連載: 日系スタートアップ
公開日 2023.01.31
昨年11月16日に開催されたスタートアップイベント「ロック・タイランド#4」で、ピッチイベントに登壇した日本のスタートアップ企業紹介の第7回は、小型ドローンと3次元化技術を組み合わせた屋内狭小空間の点検ソリューションを開発する「Liberaware(リベラウェア)」だ。同社の宇梶慧副社長兼スマート保安事業部ゼネラルマネージャーのプレゼンテーションを紹介する。
私は最近、健康診断で「肺に影がある」と言われ、あわてて病院にいったら肺炎の初期症状になっていたことが分かりました。早く分かったので大事に至りませんでしたが、「気づかずに重症化していたら」と思うとゾッとします。
われわれが取り組んでいる、インフラや産業設備のメンテナンスも人間でいえば健康診断と同じようなものです。アジアや欧米では大規模インフラ・産業設備の老朽化が著しく、既にいろいろなところにガタがきています。早いタイミングで適切に点検し処置すれば問題ないのですが、整備コストの上昇やアナログの非効率な点検手法により十分なメンテナンスができているとは言えません。
例えば日本では、数年前に道を歩いていた若い女性が、整備不良で倒れてきた大型看板に挟まれ、半身不随になるという悲しい事故もありました。こうしたことを防止するための点検作業についても、特に屋内狭小・閉所空間での作業は汚くて危険なことも多く、その過程で多くの方が大ケガをしたり、命を落とされたりしています。
この状況を放置していていいのか。自分の子供たちに安全な世界を引き継ぐため、どうすればより安全かつ適切、安価にインフラ・産業設備のメンテンナンスができるのか。そう考え、われわれは小型ドローンとデジタル3次元化技術を組み合わせた屋内点検ソリューションを開発しました。ヒトの代わりにドローンが危険な場所を点検し、そのデータをデジタル化し、保存・解析することで、これまでよりも安全・安価で高品質な点検体験をユーザーに届けることができるようになります。
この社会アジェンダは日本のみならず世界全体に共通する課題であり、このソリューションの最大獲得市場規模は世界全体で約1兆7000億ドルと天文学的なポテンシャルが見込まれています。その内われわれが現実的に獲得できると考えている市場規模の最大値は約420億ドルと想定しています。
われわれが提供しているソリューションは具体的に2つのプロダクトから構成されています。1つが自社開発の小型産業用ドローン「IBIS」を用いた屋内狭小空間の点検サービスで、2つ目が撮影されたデータの3次元デジタル化と分析を活用した、「TRANCITY」プラットフォームの提供です。
特にIBISは産業用ドローンとしては世界最小クラスであり、本来、人が入れないような天井裏や床下、ボイラー等の狭小空間に入り込み、漏水や腐食、ひび割れ等これまで確認できなかった不具合や、その予兆を確認・検知することができます。
Trancityは、IBISやそれ以外のデバイスが取得した映像・計測データをソフトウェア上に取り込み、「点群化」やひび割れ自動検知等の画像処理に加え、「3D CAD」化や「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」をベースにデジタルツインを構築し、最も経済的かつ簡単な施工管理を実現します。
ビジネスモデルについては主に3つのサービスモデルで構成されています。現状は当社パイロットが顧客施設で実際にドローン点検を行うプランが主な収益源ですが、今後当社サービスの市場プレゼンスが拡大し、またドローン点検自体の認知も上がっていくに伴い、将来的にはドローンをユーザーに貸し出すサブスクリプション型モデルであるレンタルプランとTrancityライセンス料が主な収益源になっていくことが期待されています。
次にビジネスの現状ですが、ローンチから3年が経過し、既に350件以上の点検実績を積んできており、毎年右肩上がりの成長を続けています。この間に①日本製鉄の点検用ドローンとして公式採用 ②JR東日本と合同でジョイントベンチャーを設立-という2つの大きなマイルストーンを達成しました。これは、当社の技術やサービスの価値が日本を代表するグローバル企業にも認められたということだと自信を持っており、それは必ずタイの企業各社のお役に立ち、喜んで頂けるものと確信しています。
既に説明した内容ではありますが、われわれのバリュープロポジションは明確です。屋内狭小空間の点検に特化した小型産業用ドローンの開発運用は他社がまねできないものであり、また単に狭小空間を「見る」だけでなく、撮影したデータをデジタル化することでこれまで分からなかったインサイトを提供します。さらに100%自社開発であることから顧客側の細かなニーズや要求に基づく開発・カスタマイゼーションにもしっかり対応でき、国や地域、業種によって異なる顧客ニーズを、圧倒的に満足させます。
競争環境について補足説明すると、まず世の中に存在する大半のドローンは現状、屋外用途の小・中型であり、そもそも屋内用途の産業ドローンに取り組んでいる会社は世界的にも数社しかありません。その中でわれわれの直接のコンペティターはスイスのフライアビリティ社ですが、フライアビリティのドローンは当社ドローンに比べて相当大型であることから、市場では競合する部分もある一方、棲み分けもできつつあります。
最期に、当社の財政面及び事業成長面について簡単に触れておきます。われわれは現在Series Cに該当し、さらなる事業成長に向けた資金調達を進めています。これまで約1000万ドルを調達してきており、今回のラウンドでも1000万ドル調達を目指しています。また、並行して海外事業拡大を支援していただける現地パートナー企業、例えば商社やディストリビューターや、実際にサービスを使って頂ける顧客を探しています。われわれのドローンが、バンコクの高架鉄道BTSの駅や産業プラント、繊維工場等さまざまなタイの産業設備の点検に活用され、皆様の安全を守るお手伝いをする日がくるのが待ち遠しいです。
TJRI編集部
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