ハブ機能を発揮し、日本品質ブランドの普及を目指す ~ヤマサアジアオセアニア鹿沼篤志社長インタビュー

ハブ機能を発揮し、日本品質ブランドの普及を目指す ~ヤマサアジアオセアニア鹿沼篤志社長インタビュー

公開日 2025.02.10

日々の食卓でお馴染みの醤油や調味料を製造・販売するヤマサ醤油株式会社は、実に380年の歴史を持つ老舗企業だが、タイ進出を果たしたのはほんの16年前のこと。「タイではまだまだ新参者だ」と言いながらも穏やかな笑顔を見せるのは、アジアおよびオセアニアを対象地域として事業を展開するヤマサアジアオセアニア株式会社の鹿沼篤志社長だ。今回は、同社の沿革やタイでの取り組み、および今後の展望について話を聞いた。

ヤマサアジアオセアニア鹿沼篤志社長インタビュー01
ヤマサアジアオセアニア鹿沼社長(左)、mediatorのガンタトーンCEO(右)

「日本の味をそのまま再現したい」ニーズに応えてタイ進出

Q. タイにおける御社の歴史と取り組みについて

鹿沼社長:2008年に、タイ大手調味料製造メーカーとの合弁会社「ヤマサタイランド株式会社」を設立したことが、タイ進出の始まりでした。2016年のBOI規則変更に伴い100%独資での卸事業展開が可能になったことで、現在のヤマサアジアオセアニア株式会社となりました。その後も、同社に製造を委託しており、技術者を出向させるなど品質を担保しながら、関係性は続いています。

当社は、①日本産醤油・調味料の輸入販売、②タイ産醤油・調味料の開発・販売、③顧客ニーズを日本と同レベルで再現可能な特注商品の開発・販売ーの3事業を展開しています。醤油をはじめ、めんつゆ、たれ、ソース、ドレッシングなどをヤマサの商品として製造販売するほか、オーダーメイドで調味料を作ることで、お客様のニーズに寄り添ったサポートをさせていただいています。

タイ進出当初は、「日本の味をそのまま再現したい」というニーズを持つ日系食品加工メーカーや日系外食チェーン、海外進出した日本食料理人、在タイ日本人駐在員などがメインターゲットでしたが、日本食ブームが到来し、日本の味がローカルにも広まると、タイ人好みの甘めの醤油やスパイシーな調味料なども開発・販売するようになりました。

Q. グローバル展開におけるタイの位置づけは

鹿沼社長:ヤマサの海外展開は、アメリカ進出が起点でした。1994年、オレゴン州にヤマサ初の海外工場を建てました。現在この工場から米国全土にヤマサ醤油を出荷しています。また、傘下のSan-J International社は「たまり醤油」をメインに製造していますが、小麦を使わないのでグルテンフリーブームで軌道に乗り、米国の中でも高いシェアとなっています。その他、ヨーロッパにも販売拠点があり、ヤマサブランド製品は全世界60ヶ国以上で流通しています。

タイに拠点を置く当社は、日本では対応が困難なハラル醤油や調味料の市場可能性に逸早く着目し、インドネシアやマレーシアなど周辺ムスリム国に十数年前から輸出するなど、アジア・オセアニアの中でもハブ的な立ち位置にいます。ちなみに今年、インドネシアに販売会社を設立しました。当社は日本製醤油でインドネシアハラル認証を有していますが、タイでの取り組みを応用しながら、前途有望なインドネシア・ハラル市場において、より現地に根付いた活動を行っていく予定です。

ヤマサアジアオセアニア鹿沼篤志社長インタビュー02
タイで販売されているヤマサの商品の一部

代々受け継がれた「ヤマサ菌」で差別化図る

Q.「ヤマサ菌」から生まれる、ヤマサ醤油の特徴について

鹿沼社長:ヤマサは創業当時の江戸時代からずっと、醤油を醸造するたびに品質の良い麹菌の選別と育成を繰り返してきました。こうして守り受け継がれてきた優良な麹菌がヤマサ菌です。ヤマサ醤油が持つ特有の色や香り、味は、このヤマサ菌から生まれます。

例えば、ヤマサ醤油は明るい赤色。日本料理の出来栄えが綺麗になるとの理由から、多くのプロの料理人からヤマサを指名していただいています。また、香りが立つ特徴があり、生魚の生臭さをマスキングする効果もあるため、刺身や寿司などの日本料理とも非常に相性が良いと言われます。ありがたいことに、これらの特徴を理由に、昔からヤマサを愛用してくださっている料理人が海外でもヤマサを使ってくださったり、現地ローカルのお弟子さんも同じようにヤマサを愛用してくださったりと、国境や時代を超えたお客様との関係が生まれています。
 

日本食のローカル化が進むタイ

Q. ここ10年ほどで、タイの日本食産業はどう変化したか

鹿沼社長:私が現職に着任した10年前は、毎月何軒もの日本食レストランが日本から進出していましたが、コロナ禍でその動きがストップし、その後もバンコクでは店舗数の増加率は緩やかな印象です。一方で、日本人が知らないようなローカルチェーン店がバンコク郊外や地方都市で爆発的に増えています。

日本食を本場の味で出すのではなく、タイ人向けにアレンジした「日本食のローカル化」が進んでいるため、私たちもその波に乗り遅れないよう開発部門や営業部門のローカライズを推進しています。具体的には昨年から、チョンブリーおよびコラートに専属のタイ人営業社員を常駐させ、ヤマサの商品の普及に努めています。

Q. 組織体制のローカル化について

鹿沼社長:3年ほど前に、年功序列的な昇格制度を見直して、仕事のパフォーマンスや成果によって昇格を決める制度に変更しました。当時は少なからず反発もありましたが、徐々に定着しつつあるように思います。昨年、初の試みとして新卒採用も始めました。

今は、10年勤めているタイ人マネジャーがうまくローカルスタッフをまとめてくれていますが、今後はローカルスタッフがさらに関与できる体制にしたいと考えています。タイの人たちに向けた製品については、タイの人たちの価値観をベースに攻め方も含めて意思決定すべきだと思うからです。

ヤマサアジアオセアニア鹿沼篤志社長インタビュー03

日本品質ブランドの普及には欠かせない「料理人の育成」

Q. タイにおけるマーケティング戦略について

鹿沼社長:ヤマサは、すしの調理衛生指導者の資格「すし知識海外認証制度」の活動を担う「一般社団法人 国際すし知識認証協会」をサポートしています。同協会は2013年より、外国籍の寿司職人を対象に寿司の衛生管理や調理技術を競い、世界一の寿司職人を決定する大会「World Sushi Cup(ワールドすしカップ)」を開催しています。

世界中の寿司職人の中からチャンピオンに選ばれた人には名誉ある「称号」が付与され、歴代チャンピオンは皆さん各国で大成功して寿司ドリームを叶えています。世界中でワールドすしカップの予選会が開催されていますが、2025年タイでも予選会が開催される予定です。

マーケティングとして派手なプロモーションをかけることも大事かもしれませんが、和食を手がけるタイやアセアン諸国の料理人の知識や経験を育て、レベルを引き上げていくことが、ひいては日本ブランドであるヤマサ製品の普及にも繋がると考えています。「料理人から愛され続けてきた老舗の醤油」という他にはないヤマサの強みをタイやアセアン諸国で活かすためにも、ローカル料理人の育成には力を注いでいきます。

Q. タイにおける今後の展望について

鹿沼社長:まずは、アジアのハブ機能を最大限発揮することで、タイをはじめアジアでの立ち位置の確立・拡大を目指しています。

また、最近では日本からタイに来る人よりも、タイから日本に行く人が増えており、ゲームチェンジが起きています。日本で本物の日本食の味を知ったタイの方々が「タイでもこの味を楽しみたい」と思った時、オーセンティック日本の品質と創業380年の老舗のブランド力を持つヤマサの強みが活きると思っています。

そこで今年からタイ製のみならず、“本懐石”ブランド等の高付加価値日本製醤油・調味料のラインナップ拡充を図りました。バンコクのみならず地方でも、ローカル化した味付けだけではなく、本物の日本の味を求めるお客さんへのビジネスチャンスは今後益々増えていくでしょう。「ヤマサの調味料が必要だ」と感じてもらうためにも、ワールドすしカップのサポートをはじめ、引き続き料理人のレベル向上に向けた取り組みも行っていきます。

THAIBIZ編集部

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