
カテゴリー: ビジネス・経済
連載: THAIBIZ NOW
公開日 2026.07.10
6月下旬、タイ社会で「ジーン・タオ=グレーな中国人・中国資本」という言葉が改めて大きな話題となった。近年タイでは、違法ビジネス、名義貸し(ノミニー)、オンライン詐欺、マネーロンダリングなどと結びつけて語られることが多いこの言葉について、中国大使がタイ側に使用自粛を求めたと報じられたことがきっかけだった。
大使の指摘自体には理解できる部分もある。犯罪者と一般の投資家・観光客・生活者は分けて考えるべきであり、国籍だけで一括りにする表現には慎重であるべきだ。しかし、この発言がここまで議論を呼んだのは、タイ社会において「中国資本・中国系ビジネス」への警戒感が、かつてないほど高まっているからにほかならない。
6月5日、国家会計検査院(SAO)の新庁舎ビル崩落問題で注目を集めた中国系企業「新科源鋼鉄(Xin Ke Yuan Steel、シンクーユアン・スチール)」に対し、タイ工業省工場局(DIW)が操業再開を認めた。同局は「設備改善が確認され、法令上の基準を満たした」と説明したが、社会の受け止め方はそれほど単純ではなかった。多くの市民が疑問を持ったのは、審査過程の不透明性だ。「基準を満たした」と説明されても、どのように判断されたのかが見えない。規制当局の監督能力への不信感が「中国資本への警戒」と重なり、波紋を広げた。
さらに同時期、中国がカンボジア軍に戦車39両を供与したとの報道も関心を集めた。単純な兵器性能の問題ではなく、国境紛争の火種を抱えるカンボジアに中国が軍事協力を強めているという事実が、タイ世論に複雑な感情をもたらした。経済・外交面では深い関係を持つ一方、周辺国を通じて影響力を拡大する中国に対し、「友好国なのか、それとも圧力をかけてくる存在なのか」という問いが生じている。
6月23日には、中国系デリバリー・ライフスタイルアプリ「悟空海外(Gokoo)」「飛象(Feixiang)」「E-GetS」が注目を浴びた。タイ商務省事業開発局(DBD)が株主構成や外国人事業法への適合、ノミニーの有無などを調査中と発表したことがきっかけだ。
タイ社会が驚いたのは、単に「中国系アプリ」という事実だけでなく、中国語を中心とした独自の生活圏が想像以上に広がっていた点だろう。Gokooは食事の注文だけでなく、宿泊、航空券、ビザ関連サービスまで網羅し、在タイ中国人の生活をアプリ内で完結させるエコシステムを構築しつつある。
タイ人配達員からは「他より収入が良い」「社会保険もある」といった声もあり、一概に否定できない側面もある。問われているのは、こうしたビジネスがタイの税制・競争環境・法律の中で適切に管理されているかどうかだ。
6月27日、国民党(プラチャーチョン党)のサハサワット議員は「問題は中国人ではなく、タイ国家の規制の弱さだ」と指摘した。ノミニーを可能にする会社登記の仕組みや資金洗浄を見抜けない金融監督、タイ投資委員会(BOI)の恩典を与えた後の追跡不足など、本質的な問題はタイ側にある、という論点だ。
「ジーン・タオ」という言葉を使うかどうかよりも、タイが違法資本を受け入れない制度を持てるかどうかの方が、はるかに重要である。信頼は発言ではなく、透明な制度と検証によって作られる。
タイは今、中国資本を完全に拒絶しているわけではない。むしろ投資は必要としている。しかし、透明性・適法性・社会への貢献という問いを、これまで以上に厳しく突きつけるようになっている。それはすべての外国資本に向けられた問いでもある。
参考:
タイラット(2026年6月5日)
ザ・スタンダード(2026年6月8日)
タイラット(2026年6月9日)
ザ・スタンダード(2026年6月13日)
公共放送局タイPBS(2026年6月23日)
カオソッド(2026年6月23日)
バンコク・ポスト(2026年6月23日)
ポスト・トゥデイ(2026年6月23日)
One31(2026年6月23日)
ザ・ベター(2026年6月24日)
デイリー・ニュース(2026年6月24日)
CAR250(2026年6月25日)
中国大使館(2026年6月25日)
クルンテープ・トゥラキット(2026年6月27日)

Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer
ガンタトーン・ワンナワス
在日経験通算10年。2004年埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ国の王室関係者や省庁関係者のアテンドや通訳を行い、タイ帰国後の2009年にメディエーターを設立。日本政府機関や日系企業のプロジェクトをコーディネート。日本人駐在員やタイ人従業員に向けて異文化をテーマとした講演・セミナーを実施(講演実績、延べ12,000人以上)。

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