
カテゴリー: 対談・インタビュー, カーボンニュートラル
公開日 2026.07.10 Sponsored
タイでは脱炭素や電気コスト削減の流れを背景に、2020年頃から日系製造業を中心に太陽光パネルの導入が急速に広がった。一方、市場が成熟し始めた今、「導入した後」にどう運用するかという新たな課題も浮かび上がっている。
今回は、タイで早くから太陽光事業を展開、設置・運用・保守までを一貫して手掛けてきたWEST International Thailandの天野友寛社長を訪れた。これまであまり語られてこなかった太陽光発電の“見えないロスとリスク”とは何か。現場の実態と対応策について話を聞いた。

目次
中東情勢の緊迫化を背景に、原油や天然ガス価格の変動が改めて意識されている。5月号の「編集部が読み解く」でも整理したように、タイは発電の多くを天然ガス火力に依存しており、燃料価格の変動は電気料金にも直結しやすい構造だ。製造業にとって、電力コストをいかに抑え、安定させるかは競争力に関わる重要な経営課題となっている。
その有力な選択肢として普及してきたのが太陽光発電だ。脱炭素への対応に加え、電気代削減にもつながることから、多くの日系企業が導入を進めてきた。特に近年は、初期投資なしで導入できる電力販売契約(PPA)モデルの普及も後押しし、太陽光発電は多くの工場で一般的な選択肢となっている。しかし、市場が成熟するにつれ、導入時には見えにくかった新たな課題も浮かび上がり始めている。
市場の拡大が進む一方で、天野氏は「導入がゴールになってしまっているケースが非常に多い」と指摘する。本来、太陽光発電は導入してからがスタートだ。発電して初めて価値を生む設備だが、設置したことで安心してしまい、その後の運用や管理が十分に行われていないケースが目立つという。
同氏は、多くの工場では約2割の設備が本来の性能で発電できていないと話す。「仮に年間100万キロワット時(kWh)の発電を想定していた設備であれば、その一部が正常に機能していないだけでも、長期的には大きな経済的損失につながる可能性がある。しかし、発電量が完全にゼロになるわけではないため、現場では異常に気付かないまま運用が続いてしまうことも少なくない」と警鐘を鳴らす。
さらにタイでは、PM2.5や野焼きによる粉塵の付着、ネズミや鳥による配線被害、場合によってはヘビが電柱によじ登って感電し、その影響が設備に及ぶケースもあるという。高温環境による機器への負荷も大きく、日本の常識で設計すると、タイではうまくいかない。
そして、発電ロス以上に注意すべきなのが安全面のリスクである。特に接続不良は局所的な発熱を引き起こし、最悪の場合は火災につながる。そのため、「発電しているから大丈夫」ではなく、想定通りの発電ができているかを継続的に確認することが重要になる(図表1)。

同氏は、そもそもこうしたロスやリスクが見過ごされやすい背景には、導入後の管理体制に関する構造的な課題があると指摘する。主には、次の通りだ。
① 価格競争の激化:太陽光発電の普及とともに参入企業は増え、導入時の価格競争も激しくなった。その結果、施工品質や導入後の保守体制よりも、初期コストが優先されがちだ。
② 保守の形骸化:アフターサービスを掲げる事業者は多いが、その実態はさまざま。同氏は、「本来の保守は異常が起きる前に兆候を見つけることだが、実際にはトラブル発生後の対応にとどまっていることもある」と話す。
③ 管理責任の空白:発電量が低下していても、その原因を判断できる人材が社内にいないケースもある。「天候の影響」と説明されれば、そのまま受け入れてしまうことも少なくないという。発電設備の管理が事実上業者任せになると、異常に気づく機会そのものが失われてしまう。
④ 設備と担当者の任期のギャップ:太陽光設備の使用期間は20年前後とされる。一方、日系企業では担当者が数年で交代することも珍しくない。短期的には大きな問題として表面化しにくいため、長期的な運用課題が後回しになりやすい。
こうした要因が重なることで、「誰も気づかない」「誰も責任を持たない」という状態が生まれてしまう。発電ロスや安全リスクが積み上がっていても、その事実に気づけなければ改善もできない。だからこそ、太陽光発電では設備そのものだけでなく、「誰が、どのように見続けるのか」という運用の仕組みが重要になってくる。
では、こうした「導入後」の課題に、企業はどう向き合えばよいのだろうか。同氏は、その鍵は「異常が起きてから対応するのではなく、異常が起きる“前”に兆候を捉えること」にあると考えている。
その背景には、同社がタイ進出当初から取り組んできた「顧客満足」重視の姿勢がベースにある。発電の低下はそのまま顧客側の損失に繋がるため、継続的な監視と保守が欠かせない。そのため同社では、早くから保守・監視体制の強化に取り組んできた。現在は日本とタイの双方で設備を監視し、ストリング(直列接続されたパネル群)単位で発電状況を確認している。設備の停止を待つのではなく、小さな異常の兆候を把握するためだ。
さらに近年は、発電データや日射量データを活用した人工知能(AI)予知保全にも取り組む。例えばコネクタの緩みなどは、火災につながる前に発電パターンの変化として現れる場合があるからだ。こうした取り組みの目的は、設備停止後の対応コストを下げることだけではない。発電ロスの最小化や火災リスクの低減を通じて、企業が本来得られるはずだった経済効果を守ることにあるという。
今回の取材で見えてきたのは、太陽光発電の課題が「導入するかどうか」から、「どう運用するか」へ移りつつあるということだ。
天野氏は、「いくらで入れるかではなく、何%発電し続けるかが重要だ」と話す。導入時に数%のコスト差があったとしても、その後20年近くにわたり安定して発電できるかどうかによって、最終的な投資対効果は大きく変わってくる。
脱炭素や電気代削減を目的に太陽光発電を導入する企業は今後も増えていくだろう。しかし、その設備は本来の役割を果たしているだろうか。普及が進んだ今だからこそ、太陽光発電を単なる設備投資としてではなく、長期的なエネルギー戦略として捉え直す時期に来ている。導入企業に求められているのは、設備の価値を長期的に最大化させる仕組みを構築することである。

WEST Internationalの太陽光事業についてのお問い合わせはこちらから。
Web: https://west-international.co.th
E-mail: tatsuro.tazaki@west-gr.co.jp(担当田﨑 / 日本語)
E-mail: new@west-international.co.th(担当New / 日・タイ語)

THAIBIZ編集部
和島美緒

SHARE