日タイで磨く開発力!三菱ケミカルの環境素材革命

THAIBIZ No.174 2026年6月発行

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日タイで磨く開発力!三菱ケミカルの環境素材革命

公開日 2026.06.10

ものづくりを取り巻くサステナビリティの潮流が加速するなか、サステナブル素材の開発は喫緊の課題となっている。こうした状況下で重要となるのが、顧客に近い現場でニーズを捉え、開発・生産へと迅速につなげる体制の構築だ。

素材大手の三菱ケミカルタイランドはその好例だ。とりわけコンパウンド事業では、タイの現地顧客からの強い要請を受け、日本人とタイ人のエンジニアが一体となり、サステナブル素材の研究開発に取り組んできた。

本特集では、オニール・レメディオス社長に、同社が推進するサステナブル素材開発の取り組み、それを成功に導いた研究開発体制、および今後の展望について話を聞いた。

グリーン・スペシャリティ企業を目指す三菱ケミカル

三菱ケミカルグループは2024年11月、経営方針「KAITEKI Vision 35」および5ヵ年計画である「中期経営計画2029」を公表。パーパスとして掲げる「KAITEKI(人、社会、そして地球の心地よさが続いていく)」の実現と、企業としての持続的成長の両立を打ち出した。2035年に向けては、「社会課題に最適なソリューションを提供し続け、素材の力で顧客を感動させるグリーン・スペシャリティ企業」を目指すとしている。

オニール社長は、「グループ全体として、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、サステナブル素材の開発に注力し、イノベーションを通じたサステナブル製品の開発や製造工程の脱炭素化を進めている」と説明する。

オニール・レメディオス 社長
Mitsubishi Chemical (Thailand)Co., Ltd

オーストラリア出身。特殊化学業界で25年以上の経験を持ち、インド、シンガポール、タイなどで事業成長や市場拡大を牽引。2024年に三菱ケミカルグループ参画。現在は三菱ケミカルタイランド社長兼APAC地域VPを務める。

タイ拠点で推進される脱炭素化の取り組み

タイ拠点である三菱ケミカルタイランドは、①チョンブリー工場が担う「コンパウンド事業」、②ラヨーン工場が担う「食品包装・機能フィルム事業」、③耐衝撃性や耐熱性に優れた「エンジニアリングプラスチック(高機能)樹脂事業」、④日本から材料を調達しタイ国内で販売する「トレーディング事業」-の4事業で構成されている。同社でも、新たに掲げたグループ方針のもとで、具体的な環境の取り組みを推進中だ。

太陽光パネルの設置により社内使用電力の15%を再生可能エネルギーで賄うほか、倉庫の最適化による輸送工程の削減、物流パートナーへの電気自動車(EV)トラック導入の推奨、木製パレットから再生可能で高強度なプラスチックパレットへの切り替えなど、エネルギー効率の向上に力を入れているという。

さらにオニール社長は、「KAIZENフィロソフィーのもと、生産効率の改善に向けた活動に継続的に取り組んでいる」と社内の取り組みを強調。「オペレーションの効率化やエネルギー削減に向けた投資の積み重ねが、最終的には持続可能な社会への貢献につながる」と語る。

顧客の要請に応じてサステナブル素材を開発

グリーン・スペシャリティ企業を目指し、研究開発(R&D)機能を有する同社では特に、①EV向けの軽量化素材や熱管理素材の開発を行う「環境配慮型モビリティ」、②パッケージ素材の改善による食品の保存期間(シェルフライフ)延長に取り組む「食の品質保持」、③持続可能な素材の安定供給を目指す「グリーン・ケミカル※1の供給基盤」の3分野に重点を置いている(図表1)。
※1 自社製品および顧客製品の環境負荷を低減する基礎化学品およびその誘導品

なかでも注力しているのが、R&Dチームを中心としたコンパウンド事業におけるサステナブル素材の開発だ。同事業で取り扱うポリ塩化ビニル(PVC)※2には通常、熱による劣化や変色、性能低下を抑えるための「安定剤」として、性能面およびコスト面で合理的とされる「鉛」が使用されることが一般的だ。

同社も従来、建築材料向けに鉛安定剤を使用した「硬質塩ビ(PVCの一種)」を販売していたが、2022年より欧州の輸入規制に対応するため、「鉛フリーの硬質塩ビ」の開発に着手。2023年に日本、2024年にタイで販売を開始している。

※2 世界中で広く使われている汎用プラスチックの一種。パイプ・建材などに使われる「硬質塩ビ」と、電線・ホースなどに使われる「軟質塩ビ」の2種がある。

今後のニーズ拡大を見据え、タイのR&Dチームが実現

オニール社長は「人体や環境に悪影響を及ぼすとされる鉛安定剤は、年々規制が強化されている。そのため、タイの顧客からも鉛フリー製品の開発要請があった。技術的なハードルは非常に高かったが、試行錯誤の末、開発・販売を実現することができた」と説明する。現時点では、鉛安定剤を使用した硬質塩ビを多くの用途において規制しているのは欧州のみだが、この流れは今後、他の国・地域にも広がると同社長はみている。

「今後ニーズの拡大が見込まれる分野に、当社のR&Dチームが挑戦した。耐久性やコスト面などさまざまな課題があったが、それらを乗り越え販売まで実現したチームを誇りに思う」と、同社長はR&Dチームを評価する。

コーヒーの出し殻を有効活用した開発にも成功

PVCに柔軟性や加工性を持たせるために添加する物質を「可塑剤」といい、これにより硬いPVCは「軟質塩ビ」となる。同社のR&Dチームは、この可塑剤に再生可能資源を活用する取り組みにも挑戦している。

オニール社長は「まだ販売段階には至っていないが、R&Dチームが最終的に、コーヒー焙煎後の出し殻とバイオ由来の可塑剤を使用した特殊な軟質塩ビの開発に成功した」と説明。現在は新規販売に向けたマーケティングを進めているという。

このように同社では、コンパウンド事業におけるPVC分野において、タイの顧客およびグローバル市場のニーズを的確に捉え、日本人とタイ人のエンジニアが一丸となって製品開発を推進してきた(図表2)。

「顧客やサプライヤーとの距離の近さ」が強み

こうした成功事例の背景には、タイにR&Dセンターを有することで、顧客やサプライヤーと物理的に近い距離を保ち、ニーズの把握や試作品へのフィードバック、それらの現地生産への反映を迅速に行えるという同社の強みがある。

オニール社長は「日系顧客には日本人社員が、タイ顧客にはタイ人社員が対応し、日々きめ細かいコミュニケーションを図っている。鉛フリーの硬質塩ビの開発も、顧客との対話から生まれたものだ」と語り、顧客との近接性の重要性を強調する。

こうした強みをさらに加速させているのが、徹底した「内製化」の体制だ。「例えば、コーヒーの出し殻とバイオ由来の可塑剤を活用した軟質塩ビの開発では、R&Dチームが調査から設計、試作、生産までを一貫して内製で実施した。その結果、試作に対する顧客のフィードバックを即座に改良へと反映でき、短いリードタイムでの開発を実現できた」と同社長は明かす。

また、コンパウンド事業においては、「新規分子の合成や特殊な測定機器を必要とする場合を除く9割以上の開発案件について、本社を介さず現地で意思決定を行っている点も、スピード感のある開発を可能にしている要因の一つだ」という。

さらに、日本、中国、東南アジア、欧米などに広がる三菱ケミカルグループのR&Dネットワークと知見を共有し、効率的な開発を進めている点も特長である。同グループには、日本・横浜の主要R&D拠点「サイエンス・イノベーション・センター」をはじめ、世界各地に約20のR&D拠点が存在する。各拠点がそれぞれの強みを生かしながら技術や知見を共有することで、グローバル全体の開発力を強化しているという。

グループ全体で取り組む人的資本の価値の最大化

難易度の高い新素材開発に対し、現場からネガティブな反応は出なかったのか。オニール社長はこの問いに対し「全くなかった」と即答したうえで、「当社のR&Dチームは非常にオープンで、新たな取り組みや製品開発にも前向きだ。多様性を尊重し、現場のスタッフから経営陣まで意見を言いやすい風通しの良い企業文化が、イノベーションを生み出している」と語り、三菱ケミカルグループのオープンな社風がタイ拠点にも根付いていることを明かした。

同グループは、人材を「価値創造の源泉であり、企業としての成長やパーパス実現の原動力」と位置付けており、「KAITEKI Vision 35」および「中期経営計画2029」の実現に向けて、人事戦略を経営戦略と連動させ、人的資本の価値最大化にも取り組んでいる。

具体的には、「グローバルでの最適な人材配置・登用」を軸としつつ、成長や挑戦の機会創出を通じた「ポテンシャルを最大化できる環境」の整備、トップタレントが集まり高いエンゲージメントを実現する「魅力ある企業グループ」の構築、そして、適切な権限移譲と要員管理を通じた「生産性の高い組織」の実現を目指している(図表3)。

タイ拠点において、現地顧客のニーズを的確に捉え、現地主導の製品開発を成功させている背景には、こうしたグループ理念が海外拠点に着実に浸透していることもあるといえそうだ。

長期的には、タイのR&Dセンターを技術的ハブに

オニール社長は、サステナブル素材の今後の成長可能性について「非常に期待できる」としたうえで、「実際に開発を通じて実感したのは、サステナブル素材は顧客ニーズへの対応にとどまらず、品質や費用対効果といった側面でも優れているという点だ」と語った。

さらに、タイでは自動車の電動化が急速に進んでいることを踏まえ、「EV向けの軽量化素材やサステナブル素材を当社が提供することで、タイ社会の電動化にも貢献できる」と述べ、同分野における今後の成長に期待を示した。

三菱ケミカルタイランドの中長期ビジョンについてオニール社長は、「短期的には国内市場の成長に注力する一方で、中長期的にはタイの生産拠点およびサプライチェーンの強みを生かし、アジアをはじめとする海外市場への輸出拡大を図る」と説明する。

そのうえで、「タイのR&Dセンターを、インド、インドネシア、ベトナムなどアジア太平洋地域全体を支える技術的ハブへと成長させたい。鉛フリーの硬質塩ビやバイオベース軟質塩ビの開発は、その実現に向けた重要なステップだ」と述べ、タイ拠点の開発力へも大きな期待を示した。

環境規制の強化や市場ニーズの高度化が進む中、素材メーカーに求められる役割は大きく変化している。三菱ケミカルタイランドの取り組みは、タイ拠点が単なる生産拠点にとどまらず、グローバル市場を見据えた開発拠点へと進化しうることを示している。

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 白井恵里子

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