カテゴリー: 対談・インタビュー, 食品・小売・サービス
連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2024.09.30
1889年に三重県桑名市で味噌・醤油醸造で創業し、130年以上の歴史を誇るヤマモリ。現在は、醸造技術を活かした、調味料各種やレトルト食品など商品の多角化を図り、総合食品メーカーへと成長を遂げている。タイでは業務用醤油において圧倒的なシェアを誇り、さらに日本市場向けのレトルトタイカレーを製造・販売するなど食を通じた日タイの架け橋のリーディング・カンパニーだ。ヤマモリトレーディングの長縄光和社長に、同社のこれまでのタイでの取り組みや今後の展望などについて話を聞いた。
<聞き手=mediator ガンタトーン>
目次
長縄社長:タイ進出は、1988年に日清製粉ウェルナ社と共にパスタのミートソースなどを製造する合弁会社を設立したのがきっかけでした。
その後、日本の伝統調味料である醤油事業をタイで開始するにあたり、1995年にヤマモリトレーディングを設立し、1997年から販売を開始しました。タイには、唐揚げやあられなどの食品工場が多く、まずは原料醤油の供給から始まり、2000年には日本市場向けにレトルトのタイカレーの製造販売を開始しました。2004年にレトルト食品と調味料の生産会社サイアムヤマモリを設立、さらに2013年には醤油醸造会社ヤマモリ(タイランド)を設立し、現在タイには当社を含め、3つの会社があり、醤油を軸とした調味料やレトルト食品の事業を拡大しています。
当社売上の90%はタイ国内で、残り10%が輸出。その内レストランなど業務用が80%で、残り20%が家庭用です。ジェトロの発表によると、2023年のタイの日本食レストランは5,700店舗を超えています。私が最初にタイに赴任した1997年は300店舗程度でした。この日本食市場の拡大に伴い、当社もタイでの事業を順調に成長させてきました。
長縄社長:タイで日本の伝統調味料である醤油を展開するだけでなく、タイの拠点を活かして、日本にタイの食文化を広めていきたいという思いから、タイカレーの販売を始めました。今でこそタイ料理は、日本で爆発的な人気を誇っていますが、私が1度目のタイ赴任から戻った2002年頃は、まだタイカレーは日本の市場にはほとんど並んでいませんでした。特に私が担当していた名古屋・大阪エリアでは、タイカレーの独特な風味はなかなか受け入れられにくく、スーパーマーケットに置いてもらうことも難しかったのです。しかし、その後状況は変化し、関東から徐々に人気が広がり、今では日本のレトルトタイカレー市場ではNo.1のシェアを持つまでになりました。
長縄社長:当社は日系の醤油メーカーでは、唯一タイに自社工場を持っており、開発部門もタイ拠点に置いています。これによりタイ市場に合わせた味を提供できることが当社の強みの一つです。人は生まれ育った国の食文化に慣れているため、必ずしも「本物の味」が受け入れられるとは限りません。例えば、多くのタイ人にとって日本の醤油はしょっぱく感じることが多いため、タイ市場向けの商品には塩分を抑え、旨みや甘みを足すなど現地のニーズに合わせた商品開発を行っています。
また、ヤマモリ(タイランド)の工場は、日本国外の醤油工場としては初となるJAS工場認定を受けています。さらにタイには約400万人のイスラム教徒が暮らしており、イスラム圏からの旅行者も多く訪れます。今後のイスラム市場への拡大を見据え、サイアムヤマモリ、ヤマモリ(タイランド)ともにハラル(イスラム法で許されたもの)認証を取得しています。
長縄社長:タイでの日本食需要の増加に伴い、いくらなどの冷凍魚介類や和牛の輸入販売が好調で、さらに最近ではジャムやあんこなどのベーカリー商品の開発にも挑戦しています。タイは、テストマーケティングがしやすい環境であるため、今後も積極的に新規事業に挑戦していきたいと考えています。
また、以前から日本の調味料はタイの調味料に比べると価格が高いという課題がありました。そこで、2年前に新たにOMAKASEブランドの調味料を発売しました。同ブランドは38バーツという手頃な価格設定で、現地のスーパーマーケットを中心に展開しています。タイはもともと外食文化が根付いていますが、今後は家庭でも日本の調味料を使って日本食を作る、食文化そのものを伝えていけるよう販促を強化していきたいと考えています。自炊の習慣がない人でも食材を加えるだけで簡単に料理が完成する麻婆豆腐や釜めしなどのレトルト食品の普及にも力を入れていきたいと考えています。
一方、タイでも近年急速に健康意識が高まり、糖質カットや無砂糖の調味調など健康を意識した商品は重要なカテゴリーになっており、今後も健康志向の商品開発に取り組んでいきたいと考えています。
長縄社長:相手のニーズに対してどのような提案ができるか、そして単に求められているものだけでなく、食文化や市場のトレンドなどを踏まえた提案ができるかが重要だと思います。一方的にお願いをするだけではビジネスは成り立ちません。お互いに成長できる対話を重ね、良好な関係を築くことを心がけています。
長縄社長:現在、当社ではタイ人社員約50名、日本人6名が働いています。開発部門もタイにあり、営業やマーケティングも現地で行っているため、現地スタッフが主体となって活躍しています。人材の定着率もよく、特に幹部クラスには、30年前の創業当時から勤めている社員もいます。しかし、会社の次の成長を見据えた時に、特に幹部社員の育成は必要不可欠であり、日本や外部の専門機関と連携し、人材育成プログラムを強化することが重要な課題となっています。当社は来年30周年を迎えます。その節目を機に、ヤマモリグループ内で人事交流が活発化し、ボーダレスな組織づくりを目指していきたいと考えています。
長縄社長:現在、ヤマモリグループの海外拠点はタイのみですが、将来的には他国にも拠点を広げ、海外事業をさらに発展させる計画です。特に当社のハラル認証を取得した商品は、海外展開における大きな強みだと考えています。現在、約18ヵ国に輸出を行っていますが、例えば、今後提携先の企業がドバイなどイスラム圏などに進出する際には、当社も一緒に進出し、お互いにシナジーが生まれることを期待しています。
また、シラチャの日本人学校の小学生を対象に、社会勉強の一環として工場見学を行っており、今年で3年目です。工場見学では、醤油の製造工程はもちろんですが、日本企業や海外で働くことの意義についても説明をしています。2024年は在タイ日本大使館の関係者にも出席をいただき産官学が連携した取り組みは、今後も継続して社内に根付かせていきたいと考えています。
THAIBIZ編集部
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