東南アジアで広がるバイオメタンの事業機会(後編)

THAIBIZ No.173 2026年5月発行

THAIBIZ No.173 2026年5月発行いま、日本のスタートアップがタイに向かう理由

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東南アジアで広がるバイオメタンの事業機会(後編)

公開日 2026.05.11

前編(THAIBIZ 2026年4月号)では、バイオメタンを単なる環境燃料ではなく、既存の天然ガス需要を低炭素化する現実的な手段として捉えるべきこと、そして東南アジアではパーム油工場廃液(POME)、家畜ふん尿、農業残さ、都市ごみなど、多様な原料が存在することを整理した。

加えて、この分野は各国の廃棄物活用にとどまらず、脱炭素、資源循環、エネルギー安全保障、域内取引までをまたぐ事業テーマへと広がりつつあることも見てきた。本稿では、その前提の上で、日系企業がどのような視点でこの機会を捉えるべきかを考えたい。

バイオメタン事業を見る二つの視点

バイオメタン事業を考える際には、二つの視点が必要である。第一は、事業化を左右する論点は何か。第二は、自社がバリューチェーン上のどのレイヤーで関与するのが適切か、である。重要なのは、この二つを切り離して順番に処理することではなく、行き来しながら見ることである。

ある案件が事業として成立し得ても、自社にとって取りにいくべき役割が同じとは限らない。逆に、自社に向くポジションが見えても、原料や需要の条件が整わなければ前に進まない。この二つの視点を重ねて見ることが、検討の出発点となる。

①バイオメタン事業化を左右する主要論点

図表1に示す通り、主要論点は四つである。第一は原料だ。量だけでなく、品質、立地、季節性、集荷のしやすさまで見極める必要がある。東南アジアは原料の裾野が広い一方、国や地域ごとの差も大きく、案件ごとの違いを生む最大要素でもある。

出所: 各種二次情報を基にRoland Berger作成

第二は需要である。バイオメタンは既存の天然ガス用途に入りやすいが、誰が、どの用途で、どの条件なら受け入れるかが見えなければ案件は立ち上がらない。

第三は事業性である。技術的に成立しても、規模やコストが合わなければ事業にはならない。原料特性や前処理、輸送距離、既存設備の活用可否によって採算は変わる。

第四は制度・証明である。政策支援や規制に加え、由来管理、環境価値の移転・証明、ダブルカウント防止といった仕組みが、特に広域取引や環境価値を伴う取引では重要になる。

四つの論点は独立ではなく、相互に影響し合う。例えば、制度設計によって需要の見え方が変わり、戦い方の選択によって必要な事業性の水準も変わる。

②どこで価値を発揮して戦うのか

同時に検討すべきは、バリューチェーン上のどこで戦うかである。価値は生産設備だけにあるわけではなく、原料確保、バイオガス生成、バイオメタン化、供給、販売・取引まで、複数の関与ポイントがある(図表2)。

出所: 各種二次情報を基にRoland Berger作成

案件の性質や自社の強みによって、原料起点・生産型、バイオガス集約・バイオメタン化型、供給・販売型、証書・トレーディング型など、取りうる戦い方は変わる。

重要なのは、どの型が優れているかを一律に決めることではなく、どの型なら案件条件と自社の強みが噛み合うかを見極めることである。加えて、単独で完結しない領域だからこそ、どの機能を自社で担い、どこをパートナーで補完するかという設計も重要になる。

事業機会をどう見極めるべきか

日系企業にとって有効なのは、既存の事業資産を起点に仮説を置くことである。①食品、農業、排水処理、廃棄物に近い企業であれば原料アクセスが、②エネルギー、ガス、物流、設備に強い企業であればバイオメタン化設備や供給・販売との接続が、③需要家との関係を持つ企業であれば販売先の組成や需要集約が、それぞれ強みになりうる。

実際の検討においては、まず自社の強みから仮説を置き、その仮説に照らして四つの主要論点を見直し、必要に応じて戦い方を修正する、という行き来しながらの絞り込みが求められる。その際に重要なのは、自前主義にこだわらないことである。

バイオメタンは、原料、技術、需要、制度対応のいずれか一つだけで完結する事業ではない。だからこそ、どの機能を自社で担い、どの機能を外部パートナーと補完し合うのかを含めて、全体のバリューチェーンを設計する発想が重要になる。

日系企業にとっての現実的な出発点は、自社が最も優位性を発揮できる工程を見極め、そこを起点に勝ち筋を組み立てることである。全面参入か部分参入かを最初から固定せず、案件条件を見ながら関与の深さを調整する発想も欠かせない。

おわりに

東南アジアで広がるバイオメタンの事業機会は、単に再生可能エネルギーが一つ増えるという話ではない。廃棄物処理、資源循環、ガス需要の低炭素化、エネルギー安定供給、広域取引の仕組みづくりまでを含む複合的な事業テーマである。国ごと、案件ごとに条件は大きく異なるが、だからこそ早い段階から自社に合う立ち位置を見極めた企業には、事業機会が開かれる余地が大きい。

東南アジアのバイオメタン市場は、まだ一つの勝ち筋にした段階にはない。他方で、だからこそ今は、全体像を俯瞰しつつ、自社にとって現実的な起点を押さえる企業に先行余地がある局面だと言える。特定の正解を急ぐより、まずは自社が踏み込める役割を見極めることが重要である。

Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk

下村 健一 氏

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
kenichi.shimomura@rolandberger.com

Roland Berger Co., Ltd.
Senior Project Manager, Asia Japan Desk

橋本 修平 氏

京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。

Roland Berger Co., Ltd.

ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート

140 Wireless Building, 20th Floor, Unit C, 140 Wireless Road, Lumpini Subdistrict, Pathumwan District | Bangkok 10330 | Thailand

Website : https://www.rolandberger.com/

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