輸出依存からの脱却へ 〜味と食感で挑む日本ブランドの現地化

THAIBIZ No.173 2026年5月発行

THAIBIZ No.173 2026年5月発行いま、日本のスタートアップがタイに向かう理由

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

輸出依存からの脱却へ 〜味と食感で挑む日本ブランドの現地化

公開日 2026.05.11

発売から約40年が経過した日本ハムのポークソーセージブランド「シャウエッセン」。独特の食感と風味で多くのファンを持つブランドが、今年2月、タイでの販売を開始した。 

この新たな挑戦を託されたのがタイニッポンフーズの開発部長である植田泰士氏だ。 数々の壁や制約に向き合いながら、ゼロから市場を切り拓く同氏に、プロジェクトの舞台裏と手応え、その先に見据える未来について話を聞いた。

輸出依存からの脱却と「シャウエッセン」の海外展開

植田 泰士氏
RD Senior Manager
Thai Nippon Foods co., ltd.
2013年に日本ハム株式会社へ入社。ハム・ソーセージ事業部にて製造現場を経験後、商品開発部門にて「シャウエッセン」の派生商品開発を担当。その後、海外事業本部を経て、2024年5月よりタイニッポンフーズに赴任。開発部長として「シャウエッセン」の現地製造・販売を推進。

Q. タイニッポンフーズの事業内容について教えてください

当社は日本ハムグループのタイ法人として1989年に設立されました。当社には主に3つの拠点があり、従業員は合計1,500人以上、うち日本人駐在員は5人(2026年3月時点)です。主な事業は鶏肉加工品の製造販売で、売上全体の8割以上を占めています。そのほかに野菜加工品や豚肉加工品の製造販売も行っています。

製品の9割以上を日本に輸出しており、残りはタイ国内で販売するほか、シンガポールや香港にも輸出しています。日本向け製品の一部は、日本の大手コンビニチェーンのプライベートブランド(PB)商品として販売されています。

Q. ご自身の経歴についてお聞かせください

2013年に日本ハムへ入社し、ハム・ソーセージ事業部でキャリアをスタートしました。最初は工場の製造現場に配属され、その後は開発部門で商品開発を担当していました。主に担当したのは、「シャウエッセン チェダー&カマンベール」などの「シャウエッセン」の派生品です。

「シャウエッセン」は1985年に発売された歴史あるブランドですが、お客様の年代もそのまま上がり、いまやボリューム層は50〜60代。そのため、若年層の開拓が課題でした。基幹ブランドだけに派生品には社内でも慎重な声がありましたが、現状維持を打破する強い覚悟で新しい製品を開発していました。

2022年からは海外事業本部に所属し、海外グループ会社の事業支援や業績管理を担当。そして2024年5月、自身初の海外駐在としてタイに赴任しました。

Q. タイで「シャウエッセン」を展開する背景は

近年は円安や原材料価格の高騰により、日本向け輸出に依存したビジネスは打撃を受けやすくなっています。そうした中で、為替に左右されない収益構造を構築することが当社にとって重要な課題となりました。

その戦略の一つが「シャウエッセン」の海外展開です。タイで製造し、現地市場での販売を強化することで、安定した収益基盤を築く—それが私のミッションです。プロジェクトは約1年前に始動し、今年2月下旬よりタイで販売を開始しました。

味と食感をめぐる挑戦

Q. 展開していく上で苦労した点は

タイと日本とではまず、味覚が違います。タイでは日本のような粗挽きポークソーセージがほとんど存在せず、「シャウエッセン」を試食してもらうと「塩辛い」と受け取られることが多いため、現地の嗜好に合わせた味づくりが不可欠でした。

使用できる原材料も日本とは大きく異なります。スパイスや豚肉の質の相違に加え、特に大きな壁となったのが食感に直結する羊腸です。日本で使用しているものとは性質が大きく異なるので、その調整には最も苦労しました。

とはいえ、現地の味に寄せすぎれば「シャウエッセン」らしさが失われてしまいます。ブランドの核となる価値を守りながら、どこまでローカライズするか。そのバランスを見極めることが、このプロジェクトで最も難しいポイントでした。

Q. 食感のイメージを現場にどう伝えたか

日本では食感を「パリッ」「シャキッ」といった擬音語で表現しますが、こうしたニュアンスはタイではそのまま伝わりません。たとえば「食感を強くしてほしい」と伝えても、日本で意図する“歯切れの良さ”ではなく、単に硬いだけの食感として受け取られてしまいます。

ソーセージづくりにおいては、味だけでなく食感も品質を左右する重要な要素であるにも関わらず、その繊細な違いが通訳を介しても完全には伝わらないことが大きな壁でした。そこで、試作と試食を何度も繰り返し、実際に食べてもらうことで少しずつイメージをすり合わせていきました。

Q. 最終的な味や食感はどのように決まったか

塩分や配合を0.数%単位で何度も調整しました。最終的には、本社の開発責任者も交えて、タイの開発チームと一緒に試作を重ねて完成させました。その結果、本社のお墨付きも得られ、自信を持てる商品になっています。パッケージにも、タイ語で「パリッとした食感」を意味する言葉を使い、タイの消費者にも食感の特徴が伝わるよう工夫しています。

現地での手応えと社員の意識変化

Q. 発売後の現地の反応は

試食イベントでは非常に良い手応えを得ることができました。なかでも今年2月に「ジャパンエキスポタイランド」に出展した際は、多くのタイ人のお客様に試食いただく貴重な機会となりました。

このイベントは、現地の反応を直接見られただけでなく、社員にとっても大きな転機になったと思います。これまで当社はコンビニ向けのPB商品の製造が中心で、自社ブランドを自らの手で販売する機会は多くありませんでした。

しかし、このイベントを通じてお客様と直接向き合う中、社員一人ひとりが自社ブランドに誇りを持ち、自ら積極的に売りにいく姿勢が生まれました。その変化を間近で見ることができたのは成果でした。

Q. 現在の販売戦略と課題について

現在は日系スーパーを中心に販売を展開しています。市場全体ではやや高価格帯に位置づけられますが、日本ブランドとしての価値を維持するための価格設定としています。今後は、ローカルスーパーへの展開、コンビニ向けの小容量商品の開発や、外食産業向けの業務用商品の展開も視野に入れています。

課題は生産体制です。もともと揚げ物を主軸とした工場のため、ソーセージ製造に関しては設備が十分とは言えません。開発部長としては、販売の伸びを見極めながら、設備投資や製造ラインの再構築を段階的に進め、将来的には生産キャパシティの拡充を図っていきたいと考えています。

タイ市場にブランドを根付かせたい

Q. 来タイ前後で駐在員の役割に対する考えは変わりましたか

日本では開発、営業、マーケティングなど、機能ごとに役割が細分化されています。対して、タイにおける駐在員の役割は非常に広く、私自身も開発部長として商品開発から製造、品質管理、法規対応、販売戦略まで、会社全体を俯瞰して見る必要があります。

責任範囲は大きく広がった分、自分の意思で事業を動かせる醍醐味があるのも確かです。日本では意思決定を行っても、何段階もの承認プロセスを経る必要がありますが、タイでは自らの判断がダイレクトに現場へ反映されます。すべての結果に責任を負うことになりますが、それも含めて大きなやりがいを感じています。

Q. 今後の展望を教えてください

現在の「シャウエッセン」の販売量は月1〜2トン程度ですが、この数字を100トン規模まで伸ばしたいと考えています。そのためにはローカルも含めて販売チャネルを増やし、製造設備を強化し、タイ市場向けのマーケティングを同時に進めていく必要があります。「シャウエッセン」がタイ市場にしっかりと根付くところまでを、自分の目でしっかりと見届けたいと考えています。

執筆者:三田村 蕗子

>> 連載「在タイ日本人駐在員の挑戦」の記事一覧

THAIBIZ編集部
白井恵里子

THAIBIZ No.173 2026年5月発行

THAIBIZ No.173 2026年5月発行いま、日本のスタートアップがタイに向かう理由

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE