
カテゴリー: 対談・インタビュー
連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2026.08.10
転換期を迎える製造業の課題解決に、ITの力で応えるThai NS Solutions。徹底した現場主義のもと、日タイのエンジニアチームでシステムの構築から運用までを伴走する。近年はデジタル技術の急速な進化に対応するべく、タイのIT企業との連携も開始。「共創を支える生命線となるのは、強固な組織づくり」と語るマネージング・ダイレクターの渡辺慎介氏に、進化し続けるための戦略的共創や、独自の人材育成の在り方について聞いた。
目次
当社の設立は2013年、まさにタイ市場の役割が大きく変わろうとしていた頃です。2010年代は賃金の上昇やタイ政府の「タイランド4.0」政策により、単なる生産拠点から、周辺国を巻き込む地域統括拠点へと高度化を目指す時期でした。
この変化に伴い、製造業におけるIT化の必要性が増し、事務処理の効率化から経営判断を支えるリアルタイムなデータ活用、現場の自動化へと求められる働きが変わってきました。こうした質の高いITへのニーズに応えるため、日鉄ソリューションズのタイ法人は設立されました。
われわれのルーツは日本製鉄の情報システム部門にあります。製鉄所のシステムは、数万点におよぶ多品種少量生産を24時間365日、1秒たりとも止めずに管理し続けることが求められます。こうした、止めることが許されないミッションクリティカルなシステムを構築・運用してきた経験こそが、当社の強みになっています。
そしてこの強みから、大きく2つの特徴が生まれました。1つ目は企画から構築、運用までをワンストップで伴走する「システムライフサイクルソリューション」の提供です。2つ目は、現場主義です。タイ人のエンジニアの間でも「GENBA」という言葉が浸透するほど、現場感覚を重視し、「良いシステムは現場の言葉を理解して初めて機能する」という考え方が根づいています。
最近は、タイも日本と同様に少子高齢化や若者の職業選択の多様化により、製造業は構造的な人手不足に直面しています。限られた人員で成果をあげるという課題とともに、ノウハウが特定の個人に留まっている属人化への不安を抱える企業も少なくありません。さらに近年はサイバーセキュリティへの需要も高まっています。
こうした現状を踏まえ、当社では、①基幹システム(ERP)による経営の「見える化」の実現、②IoTや人工知能(AI)を活用した生産管理と製造現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援、③サイバー攻撃から資産を守るインフラセキュリティ、の3つの軸で幅広いITサービスを提供しています。
経営を可視化し、現場の業務を標準化することで、従業員の負荷を下げる。そこで生まれた余裕を、次の改善活動へとつなげていく。導入して終わりではなく、顧客の「現場の力」となる共創パートナーであり続けたいと考えています。
これからの時代、もっとも重要なのは、一社だけで完結させないというオープンな姿勢ではないでしょうか。急速に変化するデジタル技術のすべてを、自社だけでカバーするのは至難の業です。顧客にとってベストな価値を提供するためには、他社のすぐれた技術と自社の強みを組み合わせる「戦略的共創」が欠かせません。
タイのIT業界には、競合とみなされうる企業も含めて他社と協力し合い、顧客の最適解を提案するという土壌があります。役割を分担し、最高のピースを持ち寄る。それがわれわれの共創のスタイルであり、この姿勢がタイ企業との戦略的提携にもつながっています。
2022年からはSAPプロバイダであるRound Two Solutions社と業務提携を開始し、SAPソリューションの提供を行っています。これまで主軸としていたMicrosoft製品に加え、新たにSAPを連携させることで、大規模な基幹システムの刷新に柔軟に対応できるようになりました。
また、2025年からは、タイ国最大手クラスのシステムインテグレータ(SIer)であるG-Able社との包括的提携もスタートしています。タイローカル企業を顧客に多く持つG-Able社との協力によって、お互いの顧客基盤を活かしながら、得意の領域を補い合い、より広範なIT課題に応えられるようになりました。
日本企業は品質を大事にするため、どうしても時間とコストがかかりますが、タイ企業はスピード感を重視して業務を進め、稼働しながら修正するというスタンスをとります。開発カルチャーの違いから学ぶ面も非常に多いと感じています。
タイ人は信頼を非常に大切にし、ハートフルな関係のもと、ビジネスが成り立っています。そうしたタイの文化に敬意を払う姿勢があってこそ、エンゲージメント施策も活きるのではないでしょうか。
当社では、人事総務マネジャーを務めるタイ人スタッフが先頭に立ち、「人と人とのつながりを戦略的にデザインする」「多様なバックグラウンドを有機的につなぐ」という考えのもと、日タイ双方の文化を融合させたエンゲージメント施策を推進しています。こうした施策を通じて、「この人とともに会社を成長させていこう」という思いの醸成に取り組んでいます。
その成果の表れか、ジョブホッピングが一般的なタイにおいて当社の離職率は約1.5%と極めて低く、人材の定着が進んでいます。その結果、個々の社員が得た知見を社内で循環させ、次の提案に活かすことができます。この「知見の循環(スパイラルアップ)」こそが、長期にわたって安定的な品質を支える原動力であると考えています。
シンプルなことですが、役職やレイヤーを問わずに多くの社員に話しかけ、意見に耳を傾けるようにしています。さらに私が試みているのが、タイの歌の練習です。社内パーティーに向けて、毎朝タイの言葉とリズムを体に染み込ませる時間が、いまでは欠かせないルーティンになっています。
タイの文化や言葉を尊重し、ともに成長する意志を示していく。いわゆる社長らしい貫禄を示すのではなく、身近な存在でいることが、社員の心理的な安心感をもたらし、結果、パフォーマンスの向上や自発性につながっていると思います。
前任者が築いた顧客基盤を、より強く磨きあげるのが私の役割です。人材育成や現地化はすぐに達成できるものではありませんが、5年後、10年後を見据えたときに、いまの取り組みが揺るぎない会社の耐久力になると信じています。この耐久力を向上し続けることこそが、変化の激しいタイ市場においてお客様の事業を支え続けるための私たちの責任です。
Thai NS Solutions Co., Ltd.
マネージング・ダイレクター
渡辺 慎介 氏
2003年、日鉄ソリューションズに入社。金融ドメインのエンジニアからキャリアをスタートし、2014年に人事部門へ異動。2020年から九州の国内子会社で取締役企画管理部長を務めた後、2024年より日鉄ソリューションズのタイ法人・Thai NS Solutionsに赴任し、現職に就任。管理部門での知見を活かし、組織強化に取り組む。

THAIBIZ編集部
杉浦亜希子


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