タイ自動車市場、日本勢の逆襲始まるか ~バンコク国際モーターショー2026での変化

THAIBIZ No.173 2026年5月発行

THAIBIZ No.173 2026年5月発行いま、日本のスタートアップがタイに向かう理由

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タイ自動車市場、日本勢の逆襲始まるか ~バンコク国際モーターショー2026での変化

公開日 2026.05.11

今年のバンコク国際モーターショー(BIMS)は、予約受注台数が13万2,951台に達し、前年の5万5,572台から71.8%増となる過去最高を記録した。

要因は中国電気自動車(EV)メーカー勢の快進撃だ。会場ベースの集計ではBYDが1万7,354台で昨年に続き首位、2位はトヨタの1万5,750台だったが、続く3位が奇瑞汽車(Chery)傘下のOmoda&Jaecoo、4位が上海汽車(MG)、5位が長安汽車(Changan)と中国系が上位を占めた。

中東情勢の緊迫化によって原油価格が上昇し、ガソリン価格が大きく跳ね上がるなか、EVへの関心が一段と高まったことも、驚異的な受注増を後押しした。

しかし、このような熱気の中で注目したいのは、①日本勢がEVと次世代電動化市場に本格参入し始めたこと、②タイ政府の新たな政策が日系にとっても追い風になりうること、である。

今年さらに上位を占めた中国勢

過去最高の受注台数は、タイの自動車市場にまだ強い購買意欲が残っていることを示した。もっとも、その中身は従来と同じではない。消費者の判断軸は確実に変わってきている。

かつてはブランド力や耐久性、 リセールバリューが重視されていたが、今では「価格に対する装備の充実度」「電動化」「デジタル機能」「エネルギーコスト」が購買の大きな軸になっている。この点で、中国メーカーは優勢となった。BYD、MG、長城汽車(GWM)、吉利汽車(Geely)、Chery、AION、Xpeng、Avatrなどが上位を占め、「中国EV時代」を強く印象づけた。

日本勢も「本気を出し始めた」

タイのメディアで特に話題になったのは、日本メーカーが明確にEVを押し出したことだ。これまで日本勢は、主にハイブリッド車(HEV)を通じて電動化の流れに対応してきた。理にかなった移行戦略だったが、タイ市場では「中国勢がバッテリー式EVで先行し、日本勢は出遅れている」と見られていたのも事実である。しかし今年のBIMSでは、その構図にやや変化が見られた。

トヨタはEV「bZ4X」を引き続き本格展開しつつも、新たに4WDの「Land Cruiser FJ」を披露し、電動化だけではなくスポーツタイプ多目的車(SUV)やピックアップベースのSUV(PPV)セグメントでの強さも改めて示した。

マツダはEV「Mazda6e」を正式にタイ市場に投入し、大きな反響を呼んでいる。ホンダもEV「Honda e:N2」に加え、一般消費者向けとしては初となる電動二輪「Honda UC3」を展開。四輪・二輪の両面で変化を見せた。さらに、いすゞも続く。欧州市場向け輸出で先行していた「D-Max EV」を、タイ市場向けに正式に打ち出したのだ。

そして、これらが各メーカー単発の発表ではない点も重要だ。タイ市場において「日本勢が本気で電動化市場を取りにきた」と受け止められており、中国勢が旗艦モデルを次々と投入する中、日本勢は「守り」から、自ら市場を取り返しにいく「攻め」の姿勢を示し始めたのである。

「BYD首位」の報道と実態のズレ

加えて、今回のBIMSで見逃せないのが、報道されたランキングと実態のズレだ。会場内受注ベースではBYDが1位と報じられたが、実はこの数字には「BIMS期間中に全国ディーラーで同条件キャンペーンにより受注した台数」も含まれていた。一方、トヨタの1万5,750台は当初、会場内での受注として発表されていたため、多くの報道ではBYDが1,604台差で首位だったと伝えられた。

ところが数日後、トヨタも同じ基準(BIMS期間中に全国ディーラーで受けた注文を含めた台数)で集計したところ、2万8,580台に達していたことが判明。報道を大きく覆す数字であり、タイ国内販売網の厚みを改めて示す結果となった。

受注の内訳を見ても、Yaris ATIVが7,427台、Hilux系が8,468台、Yaris CROSSが4,678台、Corolla CROSSが2,641台と、量販の主力車種が幅広く売れている。

bZ4X自体の台数は539台と限定的だが、Land Cruiser FJのような新型車も920台を記録するなど、トヨタらしい展開力の強さが現れている。

Mazda6eが示した日本ブランドの可能性

写真提供:マツダセールス・タイランド

また、今回日本勢の中でも特に強い存在感を発揮したのがマツダである。受注総数4,889台で全体11位という数字だけを見れば決して大きくないが、見るべきはその中身だ。

総受注のうち3,062台、実に62.6%を「Mazda6e」が占めたのである。マツダはこの数年、ブランド力はあるものの、販売ボリュームや話題性の面では苦戦が続いていた。

しかしMazda6eは、その流れを一気に変えた。価格帯は116万9,000〜119万9,000バーツと競争力があり、会場では来場者がブースに殺到し、試乗予約も埋まったと伝えられている。

年末には新モデル「CX-6e」の投入も見込まれており、マツダがEVを通じてブランド再生に成功するかどうかは、今年後半の大きな見どころの一つになるだろう。

この現象は、タイの消費者が必ずしも「中国ブランドに完全に流れた」わけではなく、「EVの選択肢へのニーズが高い」ことを示している。

モーターショーでの数字=景気回復ではない

もっとも、今回の受注台数=タイ経済全体の回復と読むのは危険だ。

サイアム・コマーシャル銀行(SCB)の調査機関エコノミック・インテリジェンス・センター(EIC)は、BIMS2026はタイ国内における自動車ニーズの一部と、電動化技術への高い関心を反映しているに過ぎず、これがそのまま経済への波及効果につながるとは限らないと警鐘を鳴らしてしている。

同センターによると、会場で受注した商品のうち、実際の納車に至るのは約70%程度にとどまる見込みだという。従来の75〜80%より低いのは、ローン審査が依然として厳しく、とりわけEVでは頭金条件や返済条件が重いことが背景にある。

また、タイ市場では新型車の投入サイクルが早いため、消費者がより魅力的なモデルに乗り換えて予約をキャンセルする可能性もある。納車待ち期間の長期化もキャンセル要因になりうる。

タイ経済を見るうえで見落としてはならないのは、足元の自動車販売の活況が、輸入車比率の高まりによって支えられている点だ。輸入完成車を中心とした販売増であれば、販売台数が伸びても、その効果は数字ほどタイ経済全体には波及しにくい。

日本勢に追い風となるかータイ政府の新施策

こうした中、注目されるのが、タイ政府が検討を進める「新車買い替え支援」策である。当初はEVやHEVの普及策として受け止められていたが、制度の内容が明らかになるにつれ、日本メーカーにも追い風となる可能性が浮上してきた。

制度の概要は、従来の内燃機関(ICE)車から、EVやHEV、電動バイクなどの「低炭素排出」車両へ買い換える消費者に対し、一定の支援を行うというものだ。主な狙いは国内のCO2排出量削減で、あわせてPM2.5対策やエネルギー輸入依存の軽減も目指す。

制度設計上の焦点は、大きく二つある。ひとつは、対象車両が「タイ国内で生産された車」に限定される可能性が高い点。もうひとつは、「低炭素排出」車両の具体的な対象範囲である。

EVやHEVに限られるのか、一定の環境基準を満たす内燃機関(ICE)車まで含まれるのかによって、制度の波及効果は大きく変わる。

特に注目されるのが、タイ市場の主力車種であるピックアップの扱いだ。日本メーカーの一部車種では、国内部品調達率が90%を超えるケースもあり、雇用・税収・輸出への波及効果が大きい。対象に含まれる場合、関連産業への影響も小さくない。

日本勢はEVで後れを取った一方、HEV、低燃費ICE車、バイオ燃料対応技術では依然として強みを持つ。販売網、生産体制、部品の現地調達率、アフターサービス網でも厚みがある。

今回の新施策は、タイ自動車産業が「EVだけの競争」から、「タイ国内でどれだけ価値を生むか」という競争も重視する局面に入りつつあることを示している。

日本勢の逆襲の条件が整い始めた

2026年のBIMSは、中国勢が改めて存在感を見せつけた一方で、日本勢にも反転の兆しが見えた。これまで中国メーカーが主導してきたEV市場に対し、日本メーカーも商品投入や販売戦略の面で対応を本格化させつつある。

もちろん、現時点で日本勢が優位に立ったわけではない。EV分野のスピード感や価格競争力では、中国メーカーがなお先行している。

しかし、タイ市場は短期的な販売競争だけでは決まらない。国内生産体制、部品サプライチェーン、販売網、サービス網、金融支援の仕組み、そして政府政策との整合性など、中長期的な事業基盤が最終的に競争力を左右する。こうした点では、日本メーカーには引き続き強みがある。

今後は、政府が検討する買い替え支援策や、国内生産車を優遇する制度がどのように具体化されるかが、大きな分岐点となるだろう。

>>本連載「THAIBIZ NOW」の記事一覧はこちら

参考:
AUTOLIFE THILAND.TV(2026年4月6日BIMSについて、4月6日マツダについて、4月8日トヨタについて)
Marketeer online(2026年3月23日)
AUTOINFO(2026年4月16日)
SCB EIC(2026年4月17日)
クルンテープ・トゥラキット(2026年4月17日)

Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer

ガンタトーン・ワンナワス

在日経験通算10年。2004年埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ国の王室関係者や省庁関係者のアテンドや通訳を行い、タイ帰国後の2009年にメディエーターを設立。日本政府機関や日系企業のプロジェクトをコーディネート。日本人駐在員やタイ人従業員に向けて異文化をテーマとした講演・セミナーを実施(講演実績、延べ12,000人以上)。

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