、ライフサイエンス、デジタル化、AI&R(人工知能とロボティクス) など、新規事業を強化していく。本日、PTTは新たなビジネスチャンスの発見につながるような情報交換を行い、今後も日本企業との協業を続けていきたい」との意向を表明した。
次に、新規事業開発担当本部長付のパッタリン本部長補佐がPTTの新規事業の概要について説明した。「PTTは従来、タイの石油会社という位置づけだったが、現在は未来のエネルギーを推進するとともに、エネルギー以外の新規事業を発展させていく方針だ。2030年までに新規事業における利益を全利益の30%以上にするとの目標を設定した。新規事業は子会社やパートナー企業と協力して行っていく。これらのビジネスは、潜在成長性は高く、われわれはエネルギー安全保障の確保を目指すと同時に新規事業を展開していく」とアピールした。
続いて、各新規事業分野の担当者による具体的な事業紹介のセッションに移った。まず、「EV Ecosystem Partnership for Future Mobility」部門の新規事業を統括する子会社アルンプラスのティーラユット次長は「現在、タイのEV市場は政府の支援により成長し、東南アジアのEV市場の60%を占めている。PTTグループは、EVエコシステムの中心になる会社としてアルンプラスを設立し、パートナーをうまく巻き込んでEVエコシステムを形成していく方針だ。PTTグループは川上から川下まですべてのEVエコシステムにおいてビジネスを展開しており、これをさらに発展させるために、モーター、トラクションコントロールなどのEV部品のパートナーを探している」と述べた。
EVバリューチェーンのパートナーを求めている具体的な事業分野、製品は以下の通り。
(1)「EVme」:EVレンタルサービスプラットフォーム。現在、当社は650台以上のEV車を保有する業界のリーダーだ。消費者は今後、車を資産と考えない傾向が強まると予測。
(2)EV生産:アルンプラスが台湾のフォックスコンとの合弁でEVを生産する「ホライゾンプラス社」は2030年までに15万台のEV生産を目指す。
(3)EVバス:生産から運用・メンテナンスまで、すべてを自社で行うことが目標。
(4)EV充電装置:「On-Ion」という名前で自社生産しており、EVバスへのサービス提供をはじめ、住宅、コンドミニアム、ショッピングセンターなどさまざまな場所への設置サービスを目指す。
(5)EVメンテナンスサービス:PTTのガソリンスタンドで展開。
ティーラユット氏は「2023年から展開していく新規事業でパートナーを探している。もし関心がある日本企業があれば、ぜひ協業して新たなビジネスを展開していきたい」と呼びかけた。
次にライフサイエンス(生命科学)事業の子会社「イノビック(アジア)」を担当するジッダパー次長は「イノビックはASEAN(東南アジア諸国連合)のライフサイエンスリーディング会社になることを目標に2020年に設立された。主に①薬品②医療技術・機器 ③栄養食品-の三つの分野に重点を置いている。タイの医療産業は、①医療機器と医薬品で輸入依存状態が続いている②知識と製品開発のギャップが大きい③将来の高齢化社会を支えるイノベーションが育っていない-などの課題を抱えている。人々の生活を向上させたいというのがイノビックのビジョンだ」と強調した。
同氏は事業戦略について、「われわれは、①自社運営②政府機関や民間企業との共同研究開発③パートナーとの共同投資-という3つの事業運営モデルを持っている。すべての事業を自社だけで行うのではなく、パートナーとともに行う。昨年は医療用手袋、マスク、血圧計、プロバイオティクス、各種サプリメントなど多くの製品を発売した。今後も事業を共同で推進していくパートナーを歓迎する」とアピールした。
さらに現在、以下のような重要なプロジェクトを進めていると説明した。
(1)ロータスファマーへの投資 :本社は台湾にあるジェネリック医薬品会社で、多くの医薬品を生産し、米国など世界の多くの地域に販売。
(2)医療技術事業:医療機器・用具などの製造や不織布を使用した製品などの販売。
(3)各種栄養食品への投資:未来の食品開発、植物由来食品の製造、ニュートラシューティカルズ(nutraceuticals)、医療栄養(medical nutrition)、パーソナライズドニュートリション(栄養のパーソナル化)などに投資。
さらに、PTT本社の新規事業開発担当本部長付のトートラクン部長が、AI&ロボティクス分野(AI&R)の新規事業について報告した。同部長は「メカV(Mekha V)」という名称のAI&R・デジタライゼーション子会社について「AI&Rは世界的に成長する傾向にある。この分野はタイ経済やPTTの新規事業にとってもチャンスになると考えており、パートナーを歓迎する。当社のビションはAI&Rで未来のビジネスを革新することだ」と訴えた。
具体的に展開していく事業として以下の5つを挙げた。
(1)パワーテック:電力や再生可能エネルギーの使用状況をモニターし、エネルギー消費を削減する技術などのスマートエネルギーソリューション。
(2)モビリティーテック:テクノロジーを利用して自動車の効率を高める。例えば、センサーで得た情報を分析し、ビジネス創造に活用する。
(3)ヘルステック:プラットフォームの活用により、人々の健康に貢献することを目指す。治療よりも予防に重点を置き、遠隔医療や健康食品のサブスクリプション事業などの健康ビジネスを強化する。
(4)インダストリーテック:AIはタイが「インダストリー4.0」に向かうための原動力となると確信しており、機械学習(Machine learning)、デジタルプラットフォームなどを開発している。顧客グループは製造業を中心とし、他の業界にも展開していく。
(5)ソフトパワーテック:ゲームと「eスポーツ」の推進。現在、映画よりも大きなビジネスになっているゲーム産業にチャンスがある。また、eスポーツのイベント開催はAI&Rビジネスによるクリエイティブ産業の創出ともなり、タイのソフトパワーを創出する入口になる。
TJRI編集部
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