カテゴリー: 対談・インタビュー, カーボンニュートラル
公開日 2024.08.19
太陽光発電所設置・運営で日本最大手のウエストホールディングスのタイ現地法人WEST International Thailand(以下、ウエストタイ)は、2023年11月にバンコクオフィス内に太陽光発電設備の稼働状況を監視する監視センターを開設するなど顧客向けのアフターサービスを強化、タイでの日系太陽光発電事業会社のトップの座を固めつつある。2016年8月にウエストタイを立ち上げ、以来、社長を務める天野友寛氏にインタビューした。(取材・7月30日、聞き手・増田篤)
天野氏:1981年に広島市で現代表取締役会長である吉川隆が「西日本鐘商」という名称の住宅建材商社として創業した。1985年には瓦事業部を設立して、その後屋根瓦工事実績で日本一となり、2002年には広島城天守閣屋根改修工事を竣工した。
2005年にヤマダ電機と業務提携し、ヤマダ電機が販売する太陽光パネルを一般家庭の屋根に取り付ける工事を請け負うようになった。そして、2011年に中規模太陽光発電、2012年にメガソーラーの事業に参入した。2012年7月に再生可能エネルギーに関する固定価格買取制度(FIT)が始まったことで、一般家庭向けも含めて太陽光パネルの普及が進んだ。ウエストグループの売上高でも太陽光ビジネスのウェートが高まっていく中、徐々に産業向けにシフトしていった。
天野氏:創業当時の建設業界ではアフターサービスを考えている会社が少なかったが、当社は他社が引き受けを敬遠していたメンテナンスの重要性を認識し、顧客から問い合わせを受け、素早くメンテナンスや修繕工事を対応するCustomer Satisfaction(CS)という専門部署を設置した。これが現在の太陽光発電事業におけるOperation and Maintenance(O&M)の発祥であり当社グループの強みとなっている。
太陽光発電事業では金融機関に顧客を紹介してもらうビジネスモデルを構築した。現在では日本国内92の金融機関とビジネスマッチング契約を締結し、全国各地に強固なネットワークができた。提携金融機関は太陽光発電導入に向けた融資提供、顧客はSDGsの取り組みが企業価値向上につながり、また電気料金の削減にもなる「三方良し」のビジネスモデルが完成した。
ウエストグループは2023年8月現在で、住宅用ソーラーから、産業用ソーラー、メガソーラーなど、6万8659カ所に252万7139キロワットの太陽光発電事業の実績があり、日本初の水上メガソーラーも埼玉県桶川市の調整池でウエストが建設した。
天野氏: 進出当時、グループ会社のウエストエネルギーソリューションが、日本国内で、省エネ機器によるウエスト独自のWEST ESCO(一般的なESCOは、省エネルギー課題に対して包括的なサービスを提供し、実現した省エネルギー効果の一部を報酬として受け取るスキーム)事業を展開し、提携金融機関から紹介を受けた企業の光熱費の削減ソリューションを提案していた。タイ国内の電気代が上昇傾向にあり、進出している日系企業向けにも収益改善サービスの展開を要望する提携金融機関も多く、タイ法人設立の後押しとなった。WEST ESCOサービスで省エネ機器を導入した顧客の要望もあり、太陽光発電事業を2017年末から開始し、請負、WEST ESCO、電力売買契約(PPA)の3つの契約形態でタイでの太陽光発電導入推進を図った。
現在までにタイでの契約数は196件と日系の太陽光発電事業者として一歩先を行っていると認識している。合計発電量は116メガワット(MW)に達し、顧客の95%は日系企業で、小規模の太陽光発電設備にも対応している。タイの地場大手の発電会社は、例えば1件で100MWなどと取り扱う規模ははるかに大きいが、当社は1件の規模ではなくお客様に寄り添った形で契約数を伸ばしてきた。
天野氏:監視センターを2023年11月に開設した。太陽光発電設備を設置して終わりではなく、監視などアフターケアも継続すると顧客に約束したことを当たり前に実行しているだけだ。タイで監視センターを持ち実際のメンテナンスに活かし、毎月の発電状況レポートを提供している企業は他にはないだろう。他社と比べた当社の強みはこうしたアフターサービスの充実だ。
屋根に設置した太陽光パネルは落雷や、突風などの風害、豪雨による雨漏りなどの自然災害リスクがある。当社は、太陽光パネルを16~20枚ほど直列につなぎ1本とする「ストリングス」を1万4000本分管理している。これらの配線の電圧値がどうなっているか、電気系統に異常がないかなどを遠隔で1日3回チェックしている。この監視を人手ではなく、2024年7月に「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」というソフトウエアロボットを導入し、自動で異常感知と異常箇所の特定を行い、より素早く適切なメンテナンスを実現している。日本本社では全国各地の自社建設の太陽光発電所、他社建設の発電所も監視を行っているため、同様のシステムで、より大きな監視センターを持っている。
天野氏:タイでは太陽光発電事業に関する制度、ルールがきちっと整備されていない中で、急速に普及してきたため、今、あわててルールを作っている印象だ。そのルールもどのような基準で作ったのか分からないものもある。例えば屋根の耐荷重に関する法制度もグレーな状態で決まっている。もともと、ソーラーパネルを設置できるような屋根になっていない工場もあり、太陽光発電を普及させようとすると、工場の操業を停止して、強度を補うために屋根の張替えをしなければならないこともあり、そのコストも高額だ。耐荷重を従来の倍にしなければならないなどの厳格なルールにすると事業の採算性が厳しくなる。
天野氏: 自家消費した後、余剰の電力を売電する場合、送電網に接続する必要がある。日本では変圧器が適切な電圧に整えて周辺の需要家へ電気を供給するが、タイでは集合住宅地等を除き変圧器を見かけない。こうしたインフラの違いが売電を難しくしていると思われる。太陽光による余剰電力と電力会社側から送られる電気は電圧等が異なるため、現在は民間発電所から送電網へ電気が流れ出ること(逆潮流)は許されておらず、「逆潮流防止用装置」の設置が義務付けられている。
一方、今後、農地などでの土地の上にソーラーパネルを設置する事業が増える可能性があるが、タイでは農業を守ることも重要なので、日本の営農型太陽光発電のように設置ルールが厳しくなる可能性がある。また、農村では周辺に電気を使っている施設が少ないので、自家消費型ではなく売電するための権利を取得するする必要があるが、新規参入業者はその権利取得が難しいと考える。
天野氏:タイの工業団地会社は土地を完売してしまうと毎月の収入がなくなる。工業団地を維持管理するための費用もかかるので、電気やガスなどを供給することで毎月の収入を作らなければならない。一部の工業団地では、特定の独立系発電事業者(IPP)との供給契約が義務づけられており、結果的に電力供給では競争原理が働かない。
天野氏:タイの太陽光発電市場は、以前に比べ法改正等により自家消費型太陽光の新規導入検討が減少するなど追い風をあまり感じられない一方で、競合社は増えている。当社より先にタイ市場に参入した日系業者は、パネルメーカー系と独立系の数社だったが、パネルメーカー系は施工をタイ地場企業に任せているという弱みがある。一方、最近では大手商社系、電力系も続々参入し、ますます競争が激しくなっている。
天野氏:日本本社では、スタートアップ企業と連携しペロブスカイト型太陽電池の効率的な設置方法の開発を2023年より開始したが、タイでも大手企業から工場の側面の壁に設置するデモ事業をやりましょうという提案を受けている。ただ、ペロブスカイト型はまだ量産ができないこと、施工方法やメンテナンス方法を検討している段階なので、今すぐという話ではない。ペロブスカイト型は屋根の上に設置するには適していない。紙のように薄いペロブスカイト型はフィルムが縒れてしまうと発電効率が下がる問題があり、強度が足りないので鳥が小石でも落としたら、損傷が原因で能力が低下し交換せざるを得なくなる。また、赤道に近いタイでは、90度という壁面では受光の角度が良くないという難しさもある。ただ、ソーラーパネルの屋根への設置が一巡する中で、ペロブスカイト型の役割として側面の壁や使わない窓ガラスへの設置が考えられるため、日本本社と連携しながらタイでの太陽光発電の推進を加速させたい。
THAIBIZ編集部
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