タイEV振興策見直しに向けた緊急提言

THAIBIZ No.175 2026年7月発行

THAIBIZ No.175 2026年7月発行打倒・競合!カルビーの大構造改革

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タイEV振興策見直しに向けた緊急提言

公開日 2026.07.10

タイ電気自動車協会(EVAT)やタイ自動車部品製造業協会(TAPMA)など10の産業団体が5月、政府に対し電気自動車(EV)振興策の見直しを求める緊急提言を提出した。背景には、中国系EVメーカーの進出が進む一方で、国内サプライヤーへの波及効果が限定的との懸念がある。本稿では、その経緯を整理するとともに、タイ政府および日本の産業界の対応について触れる。

緊急提言の内容

タイ産業団体が5月14日に首相官邸を訪問し、8点の緊急提言を提出した。提言の項目は、税制、現地調達規制、先進運転支援システム(ADAS)の現地開発化など多岐にわたるが、最も重要な点は①物品税改革、②現地調達規制の強化、③共通部品の促進と税制上の優遇措置、が挙げられる(図表1)。背景には、中国からの輸入EV完成車(CBU)や輸入部品が増えることで、国内サプライチェーンが崩れ、タイが自動車の生産ハブから輸入国に転じることに対する国内産業界の危機感である。

物品税改革:現在、中国からの輸入CBUはEV3.0/3.5奨励策対象であれば無税、対象外でも10%(2026年以降)にとどまる。関税局の統計データによると、中国からの輸入CBUは2024年に約24万台まで拡大。しかしEV3.0/3.5下で中国系メーカーによる現地生産が進んだことで、2025年は約8万台まで減少している(図表2)。TAPMAの幹部によれば、現地生産が増えてもほとんどの部品が輸入されていることから、EV以外の生産が増えなければ現地サプライヤーには恩恵がない。

また、産業団体は、タイ政府からのEV補助金が打ち切られれば、現地生産より輸入CBUの方がコスト面で有利となるため、一部メーカーが輸入に回帰する可能性を懸念している。TAPMAによると、中国の部品のコストは、タイの現地部品に比べて平均30%程度安いことから、輸入CBUに対しては現状の10%から30%まで物品税を引き上げることを要請している。

なお、国内生産者を保護する措置は隣国マレーシアですでに導入されている。マレーシア経済産業省(MITI)は2025年7月から、輸入EVについて最低20万リンギット(約160万バーツ)以上の価格と、180kW以上の出力を条件を義務付ており、タイは自国産業優先のマレーシアから学ぶところが多い。

現地調達規制の強化:現地調達が進まない理由の一つに、計算方法が厳格でないことが挙げられる。中華系OEMはフリーゾーン(FZ)の免税要件として域内現地調達比率(RCA)40%以上を満たしている。しかし、RCAには部材費以外に利益や物流費、管理費なども含まれるため、実際の部品調達に占める現地部品の比率はそれほど高くないとの見方が業界では強い。

共通部品の促進と税制上の優遇措置:高付加価値部品の現地化とその促進のための物品税軽減を求めている。例えばシャーシやボディ等で、日系OEMはすでにこれらを現地化しているため有利になる。業界関係者によれば、上海汽車集団(MG)を除く中華系OEMはボディは溶接をしていないか、部分的にしか溶接していない。前回のCheryの記事で述べた通り、セミノックダウン(SKD)方式にとどまっているケースも多いため、高付加価値部品の現地調達を優遇措置の条件とすることで、より高度な生産工程の現地化を促す狙いがある。

日本側の反応と提言

本提言について日本側は正式なコメントをしていないものの、日系メーカーは現地生産やサプライチェーンの維持を重視する立場から、現地化推進の提言を歓迎しているとみられる。一方で、同タイミングでバンコク日本人商工会議所(JCC)自動車部会がTAPMAと共同で、アヌティン首相に対して意見具申書を提出している。内容は、以下の2部で構成されている。

日本によるタイ産業・経済への貢献:日本がこれまでタイの自動車産業において雇用、投資、国内総生産(GDP)、輸出の面でいかに貢献してきたかを強調(図表3)。サプライチェーンの発展に貢献してきた日系企業に配慮し、現地生産車が輸入車に対して不利にならないような措置を求めている。特に、中国車への優遇措置によって輸入CBUが増加した点を問題視。輸入CBU全体が2019年の約5万台から2025年には10万台超へ増加し、国内販売に占める輸入車比率も5%から16%へ上昇した。こうした状況が国内生産にネガティブな影響を与えていると指摘している。

また、日系OEMは日本からの投資額が中国を上回る点にも言及している。タイ政府がEV優遇策を進める背景として中国からの大型投資が挙げられることが多いが、日本側は投資規模の面でも引き続きタイ経済に大きく貢献。さらに、ピックアップトラックやPPV(ピックアップベースのSUV)、エコカーでは、部品の現地調達率が最大で9割近くに達している。これは、同比率が10%以下にとどまる中華系OEMを大きく引き離す数字である。

提言:輸入車増加による国内生産への影響を抑制するとともに、EV3.0/3.5で定められた現地生産義務の厳格な運用を求めている。これらはタイの産業団体による緊急提言とも共通する内容である。

このほか、日本側はバイオ燃料の活用拡大も提言している。B10・B20(ディーゼルに占めるパームオイルの混合比率10%・20%)やE10・E20(ガソリンに占めるエタノールの混合比率10%・20%)などの普及を進めることで、既存の内燃機関(ICE)車やハイブリッド車(HEV)を活用しながら二酸化炭素(CO2)排出量の削減が可能になるためである。EVも発電段階で石炭や天然ガスなどの化石燃料に依存していることから、電動化とは異なるアプローチで脱炭素化をアピールできる。

中国側の反応

タイ産業団体による緊急提言は、国内メディアでも大きく取り上げられた。まず最初に反応したのは、中国側である。現地部品メーカーによれば、緊急提言の後、中国大使館や中華系OEMからの問い合わせが増えたという。さらに、複数のメーカーから部品の見積依頼が来るようになり、中国側はしたたかにも懐柔策に出ていると見られる。タイ政府側は本提言にあたり「特定国を名指ししないように」と添えるなど、中国側に配慮した姿勢が透けて見えることから、今後提言が政策として反映されるまで、相当調整されることが予想される。

今後日本側の要求を実現するためには、過去の貢献のみならず、これからの具体的な貢献策を示すことが求められるだろう。日本は1年に1回、タイ政府と「エネルギー・産業政策対話」を開催しており、今年後半の会合でどのような貢献策を見せられるかが注目される。

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NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal

山本 肇 氏

シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。

野村総合研究所タイ

ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)

《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

TEL: 02-611-2951
Email:nrith-info@nri.co.jp
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Wattana, Bangkok 10110

Website : https://www.nri.com/

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