公開日 2024.09.09
本セミナーシリーズ「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」ではビジネス経済情報誌ArayZ2023年10月号の特集記事「なぜタイ人は日系企業を辞めるのか?」の反響を受けて、著者Asian Identityの中村勝裕氏に、人事制度変革に取り組む在タイ日系企業の事例をご紹介いただきます。
THAIBIZは8月29日、Asian Identityと共催で「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」第二回セミナーを、日本語とタイ語の二言語でハイブリッド開催しました。
今回のセミナーでは、ローム株式会社のタイ販売拠点であるROHM Semiconductor (Thailand) Co., Ltd.(以下、RST社)より井ノ上靖浩氏、Jittima Varunut氏、Suntree Supho氏をゲストにお迎えし、同社が実施した現地化経営についてご紹介いただきました。オンライン・オフライン合計で約300名の参加申込があり、タイ人参加者も多く見受けられました。
Asian Identityの中村氏はイントロダクションとして、「ArayZの2023年10月号では『なぜタイ人は日系企業を辞めるのか?』と題する特集記事が大きな反響を呼んだが、一方で良い取り組みを行う在タイ日系企業も数多く存在しており、そこではタイ人社員も生き生きと働いている」とし、「今回の『なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?』セミナーシリーズでは、そのような好事例を紹介することで、選ばれる日系企業になるためのヒントを届けたい」と、今回のセミナーの主旨を説明しました。
井ノ上氏はロームグループについて、「『われわれは、つねに品質を第一とする。いかなる困難があろうとも、良い商品を国の内外へ永続かつ大量に供給し、文化の進歩向上に貢献することを目的とする』という企業目的のもと、21の国内拠点、76の海外拠点で約2万3,300人の従業員が働いている。生産製品は、LSI、半導体素子、モジュールなどだ」と説明。続いて、同グループの沿革、売上規模、生産拠点などを解説した上で、ローム株式会社が掲げるスローガン“Electronics for the Future”(エレクトロニクスで社会課題を解決する会社へ)や、「2030年にグローバルメジャーを目指す」という大きなグループ目標を紹介しました。また、人事施策の紹介に先立ち、本社の経営基本方針が人事の基本的方針に深く紐づいていることも強調しました。
RST社はローム株式会社の海外営業拠点の一つで、タイ国内および近隣諸国を中心にローム製の半導体および電子部品の提供を行うタイ現地法人です。1996年9月に設立され、2024年8月時点で日本人を含む68人が勤務しています。井ノ上氏は同社の人員構成、社員数の推移、管理職の数(日本人・タイ人別)などについて説明し、ここ5年間でタイ人マネジャー・リーダーが5人から13人に増加したことを明かしました。これは、10年間にわたり実施してきた人事施策の成果だといいます。
続いて同氏は、この10年間で取り組んだ人事施策について「①人事制度の見直し」および「②教育研修」の2つのポイントに分けて解説しました。①人事制度の見直しでは、「不明確な評価基準や、チームワークや責任感の欠如、不明瞭なキャリアパスなど、様々な課題に対して独自施策を地道に遂行した」といいます。②教育研修では、「会社としての方針を全従業員に継続的に伝達しながら、日本人社員も一緒に学ぶことで相互理解を深める機会にもなった」そうです。また井ノ上氏は、「項目が多く堅苦しい文章に落とし込まれていた方針や行動指針について、2023年にタイ人リーダー11人が主導して『RST WAY』という分かりやすい解釈を作り上げたことも、彼らの自発性や主体性を促すきっかけになった」と説明しました。
長年にわたる改革努力が功を奏し、組織改善システム「モチベーション・クラウド」により診断された同社の組織状態はここ数年間、継続的に最高値である「AAA」を記録しています。
RST社のHRマネジャーであるSuntree氏は、人事施策実行後の変化について「会社の状況や日本人マネジャーの考えが十分に理解できていなかった状態から、数々の人事施策を経てそれらが理解できるようになり、自分の行動や目標に結び付けられるようになった」とし、「タイ人マネジャーが増えたことで、日本人マネジャーが入れ替わることによる方針変更に振り回されることがなくなった。また日本人とタイ人の間の信頼関係が深まったほか、従業員エンゲージメントも向上した」と振り返りました。
同社のセールスマネジャーであるJittima氏も、「以前は日本人マネジャーとのミスコミュニケーションが頻発し、従業員のモチベーションは低く離職率が高かったが、タイ人マネジャーが増え日本人との架け橋ができたことで、タイ人従業員は様々な提案を行えるようになり、離職率は低下した。私自身も、評価され昇格できたことで自分の価値を見出すことができたため、今後もここで長く働きたいと考えている」と、自身の気持ちにも大きな変化があったことを明かしました。
また、Suntree氏は「マネジャー向け研修の中で、特にファシリテーション研修が最も感動的な体験だった」とし、「同研修には、結論を出す力、傾聴力、観察力など、マネジメントに必要な要素が全て詰まっていた。社内ミーティングはもちろんのこと、お客様との商談においても、研修で培った力を発揮できていると感じる」と、研修内容を高く評価しました。現在RST社では、ファシリテーション研修を全従業員に対して行っており、従来の「会議が長い割に結論が出ない」「会議内容が記録として残されていない」等の課題解決に大きく貢献しているといいます。
さらに、日本人マネジャーと仕事をする上で留意しているポイントについて、Jittima氏は「バイアスを持たないこと、心をオープンにすること、納得できるまで話を聞くこと」と、Suntree氏は「自分の考えを100%押し付けすことはせず、うまくいかない時は相手ではなく自分を変えることを意識する」と、それぞれ回答しました。一方で井ノ上氏は、「タイに赴任して大きく変わった日本人も多い。赴任当初はタイ人社員と信頼関係をうまく築けなかった駐在員が、最後には慕われて帰任を惜しまれることもある」と、人事施策がタイ人のみならず日本人の成長や変化にも繋がっていることを補足しました。
>>ファシリテーション研修についてはこちら
Q&Aセッションでは、評価制度、評価スキルや評価の目線合わせ、人事施策実行にあたっての本社との関係、タイで求められる人物像、言語、キャリアパスの明確化等について、多くの質問が寄せられました。
中村氏は総括として、「ローム社の現地化におけるポイントは、会社の方針を示し続けること、日本人が変わる姿勢を見せること、組織状態をデータで把握すること、そして、タイ人に寄り添う姿勢だ」と考察し、「しつこく、粘り強い推進こそがカギである」と解説しました。
最後に井ノ上氏は「会社を良くしたい、タイ人社員に幸せになってほしい、という想いをベースに、これまで改革を行ってきた。この想いさえ持っていれば『そのためにすべきこと』がきっと導き出せる。今後も一緒にがんばっていきましょう」と参加者を勇気づけました。
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本セミナーシリーズでは、今後も「選ばれる企業」になるためのヒントをお届けしてまいります。第三回以降もご期待ください。
>>「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」第一回セミナーレポートはこちら
>>人事評価やタイ人育成に関するAsian Identityのお勧めサービスはこちら
中村勝裕 氏
Asian Identity Co., Ltd. Founder & CEO
株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役
愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。YouTubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」を運営。
Asian Identity Co., Ltd
2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、”Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。
開催概要
「なぜタイ人は日系企業を“選ぶ”のか?」第二回
ローム社タイ法人の取り組みから学ぶ「シン・現地化経営」
日時:2024年8月29日(木)15:00~16:30(タイ時間)
形式:ハイブリッド(オフライン会場 / オンライン)
会場:Mediator内セミナールーム
主催:THAIBIZ(Mediator Co., Ltd.運営) / Asian Identity Co., Ltd. ※共催
※プログラム詳細はこちら
THAIBIZ編集部
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