【データで解明】現地化を阻む、5つの組織マネジメント課題

THAIBIZ No.175 2026年7月発行

THAIBIZ No.175 2026年7月発行打倒・競合!カルビーの大構造改革

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【データで解明】現地化を阻む、5つの組織マネジメント課題

公開日 2026.07.10

「タイ人には主体性が足りない」「タイ人は人をリードする意欲がない」―。タイ人リーダーと日本人リーダーの間に生じるギャップを、“国民性”や“文化の違い”だけで片づけてはいないだろうか。

株式会社マネジメントサービスセンター(以下、MSC)は、Development Dimensions International, Inc.(以下、DDI)と共同で、調査レポート「リーダーシップを読み解く:タイにおける日本企業の文化的ギャップを乗り越えるために」を作成。 タイ人リーダーとのギャップの背景には、単なる文化差ではなく、組織運営やマネジメント構造に起因する課題が存在すると指摘している。

本稿では、同レポートが提示する提言や示唆をもとに、現地化を阻む“真の壁”とその解決策を探る。

日本人・タイ人の計4,271人を比較分析

MSCは、DDIが開発したアセスメントツール「リーダーシップ・スナップショット」を用いて、①在タイ日系企業で働くタイ人リーダー、②タイ企業で働くタイ人リーダー、③日本で働く日本人リーダー、④在タイ日系企業で働く日本人リーダー(主に駐在員)を対象に、組織環境におけるリーダーシップ能力と個人特性に関する調査を実施した。

同社は、調査結果を①~④の4つの層(分析対象者:計4,271人)を比較分析することで、これまで経験談や印象論として語られがちだった在タイ日系企業の組織課題について、実証的な示唆を導き出すことに成功したとしている。

リーダーシップ意欲は国民性に左右されるものではない

そもそもタイ人は、より大きなリーダーシップ責任を担う意欲を持っているのか。組織マネジメントを考える上で前提ともいえるこの問いに対し、同レポートは興味深い結果を示している。

図表1の通り、タイ人リーダーは、日本で働く日本人リーダーと比較して、「人をリードしたい」という意欲がより高い傾向にあった。

同レポートでは、この結果について「日本では、リーダーシップが志向や目標ではなく、責務や負担として捉えられやすい組織風土があるのではないか」と考察。その上で、「リーダーシップ意欲は国民性によって決まるものではなく、組織環境や職務範囲、周囲からの期待といった要素に大きく影響を受ける」と分析している。

さらに、「自信」や「達成志向」の項目でも、タイ人リーダーは日本人リーダーを上回る結果となった。このことから、タイ人リーダーには自信や動機付けがすでに備わっていると考えられ、重要なのは「実際のリーダーシップ発揮につながる仕組みや環境を整えられるかどうか」であるとの示唆が示された。

ボトルネックのひとつは「駐在員のコーチング力」

では、どのような仕組みの改善が求められているのだろうか。タイ人のリーダーシップ発揮を妨げる要因の一つとして、同レポートではまず「コーチング力」項目の結果に着目している。

インタビュー調査では、多くのタイ人リーダーが実務を通じた育成(OJT)や直属上司からのコーチングを望んでいることが明らかになったというが、タイで働く日本人リーダー(主に駐在員)のコーチング力は、他の層と比較して低い水準にとどまっていた。

そのため「このギャップの影響は非常に大きい」と警鐘を鳴らし、「コーチング力を単なるソフトスキルだけでなく、中核的なリーダーシップ要件として位置づけるべき」と提言している。

「タイ人は意思決定力が弱い」は本当か

「意思決定能力」の項目では、日系企業で働くタイ人リーダーは、タイ企業で働くタイ人リーダーを上回る一方、日本人リーダーと比較すると低い水準となった。これが、従来「タイ人は意思決定力が弱い」と言われてきた所以でもある。しかし、同レポートはこの結果に対し、異なる視点を提示している。

調査結果によれば、意思決定において、タイ人リーダーは「体系的なアプローチ(=職務領域内の意思決定)」を、日本人リーダーは「全体最適のアプローチ(=組織全体の観点を踏まえた意思決定)」を取る傾向が強いという。

同レポートでは、この違いは能力そのものよりも、「経験や機会の差」に起因すると分析している。つまり、タイ人の意思決定能力が低いのではなく、能力育成につながる“全体最適の意思決定”に関わる機会が限定されていることこそが、最大の要因だとしている。

イメージ画像:Magnific

責任に権限が伴わない実態

さらに同レポートは、日系企業で働くタイ人リーダーは「権限移譲/エンパワメント」において最も高い数値を示しており、現場運営や部下育成における実質的な責任を担っていると分析。一方で、多くの日系企業では重要事項に関する最終的な意思決定権限を本社や日本人リーダーが保持していることも指摘している。

そのため、責任に見合う意思決定権限が十分に与えられていないケースもあり、「特に多国籍環境においては、責任と権限の整合が不可欠」と提言している。

異文化間での関係構築が重要

人間関係の構築を重視する傾向のあるタイのビジネス文化において、インフォーマルなネットワークや社内外での信頼関係は業務遂行上で重要な役割を果たす。リーダー同士の対人関係の精通度に関する調査結果では、タイ人リーダーに比べて、駐在員ネットワークにのみ依存している日本人リーダーは、阻害要因の数値が高い傾向にあることが分かった。

この結果を受け同レポートでは「異文化間での関係構築は、“あれば好ましい” 要素ではなく、戦略的なリーダーシップ能力として位置づけるべき」と、日本人のネットワークから抜け出しタイ人と関係を構築する能力の重要性を強調した。

5つの「組織マネジメント上の重要課題」

同レポートは総括として、「在タイ日系企業のリーダーシップにおける本質的な課題は、タイ人リーダーの動機付けや潜在能力の不足ではなく、組織の仕組みや人材育成の在り方にある」と指摘。その上で図表2の通り、5つの「組織マネジメント上の重要課題」を挙げている 。

これらの課題は、多くの日系企業に共通するテーマといえる。THAIBIZでは、その解決に向けた学びの場として、日本人向けの変革リーダーシップ講座や日系企業経営者を招いた勉強会、タイ人向けの人材マネジメント講座、タイ企業訪問や企業交流会などを定期的に開催している。 経営者、マネジャークラス、タイ人幹部・管理職など、それぞれの立場に応じた学びとネットワークを提供しており、5つの課題への対応を考える上でも参考になるだろう。

タイ市場を取り巻く環境が大きく変化する中、日本人リーダー自身もマインドセットや能力をアップデートし、タイ人リーダーが力を発揮できる組織づくりを進めることが求められている。その実現こそが、企業の持続的な成長につながる重要な鍵となる。

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THAIBIZ編集部
白井恵里子

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