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連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2023.11.21
タイ工業団地開発大手のアマタ・コーポレーションは1989年設立され、30年以上も主に日本企業を工業団地に誘致する実績を積み重ねてきた。同社は工業団地事業を東部経済回廊(EEC)のラヨーン県とチョンブリ県というタイ国内だけでなく、ベトナムなどの他の東南アジア諸国でも積極展開している。アマタ・コーポレーションの創業者であるヴィクロム・クロマディット会長兼最高経営責任者(CEO)に、タイとベトナムの外国企業誘致政策や中国メーカーの進出、中国経済などについて話を聞いた。
(インタビューは9月28日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
目次
ヴィクロムCEO:日本企業は経営や生産、マーケティングにおいて優れたバックグラウンドを持っているため、コロナ流行にはあまり影響を受けなかった。アマタ工業団地に進出している日本企業のほとんどはうまくいっている。ただ、コロナ後は、タイ国内での日本企業の成長はあまり芳しくなく、ベトナムに投資した企業もある。しかし、タイは東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心でもあり、日本企業の関心は依然高い。
タイ政府はハイテク企業をより積極的に誘致すべきだ。アマタも「アマタシティ・チョンブリ」工業団地に投資するハイテク企業を求めている。他には、200社以上の日本企業が進出している「アマタシティ・ラヨーン」と、ウタパオ空港やレムチャバン港から遠くないバーンブン地区にある「アマタ・チョンブリ2」もあるので、日本企業の投資を歓迎している。
ヴィクロムCEO:東部経済回廊(EEC)はラヨーン県、チョンブリ県、チャチュンサオ県の3つの県をカバーし、シンガポールの14〜15倍という広大な面積を持つ。そして、ウタパオ空港やレムチャバン港などのインフラ施設も整っている。さらに、EECにはタイ政府が直接支援する独自の法律がある。また、EEC事務局長のチュラ・スックマノップ氏は運輸省での勤務経験があり、インフラ整備に貢献できるはずだ。彼は投資家をうまくサポートできると思う。
一方、ベトナム政府は外国人投資家の誘致に非常に力を入れている。国を発展させるには資金が必要だと考えているからだろう。例えば、中国は外国直接投資(FDI)により、国内総生産(GDP)は過去30年間で1人当たり200ドルから1万1000ドルまで増加した。ベトナムも同様のスタンスだ。また外国人投資家誘致のために、多くの自由貿易協定(FTA)を締結している。
さらに、「ベトナム各省市競争力指数(PCI)」があり、地方間の競争を促進している。PCIにより、地方政府は地元への投資誘致に積極的だ。ベトナムは今では世界第2位のスマートフォン輸出国となった。半導体産業にも注力しており、将来的にはベトナムは世界第2位の半導体生産・輸出国になるだろう。
ヴィクロムCEO:タイは自動車産業が非常に優れている。タイで研究開発に成功した企業も多い。しかし、半導体産業に関してはタイに強みがあるとは言えない。半導体産業で最も重要なのは「人材」だが、タイではベトナムと比べて工学を学ぶ人が少ない。そのため、半導体産業の投資誘致には政府の支援政策が必要だ。例えば、半導体に関連する産業に対して50%の法人税控除する税制優遇措置(Tax Incentive)などだ。特に米国は現在、半導体の新しい生産拠点を探しており、良いチャンスだ。
ヴィクロムCEO:中国は気候変動と国内の環境汚染を重視している。汚染はほとんど工場と自動車から発生している。その結果、内燃機関(ICE)車を電気自動車(EV)に変えることが政策の一つになり、まずオートバイから始めた。2012年には中国には既に約2億台のEVバイクがあった。先週も中国に行ってきたが、今はほぼすべてのバイクがEVになった。
中国は現在、乗用車のEV化を積極的に進めている。比亜迪(BYD)などの中国の自動車メーカーは政府から支援や補助金を得てきた。BYDはEV車の開発を強化し、ユニークなデザインで手頃な価格を実現している。また、研究開発にも注力している。
研究開発に投資するトップの国は韓国だが、最近は中国も研究開発への投資を拡大している。私は広汽埃安新能源汽車(AION)の工場を訪問したが、同社は研究開発部門に約1万人のスタッフがいる。これほど研究開発に投資する国は他にはないだろう。
もう一つの要因は原油価格だ。現在ロシア・ウクライナの戦争の影響で原油価格は上昇し続けている。そのため、石油が必要なく充電するだけで走れるEV車は人気が高まっている。
ヴィクロムCEO:何をするにも時間が必要だ。しっかりした木を育てるには時間がかかる。技術の発展も同じだ。時間が品質の確認につながる。品質はそのブランドに対する消費者の信頼感を高める。例えば、長い間経験を積み重ねてきたのがトヨタ自動車で、トヨタ・モーター・タイランドは約60年の歴史があり、「欠陥をゼロにする(zero defect)」というものづくりのノウハウを持っている。
タイには部品サプライヤーが既に多数存在するため、中国の部品企業がタイ国内に新しく工場を開設する必要はない。タイの部品サプライヤーは、60年以上にわたってタイの自動車産業の基礎を築いてきた日本企業が育ててきた。日本は多くのサプライヤーを設立し、アマタの工業団地(タイとベトナム合計)内には500~600社がある。これらのサプライヤーは良くトレーニングされており、品質も管理されているため、良質で適切な価格の製品を作れる。
中国はASEANを良いパートナーだと考えている。中国とASEANの貿易(輸出入)取引は毎年2桁伸びており、中国と米国、中国と欧州の貿易取引より大きい。また、ASEANにおける自動車生産の50%以上がタイで行われている。中国は高品質の部品製造ができるタイを自動車生産・輸出ハブにする計画を持っているため、今後、中国はタイでの自動車生産を増やす見込みだ。中国は今年、年間で400万台以上の自動車を輸出しており、ドイツに次いで世界第2位となっている。
ヴィクロムCEO:タイの部品サプライヤーから買えるなら、中国企業が自社グループで生産する必要はない。サプライヤーを引き連れて来るには時間もコストもかかる。必要なものがタイにあれば、既存のサプライヤーに依頼する。ただ、その既存サプライヤーがニーズを満たすことができなければ、中国のサプライヤーが来るだろう。なぜ中国企業がタイに来るか。それはすべての必要なものが既にタイにあるからだ。
中国はタイの既存の自動車産業を活用していくだろう。オートバイもそうだ。中国企業はオートバイで成功しており、輸出を望んでいる。中国は外貨獲得のために輸出を必要としている。30年前の日本と同じだと思う。米ドルを獲得するために輸出する。米国の昨年の貿易赤字は約9000億ドルだった。そのうちの約4000億ドルが中国との貿易赤字だ。
ヴィクロムCEO:巨額の債務はGDPと財政に影響を与える。不動産部門では、政府が土地の所有者だ。民間の不動産企業は投資・開発のために土地を取得する。そのため、民間部門は破綻する可能性がある。一方、中国政府は多額の現金を持っている。中国に投資する企業はすべて政府に税金を納めなければならないからだ。全世界の現金は約12兆ドルで、中国は約3.4兆ドルを持っている。今年の中国のGDP伸び率は最大でも5%ほどにとどまると思うが、来年以降はもう少し回復するかもしれない。
中国には人口が多い割には、利用できる土地は限られている。緑地や農業用地を守る政策もあるためだ。このため、開発する土地を確保するために農村などに住む住民を高層マンションなどに引っ越しさせる必要があった。この政策により、不動産会社は高層ビルの開発に注力していたが、結局、経営破綻し、住宅価格も下がっている。
ヴィクロムCEO:個人的に面識はないが、彼の仕事の仕方を見ると、経験豊富で実務的な人だと思う。上場企業を経営した経験があるので、国の経済を運営するにあたってどうすればいいかを知っているだろう。タイは立地も環境も良く、面積もシンガポールの約700倍も広いという強みがあるので、もし彼がインドネシアのようにGDPを5~7%伸ばすことができれば、2年以内にタイは貧困層も減少し、犯罪も少なくなるだろう。
ヴィクロムCEO:適材適所だ。家族や国籍にとらわれず、能力を持った人にチャンスを与えるべきだ。タイに進出している日本企業の中には、まだ駐在する日本人幹部が会社を引っ張っている会社もあるが、タイ人に任せる必要がある。能力があれば、誰にでもリーダーになるチャンスを与えられるべきだ。
ヴィクロムCEO:日本はASEANを最も大切なパートナーと考えるべきだ。ASEANは陸地も広く、人口も約6億人の大きな市場だ。さらに日本からさほど遠くない。特にタイはASEANの中心として位置づけられている。タイから飛行機で出発すれば、1~2時間でASEANの大半の国に行ける。自然災害もない。また、ASEANの人は日本を信頼している。タイと日本は60年以上にわたって良好な関係が続いており、信頼関係がある。タイは日本にとって最良のパートナーであり、ASEANは投資先として適していると思う。
多国籍企業を誘致する工業団地開発大手アマタ
スマートシティ構想で事業を加速
今回の「Open Innovation Talk」は、タイのEEC域内でスマートシティ開発に取り組むアマタ社の事業戦略と、さらに日本企業との協業のチャンスについて深掘りしていきます。
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